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店舗外日誌 ピクニック九

 恩人さんにお話を教えて、恩人さんがちゃんと覚えているかの確認をしていると突然恩人さんが鼻をひくつかせながら顔を上げると遠くに視線を向けられます。

「どうされましたか?」

「竜族の匂いがする……近づいてきてんな。あと、なんか良く分かんねぇにおいが多数」

 竜族はきっと里の皆さんです。良く分からん匂いって本の虫さんたち?それともノール爺さん?

 そして恩人さん姿も見えないみんなの接近を匂いで察するなんてやっぱり人間ではないんですね。

 見た目からしたら猫科の獣人さんっぽいんですけど正面きって聞くわけにもいきませんから真実は謎のままです。

 恩人さんに習うようにわたくしも同じ方向に視線を向けました。

 人間であるわたくしには近づいてくる皆さんの姿はまだ見えません。だけどどうしてでしょう?

 恩人さんの言葉を疑いもなく信じている自分がいました。

「多分、わたくしを迎えに来てくださった方々だと思います」

「みたいだな。敵意はかんじねぇし」

 匂いだけでそこまでわかるんですか。すごいですね。

 恩人さんは鼻をくんくんさせながら辺りを見渡すと一人納得したような顔をされました。

「近くには他に何もいねぇな。……もう、大丈夫だな」

 よっこいしょと恩人さんが立ち上がります。

「行かれるのですか?」

 見上げるわたくしの髪を恩人さんの大きな手の平がぐしゃぐしゃと乱暴に撫でてきます。いや、ご本人的には撫でているつもりなのでしょうけどやられている方はそうは思えません。

 これは「撫でる」ではなく「揺さぶる」が適切な表現です!

 く、首がもげるぅぅぅ!

 髪もぐしゃぐしゃになるけど首が物凄い勢いで揺さぶられるぅぅ!

 ちょっと魂を飛ばしかけてしまったわたくしに恩人さんの手が止まります。

「もう、落っこちるなよ?」

 にかりとからかうような声とともに恩人さんが笑う気配が頭の上でしました。

 手が離れます。その途端、掻き消えるようにすぐ側にあったはずの恩人さんの気配が消え去ってしまいます。

 慌てて顔を上げたときにはあの存在感のありすぎるぐらいある恩人さんの姿はどこにも見えなくなっていて、ただ風が森の梢を揺らしているだけでした。

 まるで狐にでもつままれたかのような消え方に思わず陽に語りかけていました。

「陽、あの人、ここにいましたよね?」

『……いた』

「でも、消えちゃったね」

『うん……』

「名前ききそびれました……」

『そういえばそうだった……』

 

「うぉ~~い!マイカちゃん~~は~~る~~無事かぁ~~!」


 穴の側で座り込んで呆けているわたくし達に向かって遠くから里の皆さんの声が聞こえてきました。

「あ……皆さん……」

『あいつの言った通りだな』

「ええ……本当に凄いですね匂いだけで当てちゃいました」

 くすりと笑うと陽からも笑った気配が感じられました。

『どんだけ鼻がきくんだって話だよな!』

 本当にとても印象深い人でしたよね。恩人さん。

 そんな話をしている間にも里の皆さんの気配はどんどん近づいて……ってあれ?

 どうやらかなり急いで来てくれているらしい救援部隊は土煙を上げてこちらに向かってきていますが……あの、ですね。

『人数が……多くねぇ?』

 そう。多いのです。

「里の人……何人来ているんですか!」

 ぱっと見た限り人型の人でも六人以上。竜形態で低空飛行している竜の姿も何人も見えます。

 その竜の背にも蠢く人影がいくつも……。

「あ、ははは……」

『大袈裟すぎる……ノール爺さんと本の虫たちは一体何人召集したんだ……』

 頭が痛いといわんばかりの感情を伝えてくる陽に呆れた笑いが出てしまうわたくし。

 だけど、同時に。


「お~~い!ここですよ~~~~!」

『お~~い!ここにいるぞぉ~~!』


 わたくしは手を大きく振り、陽と一緒になって大きく声をはりあげました。


「マイカちゃん!ハル!無事でよかったよ!」

「『むぎゅ!』」

 救援部隊にいたお隣の奥さんはわたくしと陽の姿を見つけるなり足代わりにしていた旦那さん(竜形態)の背を蹴っ飛ばすような勢いで飛び降りると猛然とこちらに向かってこられ気付いた時にはわたくし達は二人ともそのふくよかな胸の中で抱きしめられていました。

 強い抱擁に二人同時に奇怪な呻き声を上げてしまいました。

 わたくし達に抱きついてよかった!よかったよ!と感極まったお隣の奥さんが背中を結構な強さで叩いてきます。

 いた!

 痛いですよ!

 涙目になっているとどんどん人が集まってきて次々に無事を喜んでくれます。

 わたくし達の周りはまるで竜の壁のようになってしまいました。

 人の形を取っている方や小さめの竜の姿の人たちの上から大きな竜が覗き込んでいるとかあっちにいた頃には叫んで逃げ出しそうな光景ですが今のわたくしはどうってことはありません。

 慣れって本当に凄いですね。

「きゅい!きゅい!きゅいいい!」

「きゅぃぃぃぃぃぃ!」

 そう思っていたら里の皆さんの足元から小さな本の虫さん達がててっと走ってきてそのままわたくしに飛びついてきます(何人か陽の方に飛びついて卵の曲面に負け殆どが滑り落ちていっていましたが)。

 わたくしは飛びついてきた本の虫さん達が落ちないように手を広げて受け止めます。

 本の虫さん達はぴしっ!とわたくしにしがみ付き無事がわかったせいかわんわんきゅいきゅい泣き出してしまいました。

「な、泣かないでください~~」

「きゅい~~きゅい~~!」

「わ~~んわ~~ん!」

『収拾がつかねぇ……』


 さてどうしましょうか。

 そう思案しかけたその時、ラスボスはわたくし達の背後を取っていたのでした。


「おまえら……」


 ドロドロした口調がわたくし達のすぐ後ろから聞こえてきます。

 小さな体を潰さないように気をつけながら恐る恐るわたくしは振り返ります。

 胸の前で腕を組み目の高さで浮ぶノール爺さんがそこにはいました。

 大変怖い笑顔で額に青筋を盛大に浮かべられて。


「『ひっ!』」


 思わず喉に引っかかったような悲鳴が零れました。

 危険な香りしかしません!



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