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店舗外日誌 ピクニック二

 滝までの道はキチンと舗装されていてベビーカーでも楽々いけちゃいます。

 里から少し離れてはいますがわたくしたちのように遠出をする人たちがいるのできちんと道の舗装や獣対策などはしてあるそうです。

 お喋りしたり風景を楽しんだりして歩き続けると遠くから水の音が聞こえてきて一行のテンションはどんどん上がっていきます。

 そして、一際音が大きくなったとき、わたくしたちは感嘆の声を上げました。

「うわぁぁ~~!」

「「「「きゅい~~~~~~!!」」」」

「ほう!」

『~~~~~っ!』

 見上げるほど高い高さから滑り落ちていく滝の迫力は自然というものの強さと大きさを雄弁に伝えてきます。

 そして滝は空の色を映したかのように蒼く澄み切った色に染まり近寄って川となって流れている所を見るととても透き通った水であることを知ることが出来ます。

 本の虫さん達は水に手を浸して笑っていたりノール爺さんになにやら講釈を頼んだりとそれぞれ楽しんでいるようです。

「陽、とても綺麗ですね」

 近くで見たいみたいとハシャグ陽をベビーカーから降ろし抱き上げながら滝の近くに言ってみる。

 冷たい水飛沫が飛んでくるけど歩いてきた体にはそれがとても気持ちがよかったです。

『うぁ~~~~~~!!』

 陽に手足があったら必死になって滝に伸ばしていただろう場面です。

 わたくしはくすりと笑うと手に水を掬って「えいや」と陽に軽くかけます。

 卵の陽に水の感触や冷たさが感じられるのかはわかりませんがびっくりした感情が伝わってきてそれから掌分の水の玉がプカリと彼の周りに浮びます。

「ひゃ!」

 お返しだと言わんばかりの攻撃は見事わたくしの顔を直撃でした。

 そ、そんなことも出来たのですね……陽。

 あ、心なしか「ふふん」と自慢げに見下ろされている気がします。

 全く本当に負けず嫌いなのですから。

「滝の由来って……おいお前さん達そんなことを調べてきていたのかよ……」

「きゅい~~!きゅいきゅい……」

「いや、語り始められても……」

 どうやらノール爺さんに講釈を頼んだのではなく自分達が調べたことを聞いて欲しかったらしい本の虫さん達が一生懸命何事かを話しています。

 その声に他の子も何だ?と集まりはじめました。

「きゅい~~きゅいきゅい」

「獣の作った滝ねぇ……」

「きゅい!」

「いや、お前さんが調べたことが間違っていると言うわけじゃねぇよ!」

「きゅい……きゅいきゅいきゅい」

「まだ話すのか……」

 ゲッソリしたノール爺さんに滝の由来を調べてきた本の虫さんは語りを続けられています。

 周りにいる子達も楽しそうに聞いていました。

「滝の由来ですか……ちょっと気になりますね」

 腕の中の陽にそう話しかけてわたくしは賑やかな本の虫さん達の後ろに座ってお話を聞きます。

「きゅいきゅいきゅぃ!」

「…………」

「きゅい~~きゅい!」

 うん。身振り手振りも合わさり声は後ろの方にまで伝わるのですが……わたくしが本の虫さん達の言語を理解出来ないせいで内容がさっぱりわかりません。

 なにせわたくしの耳にはほぼ「きゅい」としか聞こえません。法則性もなにも見出せないのです。まぁ、本の虫さん達はわたくしたちの言語はわかってくださっているので仕事に支障が出たことはないのですけど……わたくしも彼らの言語を理解できるようになった方がよいのでしょうか?

 ノール爺さんのほうは本の虫事件の時にしていた翻訳のおかげで不自由なく彼らの言語が理解できているようですし今度時間を見つけて教えてもらってみましょうか。

 でも残念ですね……折角本の虫さんが調べてきてくださったのに解らないだなんて……。

 そう思ってなんとなくしょぼんとしてしまっていたわたくしに気付いた本の虫さんの一人がこちらにやってこられました。

 茶色系統が多い本の虫さんの中で一際目立つあの銀髪は……。

「どうされましたか?マイカどの?」

「シルバーさん」

 それは本の虫事件の時に代表を務められわたくしが知る限り唯一わたくしたちの言葉が喋ることのできる本の虫、シルバーさんでした。

「あ、いえその……あの子がこの滝の由来を調べてきてくれてお話してくださっているのですがわたくし、あなた方の言葉がわからないものですから……」

「ああ。成る程」

「……不勉強で申し訳ありません……」

「いえ。我々の言語を他の種族が理解しようとするのは難しいのです。ノールどののように特殊な能力がなければすぐに会得することは難しいのであまりお気になさらずに」

 どうしても「きゅい」としか聞こえないようなのでとシルバーさんは笑います。

 本の虫さん達の「きゅい」には高低差や抑揚の違いなど様々な違いがあるそうなのですが……駄目です。何度聞いても「きゅい」、たまに「きゅいいい」とかにしか聞こえないです。

「『きゅい』がおはよう。『きゅい』がこんにちはなのですが……」

 駄目です。全然違いがわかりません。

 確かに意識して聞き分けるとちょっとだけ高低差があるかなぁ?と感じますが本当に僅かな差です。

「ううっ……不甲斐ないです……」

「まぁ、今回は自分が通訳を務めさせていただきますのであまり落ち込まないでください」

「ありがとうございます!」

 いえいえとシルバーさんは謙遜されていましたがとてもいい人だとわたくしは思いますよ!




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