店舗外日誌 ピクニック四
満腹になった一同が各々好きなようにまったりしています。
わたくしは陽を膝の上に乗せて蒼く輝く滝を眺めていました。
キラキラと日の光を反射させる水飛沫はまるで宝石のように見えます。
遠くからは鳥の囀り。
風は滝から生まれる冷えた空気を孕んで川辺にある野原に心地よさをつれて来てくれます。
「いい場所ですね~~」
ピクニックに来て良かったですよ~~。
『~~~~むぅ~~』
ぐずるような眠気の感情が陽から漂ってきてわたくしは彼に目を落とします。
「陽、眠いのですか?」
『ねむく、ない……』
陽からなにやら否定する気配が感じられましたがそれすら眠気交じりで我慢しているのが丸わかりです。
まぁ、心地の良い陽だまりですから眠くなるのもわかりますけどね。特に今日は朝からはしゃいでいたのですから仕方がありません。
でもまだまだ色々見て回りたい陽は頑張って起きているようですが辛そうです。
少しお昼ねしたほうがいいと思うのですが。
仕方がありません。ここはひとつ竜なら決して見逃せないねたで……。
「陽、眠気覚ましにご本を読んであげましょうか?」
『本?でも本なんてここには……』
じゃん!
カバンから小さめの絵本を取り出して陽に見せます。
ふふ。青空の下で読む絵本も楽しいかなって持ってきていたのですよ。
絵本の題名は「竜の子ペーぺの大冒険」。
竜の間ではポピュラーな絵本で内容はちょっぴり泣き虫なペーペがお母さんの大切にしていたペンダントを持っていってしまった鳥を追いかけていく所から始まる冒険譚です。
お話も面白いのですか挿絵も可愛らしくて子供が何度も見るのが解る絵本です。
本のページを捲る音を聞きつけたのか本の虫さん達もわらわらと近寄ってきてわたくしの周りに座っていきます。
まるで広場で朗読をしたあの時の再現のようです。
そう思いながらわたくしはなるべくゆっくりとした口調を意識しつつ絵本を読み聞かせていきます。
心地よい風の中わたくしの声が響いていきます。
「……きらきら光るお花のつぼみにペーぺはそっとさわってみました。すると不思議なことにつぼみが開いていきます。ペーぺたちがびっくりしましたがそのお花を覗き込んで二度びっくり。なんと探していたお母さんのペンダンとが……あら」
「Zzzzz~~」
『むにゃ……』
「きゅ~~きゅ~~」
膝の上に乗せていた陽も周りにいた本の虫さん達もすやすやと気持ち良さそうな寝息を立てて眠りこんでいます。
眠りやすいように本を読んでいましたがまさか陽だけでなく本の虫さん達まで眠ってしまうとは……。
「みなさんおねむだったんですね……」
そう呟いて辺りを見渡すと一際大きな鼾が聞こえてくる一角が……。
「ノール爺さん……なんであなたまで眠っているんですか……」
本の虫さん達に埋れるように高いびきをかいて眠っているノール爺さんに思わず突っ込みを入れてしまいました。
「ふぁ……なんだかわたくしも眠くなって……」
条件的にはわたくしも皆さんと同じなんですよね……周りが気持ち良さそうに眠っていると欠伸の一つも出るというもので……
「すぅ……」
健やかな寝息がもう一つ増えるのはそれからすぐのことでした。
「主主あ~~る~~じ~~!」
どただだだっ!
何とも耳にうるさい騒音と大声が怒涛の勢いでこの部屋を目指している。
それに気付いた部屋の主は苦笑いしながらサインをする手を止め、ドアの近くで作業をしていたもの達に離れるように指示をした。
主よりもずっと小さな召使達はあわわっと安全地域である主の側に集まり始める。
「主!」
主の部屋のドアがノックもなしに勢い良く開かれたのはそれからすぐのことだ。
どんな力で開けたのかドアを止めていたネジは勢いよく弾け飛び天井にめり込む。ドアノブは原型を思いだせないぐらいに変形してしまっていた。
この部屋、及びに屋敷の維持を仕事している召使達が可哀想なことになってしまったドアと天井をみて一斉に抗議の声を上げる。
「あ~~!ひどい!またこわしたぁ~~」
「こわした!こわしたぁ!」
「なおすのぼく達なのにぃ!」
「なおせないくせに壊すな!」
「なおそうとしてもこわすよね!」
「さいて~~」
「さいあく~~」
「はかいまぁ~~」
「破壊まぁ~~」
「だぁ~~ちいせぇのがぎゃ~ぎゃ~うっせぇ!散れっ!」
「「「「うぁ~~ひどっい~~主さまぁ~~」」」」
怒鳴り声を上げながら犬を追い払うようにしっしっと手を振られきゃ~~とワザとらしく叫びながら召使達が主にしがみ付く。
それらに苦笑いしつつ頭を撫でた主は部屋に飛び込んできた男に中に入るように促す。
「しかし、お前はいつになったらドアを壊さず入れるように……おや?一体その腕の中の子はどうしたんだい?」
「あっ!そうだ!主!どうしよう!」
丸太のように太い腕の中で動く小さな手に気付いた主が身を乗り出してきたので飛び込んできた男が慌てて腕の中できゃきゃと笑っていた赤ん坊を両手に乗せて主に突き出す。
可愛らしい赤ん坊が指をしゃぶりながら「うっ?」と主を見ていた。
男が解りやすく「どうしよう」と目で訴えてくるので主は苦笑い。
「あ~~赤ちゃんだぁ~~」
「あ~~ほんとうだぁ~~」
「がさつなのに赤ちゃん持ってる!」
「さらったの?」
「うんだの?」
「うませたの?」
「攫ったんでも生んだんでも産ませたんでもねぇよ~~!」
「「「「そうだよね!もてないもんね!そんなかいしょうあるわけがない!!」」」」
「がぁぁぁぁぁぁ!!今日という今日は許さねぇぞ!てめぇらぁ!」
「「「「きゃ~~~~~~!!」」」」
好き勝手言いたい放題の召使達に男がいつものように過剰反応を返しているため話しが全く進まない。
パンパンと手を叩き主がじゃれ合いのような言い争いを止める。
「はいはい。そこまでだ。それよりその赤ん坊は一体どうしたんだ?」
「そ、それがよぉ~~いつもの巡回に出たら人間の女が倒れてたんだ……女の方は手遅れだったんだがこいつはピンピンしてでっけぇ声で泣いてて……どうしようかと思ってとりあえず抱き上げたら……笑ってそれで……」
「どうしたらいいかわからなくなって主さまの所に飛んできたんだぁ~~」
「へたれ~~」
「自分よりちっさいものに触ったら動けなくなるもんねぇ~~」
「だぁかぁらぁ~~てめぇらは好き勝手言うんじゃねぇぞぉ~~!こらぁ!」
「「「「きゃ~~~~!!」」」」
怒鳴り声に楽しそうな悲鳴を上げて召使達が部屋中を走り回る。
泣き出しそうな赤ちゃんはよほど図太いのか楽しげに笑って男の伸ばしっぱなしの髪を掴んで遊んでいる。
騒々しい面々に主は再び手を叩いて大人しくさせた。
「静かに。お前達はすぐに脱線してしまうのが欠点だな。……さて、その赤ん坊を今後どうするつもりだい?ソーレル」
「チェンジで!」
謎の言葉を叫びながらわたくしは目を覚ましました。
はれ?
目を覚まして状況把握が追いつかず思わず辺りを見渡してしまいます。
流れ落ちていく空を写し取ったような蒼い滝。風に揺れる小さな花。すいよすいよと眠る本の虫さんにわたくしの叫び声に目が覚めてしまったらしく目をこすりつつ起き上がる子も何人かいらっしゃいます。
『どうした?』
そしてビックリ眼(雰囲気です。雰囲気)な陽。
「あ……」
そうです。わたくしは皆でピクニックに来ていて……。
「あれは……ゆめ、で……」
妙にリアリティがある夢でした。
見ている間は夢であることすら自覚がないぐらい。
だけど目覚めて現実を認識した途端にその夢は曖昧になり今ではもうあそこにいた人たちの姿すら曖昧になってきています。
『ゆめ?寝ぼけたのか?人騒がせな……』
寝ている所に変な突っ込みで起こされてしまった陽は少々お冠のようです。
「すいません……でも、なにか……突っ込まざるを得ない夢だったんです、いや、詳細は覚えていないのですが……こう、可憐なお花の名前を似ても似づかないものに対して使われた理不尽さといいますか……」
『どんな夢だよ。それ』
すいません。自分でもよくわからないのです。
ぷりぷりと尖った感情を送ってくる陽を宥めながら起こしてしまった本の虫さん達にお詫びをします。
「きゅい~~」
多分、これは気にしなくていいよ~~という意味でしょうか。通訳できるノール爺さんとシルバーさんがいまだに寝ていらっしゃいますからなんとなくですが。
笑っていらっしゃるので怒ってはいらっしゃらない、のでしょう。
…………たぶん。




