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店舗日誌 三ページ目

 故郷で就職難民していたわたくしが異世界に落っこちてきて竜なんていう想像上にしか存在しないと思っていた存在に拾われ、あれよあれよという間に竜相手の本屋の店員になってはや数ヶ月。遠い世界の我が家族よ。わたくしは自分の中にある常識の崩壊と再構築を繰り返しながらもどうにかこうにか生活できていますぞ。ご安心くださいね。


「ふぁ~~」

 あ、朝から見苦しいところをおみせして申し訳ございません。異世界トリップして異世界に就職したマイカでございます。 

 欠伸をしながらも開店準備を進める手は止めません。なにせ一人でこの店舗の掃除やら釣銭の準備やら取り置き本や注文の確認などなど山ほどある雑務を開店までに完璧にこなさなければならないのですから!

 いつもいつもどこから出てくるのか不思議なほどの埃をはたきで落とし、床を掃き、レジカウンターを拭いて棚の商品チェックを済まします。本当に本屋さんは重労働です。やること多すぎて最初の頃は本当に目を回しながらやっていましたが最近になってやっと流れがつかめてきてどうにか余裕を持てるようになりました。えへんっ!

 だけどこの店兼住居(二階部分が住居スペースです)は摩訶不思議な作りでして持った人に合わせて大きさを変える本と一緒でどんなに大きなお客様がご来店されてもうにょーと天井が高くなって来店できないということがないのです。今はわたくししかいないので通常の人間サイズのお店なんですけどね。それでいて外見は一切変化がないというのだから異世界の技術はナゾだらけです。

 ぱたぱたとハタキをかけてみると毎日掃除しているのにもかかわらずハタキには結構な量の埃が。 

 本当にこの埃はいったいどこから出てくるんですかねぇ~~。毎日毎日朝に掃除をして開店中もお客さんがいない間を狙ってはたきをかけて閉店後もしっかり掃除しているのに朝になればもわっと埃の塊が出てくるんですよ?普通のおうちよりも明らかに量が半端ないです。

 ため息でちゃいますよ。全く。


 そんな愚痴をこぼしつつ店内での作業を終わらせたわたくしは箒と塵取りを持って外に向かいます。 外観も清潔にしなければなりませんからねぇ~~。客商売だと外観も大切です。小汚い店にはさすがに寄り付きたくないですから。

 上司さんが店舗経営にあまり興味がないので雇われ店員、がんばりますよ~~。

 外掃除が終わったら窓拭きもしまなければなりませんね。

 時間は有限。開店時間は厳守。さぁ、気合入れてがんばれわたくし!

 大き目のバケツに細かい用具を入れて鼻歌なんぞしつつ箒片手にいざ出陣とばかりにドアを開けたわたくしでしたが三センチもあけないうちにがつんっ!と何かに引っかかってしまいました。

 おっと!

 おや?何でしょうか?ドアの前に何か置いてあるようですよ?

 なにげな~~く。ドアの隙間から外を覗き込んでみます。まず見えたのは白い物体。白くてまぁるくてすべすべしてそうな…………わたくしが抱えあげれそうなほど大きな卵?

 さらに視線を下に下ろしてみるとその卵はどうやら布を敷き詰めた箱に入れられているようです。

 この段階でさらに???となります。だってこんな巨大卵を朝から玄関先に置かれる理由がわかりません。この世界にきてから卵っていったら普通サイズの卵でしたし、ご近所さんにもこんな大きな卵を生みそうな動物は飼ってらっしゃる方はいなかったと記憶しています。

 本当に何なのでしょうかこの巨大卵。どうしようかとじっと睨んでいたわたくしでしたが卵のしたに敷いてある布の間になにやら紙がはさんであるのを発見しました。

 おっ、この卵のことが何かわかるでしょうか。

 そう安易に考えてわたくしは二つ折りにされたその紙を手にとって開いてしまいました。


 え?お前、こっちの文字読めんのか?ええ、なぜだかわたくしこの世界の言語はしゃべることも読み書きもなぜだか習得できていました。不思議ですがこういうときには便利ですね。

 もっと疑問に思えよですか?

 いやですね~~こんな非現実的な出来事に巻き込まれたらこれぐらいの不思議についてなんて重要じゃなくなってしまうんですよ~~。ぶっちゃけ難しいことを考えるのは嫌いですからね。わたくし。

 ぺらりと開いた紙には急いで書いたのでしょうかずいぶんと乱れた文字でこう、綴られていました。


『あなたの子です。どうぞ大切に育ててください』

「……」

 え、なにこれ?なんでこんな内容の手紙が巨大卵に添えて店の前にあるのですか?

 手紙から目を離し、卵を見ます。うん。どう見ても卵です。手元の紙に再び視線を落とします。


『あなたの子です。どうぞ大切に育ててください』

「…………」

 今度の沈黙は先ほどより長くなってしまいました。

 ズキズキと痛む眉間の間を指でほぐします。あ~~目が疲れてるんですかねぇ~~。ありえない文字が見えた気が……。


『あなたの子です。どうぞ大切に育ててください』

「………………」

 

 何度見ても文面、変わりません。え?なに?なんで卵にこんな手紙を添えてどうしてうちの店の前にででんっと鎮座されているんですか?

 手紙の「あなた」はわたくし宛てですか?卵を我が子だとするような心当たりはございませんがぁ!

 ちなみにわたくし卵を発見してからの流れ、ほとんど動いておりません。ドアノブをつかんだまま親の敵のように卵を見ていましたよ。

 もう何がなんだかわけがわからなかったから!

 でもいつまでの睨んでいるわけにもいかずぐききぃとドアの隙間をどうにか広げて外に出て卵のそばにひざをつきます。上から見ても横からみてもどこからどう見ても紛れもない正真正銘の。

「卵、ですね」

 見事なまでに卵。しかも鶏の卵をおっきくしたかのような卵です。朝日に照らされる巨大卵をじっと観察しつつ手の中の手紙の内容についても考えをめぐらせます。

 なんかこんな内容の手紙だったら普通赤ちゃんあぶあぶとしている籠の中に入れてあるのがセオリーなのではないのでしょうか。なぜに巨大卵なのですか。

 まるでこの巨大卵が赤ちゃんみたいな文面です。

 

 ん?

 おや?

 あれれ?

 

 そこではたりと気づきました。

 ここは異世界。そして竜の住む里。

 竜の出産がどんなものかは知りませんが赤ちゃん竜は何人か見たことがあります。人の姿の取れないので子竜の姿でテクテク歩いていたり小さな羽根でフヨフヨ飛んでは落ちたりしてそれは可愛い………おっとすいません、お話がずれてしまっていました。つまり何が言いたいのかと申し上げますと。

  

 竜ってイメージ的に卵を産みそうではありませんか?


 ほらゲームや小説とかで竜が卵を守っているとかどうとかよく見ませんか!

 ほぎゃーっとおかあさんから子竜が生まれてくるよりもぽんっと卵が生まれてくるほうがなんかイメージしやすくないですか!

 もしもこのイメージ通りならこの巨大卵はこの世界風にいえば赤ちゃんなんですよ。捨て子ならぬ捨て卵ちゃんなんですよ。

 そして問題のこの手紙。

 『あなたの子です。どうぞ大切に育ててください』

 これを合わせて考えるとおかあさんは卵を生んだはいいが何だかの理由で育てることができなかった。

 卵ちゃんに対して責任があり、育ててくれそうな相手の所に置いていった。

 文面から読み取るにそれは父親っぽい。

 わたくし、女なので除外。

 そしてこの店の関係者でそれに該当しそうな相手はたった一人だけ。


「……の……か!」

 

 ぐしゃりと手の中の手紙が音を立ててしわくちゃになりましたが気にしてなぞいられません。ええ、早朝に実にご近所迷惑だとは思うのですが叫ばずにはおれません。あとで謝りますのでお許し願いたいです。むしろ一緒に叫んで欲しいです。はい。皆さんご一緒に!

 せぇ~~のっ!

 

「上司さんのばかぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~!!」



「どうしたっ!」

「マイカちゃんっ!」

「ねぇーちゃ?」

「うぁぁぁぁぁん!」

「よちよち怖くないからねぇ~~大丈夫よ~~」


 わたくしの魂の叫び声(近所迷惑)にわらわらとご近所の皆様が集まってこられました。寝ぼけ眼の方や叫び声に驚いて泣いている子竜ちゃんをあやしているお母さん方の姿に申し訳なくなってしまいます。が、叫ばずにはおれなかったのですよ!

 集まったご近所さんがどうしたんだという顔してわたくしを見ていますが傍らに鎮座している卵ちゃんを見てざわつきがぴたりとおさまります。視線でなにやら会話をしたあとわたくしのほうを恐る恐る見られました。

 ちらちらと卵とわたくしを見比べるご近所さん。え、なんですかその反応。もしかしてわたくし何か勘違いされています?

「違いますから」

 大体時期が合わないでしょう!

 わたくしここで働き出してからまだたったの数ヶ月!

 卵との血縁関係ありませんから!

「ああ、そうだね」

 それらのことを握りこぶしで力説したら皆様ほっとしたような顔で胸をなでおろされておりました。

 疑ったんですか。一瞬でもわたくしが卵を生んだって思ったんですか……なんなんでしょうか、このなんとも表現ができないもやもやは。

 むぅ~~と唇を尖らせているとわたくしの不機嫌を察知したのかお隣の奥様(恰幅のよい中年女性ですがお尻には大きくて青い竜の尻尾が揺れております)がごめんごめんと謝ってくださいました。

「でも、だったらこの卵はどうしたんだい?まさか捨て卵なのかい?」

あ、適当に呼んでいたんですけど捨て卵って言うのですね。びっくりです。とと、変な感心をしている場合ではなく、皆様にご説明をしなければ。

 手の中で握りつぶしていたあの手紙のしわを伸ばしつつわたくしはここまでの経緯を皆様にご説明したのでした。


 あれから時は少し過ぎ、場所も変わって本屋の二階。住居スペースにわたくしと卵ちゃんと村長さんとその息子さんに心配したお隣の奥さんというメンバーが集まっております。

 全員の視線がわたくしの膝の上にいる卵に集まっています。

「確かに……手紙の文面からは店主殿が父親のように読み取れるのぉぉぉぉ……」

 プルプルと震え、消えそうな声でそういうのは白いおひげを長く伸ばしたよぼよぼのおじいちゃん。昔は村一番の実力者だったというだけあって頭にちょこんと生えた小さな角以外は人間のおじいちゃんそのものの姿にしか見えません。縁側でお茶でも啜ってそうなおじいちゃんだけどこの里一番の年長者で村長さんなのですよ。あと、この里を作った初期メンバーの一人でもあるそうです。

 なんでも大昔にあった戦争のせいで行き場をなくした竜や孤児たちで山を切り開いて一から作った里だと前に昔話で聞かせてもらったことがあります。

「一応調べさせてはいるがたぶん母親はこの里の人間じゃないと思うがよ。それらしい女性はいなかったし第一店主殿は里にぜんぜんいないからなぁ」

 そう言って困ったように頭を掻いたのは人のよさそうなおじさん。村長さんの息子さんで実質村を取り仕切ってらっしゃる副村長さんです。副村長さんは竜人といいたくなるような緑色の鱗の竜が二足歩行しているような姿をとっていらっしゃいます。まんまトカゲのような顔なんですがすこし目がたれていてなんていうのでしょうか?全体的に人のよさそうなオーラーが発せられているお方です。

 しかし副村長さんの言葉通りこの卵のおかあさんが里の人だとは思えません。割と広い里ですけどそれでものほほんとした場所ですから里のみんな顔見知りなんて状況です。そんな中で妊娠なんてしていたら一発で知れ渡ります。

 あ、竜の妊娠期間はほとんど人間と一緒でした。ただ違うのは卵で生まれてくるところだけでした。

 十ヶ月おかあさんのおなかの中にいて卵で生まれて、そこから一ヶ月ぐらいで子竜が生まれてくるのだそうです。

「しっかし店主さんがねぇ~~。女の子よりも年がら年中本を追っかけまわしているような男にまさか隠し子騒動が持ち上がるとは思わなかったわよ」

ずずっとお茶を飲みつつこの場の全員いや、里の人間全員の心の声を代弁した奥さんにわたくしも深くうなづきます。

「でも、この卵、生まれてそう何日もたってなさそうね。ちょいと副村長!旅行者とか外から来た竜はいなかったのかい!」

 バンバンと隣に座っていた副村長さんの肩を容赦なく奥さんが叩いています。なにやらすごく痛そうな音が響いて叩かれた本人は涙目です。

「い、痛っ!叩かんでくださいよ……相変わらず乱暴な竜だなぁ」

「あんたがひょろっとしすぎなんだよ。まったく!」

 ちなみにこのお二人同い年の幼馴染同士でしかも奥さんのお子さんと副村長さん所のお子さんが結婚されているので親戚同士でもあるそうです。

 子供時代、どちらが強かったのか目に浮かぶようですね。

「ふぉふぉふぉ……まぁ、母親探しは続けるとして……店主殿への連絡はどうなっとる?」

 プルプルと震える手で湯のみを持つ村長さんが息子さんに問いかけます。

「一応緊急用の連絡を飛ばすのと同時に外のありとあらゆるツデに店主殿が現れたら伝言を伝えてくれと頼んでいますが……あの人ですからねぇ……いつ捕まるのやら」

「ふぉふぉふぉ」

「店主殿だからねぇ」

 反応がみんな酷いですがわたくしも似たような感想しか抱けないです。

 なんとなく卵を撫で撫でしながらお話し合いを聞いています。第一発見者で父親疑惑のある人に雇われているためこの場にいますがわたくしができることって、ぜんぜんないんですよね~~。なんというかお守り?でも卵ちゃんだからものすごく楽です。

 しかし竜の卵ってすべすべして気持ちいいですねぇ~~。こうつるんとして何度でも触りたくなるというか。

 え?なんか手つきが怪しい?

 失礼な!

「それで卵は誰が面倒みるんじゃ~~?」

 よぼよぼとお茶菓子に手を伸ばした村長さんの言葉にわたくし、顔を上げます。

「あ、それならうちで預かるわ。息子夫婦もいるし子育てにはなれているかね!」

 間髪いれずに奥さんが名乗りを上げられました。確か奥さんはお子さんを五人育て上げ、しかも息子夫婦と同居して孫はすでに四人だとか……子育てのエキスパートですね!

 安心して預けられます。

「よかったですね」

 こっそり卵ちゃんに囁いてみます。奥さんもそのご家族も皆さんいい人ですからきっと卵ちゃんを可愛がってくださることでしょう。

 なでなでしていたわたくしは卵ちゃんがかすかに揺れたこともなにやら不穏な空気が卵ちゃんからあふれていたことにもちぃ~~とも気づかなかったのです。


「それじゃ卵ちゃんのことよろしくお願いします」

「はいよ!まかせなさい」

 大変頼もしく胸を叩く奥さまに卵ちゃんを渡します。

「マイカさんや……そろそろみせぇ開かんと外におる連中が騒ぐじゃないかのぉぉぉ」

 プルプルと震える手で杖を突いた村長さんが冗談めかしでそんなことを言う。

 あはははっ!

 今日はいろいろあって開店が遅れちゃってるから早く開けないと冗談抜きで暴動が起きちゃいますよ!

 え?

 大げさだろうって?

 種族的本好き舐めたら痛い目見ますよ!

 たいした理由もなく本屋閉めたら暴動です、暴動!

 これ、異世界の常識です!

 覚えておいてくださいね!

「あわただしくてすいません!店開けなきゃ!あ、どうぞ皆さんはごゆっくりしていってください~~!」

「いや、あたしらももう帰るよ」

「あ、じゃ、お見送りだけでもします!」

 帰られるのならお見送りだけでもと先に部屋を出ようとしたわたくしでしたが背後から「あっ」という声が聞こえたかと思うと背中にものすごい衝撃が加わりそのまま前のめりに倒れてしまいました。


 のぁ!

 な、なんですかこのずっしりとしたまるでこなきじじぃでも乗っかっているかのような重さはぁ!

 どうにか頭だけ動かして背中を見てみます。

 見えたのは白い塊。

 威風堂々とした風格でわたくしを座布団にしているのは間違いなく隣の奥さんにお渡しした卵ちゃん。

 なんと!

 こなきじじぃならぬこなき卵でしたよ!

 ってか重いっ!

 さっきまで持っていた重さと明らかに違うのはなぜですかぁ!

 重さ故に恨みがましい視線になったわたくしでしたが卵ちゃんを見た途端に顔が引きつりました。


 き、気のせいだと思うのですがなんか卵ちゃんの背後にこう。


『われ、なにわしの世話を放棄しとるんじゃぼけぇ!』


 と言わんばかりのオーラが漂っているような気が気が…………。

 ずごごごっと迫力満点な卵ちゃんになぜだか汗が止まらないわたくし。

「あらまぁ、よっぽどマイカちゃんのことが気に入ったんだねぇ~~」

 感心してないでどうにかしてください奥さん。

 わたくしの声なき声に気づいて下さったのかやれやれと奥さんがふんっと卵ちゃんに手を伸ばします。

「ほらほらわがまま言うんじゃないよ……」

「いたたたたたたたぁぁぁぁぁ!!」

 奥さんが卵ちゃんをどかそうとした途端に重さが酷くなって思わずわたくしの口から悲鳴がもれてしまいます。

 な、何なのですかこれは!

 い、痛い、重さがどんどん増していくぅぅぅぅぅぅ!!

「こりゃいかん。完全に懐いてしまっとる」

 副村長さんと奥さんが力を合わせて卵ちゃんをどかそうとしてくれているのですが数分格闘しても重くなるばかりで離れてはくれませんでした。

 し、死ぬ、死んでしまう。

 重さでぐったりするわたくしです。え?卵がそんなに重いのか?ですか?

 体験してない人は好きに言えますよね!

 本気で重いのですよ!

 見た目にだまされてはいけません!

「ふぉふぉふぉ……どうやら卵はマイカちゃんのそばにおりたいようじゃのぉぉ~~」

 相変わらずプルプル震えた手で村長さんが卵ちゃんを撫でるとその言葉に同意するかのようにふっと重みがなくなりました。

 え、なに?

 村長さんの言葉通りなんですか?

 でもちょ~~っとやり方が酷すぎると思うのですけど。おもにわたくしに対しての被害が!

「と、いうことで」

 起き上がったわたくしの手に村長さんが卵ちゃんをぽんと押し付けてきます。

「本屋の仕事も大変じゃろうが……わしらもできる限り手伝うかのぉ。世話を頼んだぞい~~」

「へ?」

 気づけば当たり前のように腕の中には卵ちゃん。

 プルプルしている村長さんの後ろで残りのお二方が「ありゃ、だめだ。なに言って意見曲げない」ってあきらめ顔なのですけど!

 み、見捨てないでください~~!

 すがるような目で見たら副村長さんは速攻で目をそらしました。隣の奥さんは「何かあったら遠慮なく相談にきな!」とふくよかな胸を叩かれました。

 あ、あの……それってもう、わたくしがこの卵ちゃんの世話をするものと考えてらっしゃいますよね?

 え、決定?

 決定なのですか?

 っていうかわたくし出産経験もなければ身近に赤ちゃんがいた経験もないのですけど!

 そんな異世界人に竜の卵の世話を任せるだなんてなんてチャレンジャーなんですか、村長さん!

 そんな思いを抱いて村長さんを見れば。

「卵がいたいと思う場所が一番じゃろ~~」

 なんか良いこと風に言ってますけどわたくしの意見は完 全 無 視ですよね!

 

 あんまりな展開に脳内真っ白なまま腕の中の卵ちゃんに視線を落とすと気のせいでしょうか?

 『よろしくたのむぜっ!』

 と卵ちゃんが上から目線で言ってきているような幻聴が聞こえました。

 き、拒否権は?

 わたくしの心の声がダダ漏れてしまったのでしょうか。

 『あぁん?』

 どす黒い何かが発せられているのが空気が読めないと友人知人に言われまくったわたくしでも読めました。はい。

 この件に関しては口ごたえしてはいけません!

 そんな気がひしひしとしますよ!

 そしてこの卵さん、絶対に性格が俺様です!(性別わかんないけど)


「あ、あはははは」

 乾いた笑いと共にその日の業務をこなすわたくしの背中にはおんぶ紐でおんぶされる巨大卵の姿がありましたとさ。

 どうやら異世界生活&本屋店員数ヶ月のわたくしに竜の卵の世話というミッションが加わってしまったようですよ………。

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