表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/35

店舗外日誌 ピクニック一

 本屋の定休日。わたくしは朝も早よからお弁当を作りに励みます。

 材料を切ったりゆでたり和えたりつぶしたり混ぜたりと大変です。

 あちらの世界ほど台所事情が便利ではないから余計に大変な気がします。まぁ、でも魔術や魔道具などがあってそこまで不便というわけではありませんが。

 肩からかけるショルダーバックの中には色々と詰めてお隣の奥さんからお借りしたベビーカー(卵用)のクッションに陽を乗せ落ちないようにベルトで調整したら準備万端です!

「さて!それではいきますか!」

 本日は晴天。まことにいいピクニック日和ですよ!

 因みに本日の参加者は……。

 主催者であるわたくし。

 主役である陽。

 無理矢理地下から連れ出したので不機嫌窮まりないノール爺さんを肩に乗せ、どこからともなく現われ、ててっと楽しげに足元を歩いている本の虫さんご一行。

 以上が本日の参加メンバーでございます。


 え?

 どうして行き成りピクニックだなんて話しになったのか、ですか?

 それはですね……つい先日うちの本屋で行楽関係の本を買われたご家族連れがいらっしゃったんですが……。


「滝……ですか?」

「ええ」

 いつもご家族で本を買いにこられる常連さんでもあるご家族の奥様はにこにこと楽しそうにこの間当店で買われた本を開かれます。

「ソーレルの滝と申しましてこの里の近くにあるんですのよ。距離も近く、今の時期ですと気候も丁度いいのでピクニックするには打って付けですからこの間家族で遊びにいきましたの」

 楽しげにそう語る奥様はそのピクニックがとても楽しかったのでしょう。始終笑っておられました。

「この近くにそんないい場所があるだなんてしりませんでした」

 思えばこの世界に来てから里の中ぐらいしか歩き回っていませんでしたから近隣の名所なんて知りようがありません。

「ふふ。マイカさんは色々大変でしたからね……でも大分落ち着いてきたみたいですし定休日にでも足を伸ばしてみたらいかが?」

 世間話の一環でしたがこの時の会話がずっと頭に残っていたのです。

 そして決定的だったのが仕事が終り、一息ついていた時、何気なく陽に滝の話しをした時でした。

「お客さんが言うにはとても澄んだ水らしく昼は青空が移り青く輝き夕方は夕日を浴び茜色に輝くとても美しい滝だそうです。近くにそんな場所があるだなんてわたくし知りませんでした」

 滝のほかにも綺麗な花が咲いていたり運がよければ小動物が餌を食べている所なんかも見られるそうです。

 そこで食べるお弁当はとても美味しそうですね。

 ウキウキしてきたわたくしの話しを聞いていた陽がなんだかそわそわしています。

「川には魚もいるそうです。お客さんの旦那さんは釣りをお子さんと楽しまれたそうですよ」

『ふ~~ん(かたかた)』

「お弁当もいいですが釣りたてのお魚をその場で焼いて食べるのはまた楽しいですね」

『ほぉ~~(かたかたかた)』

「あと!ピクニックといったらみんなで遊ぶことも醍醐味ですよ!川遊びや葉っぱで作った船を浮かべたりして……」

『へぇ~~(がたがたがたがた)』

 気のない陽の返事ですが雰囲気は違います。

 そわそわとわたくしの方を伺い卵も少しゆれている気がします。

 素直じゃない陽の精一杯の(そして分かりやすい)行きたいコールに笑っちゃいけないけどついつい微笑ましくなってしまいます。

「楽しそうですね~~」

『……(そわそわ)』

「丁度もうすぐ定休日ですしわたくし滝を見に行きたいのですけど……一人ではつまらないので陽も一緒にいきませんか?」

『……そこまで言うなら付き合ってやらないでもないぞ?』

 なんだかとても素直ではない感情が伝わってきてでも子供らしい意地にわたくしは笑いたくなるのを堪えて頷きました。


 という流れピクニックは決定され、ついでだから必要がなければずっと地下暮らしのノール爺さんを引っ張り出し(今現在射殺されそうな目で睨まれています)本屋と棲みか(どこかは未だによくわかりません)の往復ばかりだった本の虫さんたちも誘い本屋メンバーによるピクニックが実現したのであります。


「日が眩しい地下が恋しい本の整理が滞る」

「ノール爺さん。その発言は引きこもりなんだか仕事狂いなんだかわかりませんよ……」

「うっせい!無理やり連れ出しやがって」

 ノール爺さんは人の肩でぐったりしながらも無理矢理連れ出した怨嗟の声だけは途切れさせません。

「きゅい!」

「きゅきゅきゅい?」

「きゅいきゅい!」

 本の虫さん達は皆笑顔です。風景を楽しみ会話を楽しんでいるのが見ているだけで伝わってきます。

 そして陽は……。

『……っ!……っっ!!』

 興奮気味にあちらこちらを見ているようです。

 ちなみにどうやって卵の状態で周囲を認識しているのかはわかりませんし気にしても仕方がないので気にしないようにしています。

「陽。楽しいですか?」

 問いかければ珍しく素直に頷いている気配がします。

 考えて見ればわたくしも忙しいためこの子を外に連れて遠出なんて今回が初めてですからね。興奮するのは当たり前ですか。

「それは良かったです」

 そう言えば素直に頷いてしまったことに気付いたのか行き成り大人ぶる気配がします。だけどやっぱり周りの景色が気になるのかすぐにそわそわしだすんですけどね。

「いい天気ですねぇ~~」

「あつい……」

「ノール爺さん。この心地よい温度でその発言は如何なものかとおもいますよ?」

 ぐてりと伸びているノール爺さんには地下での威厳は感じられません。

 地下では生き生きする人ですが地上で長時間過ごすのはあまりお好きではないようです。

 本の虫さん騒動で外に出たのは本当に緊急処置だったんですねぇ。

 これを機に克服してくれればいいのですが……無理ですかね?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ