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店舗日誌 其の二

「このっ!ばかものがぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!」

 鼓膜が破れるかと思うほどの大音量。びりりと空気が震え、一瞬、窓ガラスすら震えたような気がしました!

 手乗りサイズの体からは想像もつかないほどの怒鳴り声に耳がキーンとなりました。

「はれ?」

 耳を押さえる暇もなかったため至近距離でその大声を聞かされてしまったわたくしの目は半分回っていました。

 しかしそんなこちらの状態は怒り心頭のノール爺さんには通じないようで小さな体が何十倍にも見える怒気がもくもくと湧き上がっておりますよ!

「うじうじそんな下らないことで悩んでいたのかぁ!この馬鹿たれがぁ!」

「うっ!」

 びしぃ!

 ノール爺さんの小さな手でおでこをはたかれました。ち、小さい手なのになんでそんなに痛いんですかぁ!

 五つ上の兄にデコピンされた時より痛いですよ!

 予想以上の痛みにわたくし涙目です。

「馬鹿たれ!あほ!お前一人でひとつの命、十全に守り育てられると思ってんのかぁ~~!」

 痛いです!

 おでこも言葉も!

「何のためにワシらがおる!なぜ、相談しない!どうして一人で解決を急ぐ!」

 だって、上司さんが帰ってきて事の次第がはっきりするまでの臨時保護者でもしっかりしたかったんです。守りたかったんです。

 簡単に泣きついたらそれこそ保護者の資格がないと思ったのです。

 そう、言いたいのに声が出ません。

「不安なら不安となぜそう言わない!」

 大人なら、自分で解決しなきゃいけないと思ってた。

 生まれた世界でわたくしは甘えっぱなしで自立できなかったから……この世界ではしっかりしようとそう、思い込んでいました。

「ワシらはいつだって相談に乗った!一緒に悩んだ!手を差し伸べた!」

 もう、駄目です。我慢できません!

「ふぇ……」

 ぽろぽろと涙がこぼれていきます。見っとも無いです。わたくしは大人なのに臨時とはいえ子供(卵)を預かる立派な保護者なのに顔をぐしゃぐしゃにして泣いてしまっています。

「若い女がいきなり見知らぬ世界に飛ばされただけでも大変だろうにその上卵の世話まで引き受けているんだ……甘えたってだれも文句は言わん」

 声が出なくて何度も何度も頷きました。

「ま、自分で相談する気になったのは偉かったぞ。さっさと頼れというのが周囲の意見だがな」

 小さな手がわたくしの頭をやさしく叩いてきます。

「ごめ……んなさい……」

 胸がいっぱいで涙で声が出なくてただただそう言うのが精一杯でした。


 泣いて泣いてみっともなく泣いて。

 目と鼻が痛くなった頃、ようやく落ち着いたわたくしは目元に残った涙を子供のようにぬぐいながらノール爺さんと向き合います。

「落ち着いたか」

「はい……見苦しいところをお見せしました……」

 ハンカチを鼻に当てたせいでくぐもってしまった声でわたくしはノール爺さんに頭を下げました。

「まぁ、いい年した小娘がするような泣き方じゃなかったのは確かだな」

 うっ!

 自分でも恥も外聞もなく子供のように泣き喚いた自覚があるだけにノール爺さんの言葉はきついです。

 もう何年もあんなふうに人前で泣いたことがないだけに余計にダメージが深い気がしますよ。

「だが、生きていくためには泣くことでしか消化できなもんがあるんだろうよ……」

 そう言って遠い目をしたノール爺さんの言葉は確かに長い時間を生きた人生の先達そのものでとても彼の体が生き物ではないなどと思えないほどでした。

「で、だ。小娘、お前の懸念についてだが……」

 今まで見せていた達観していた空気が嘘のように霧散しています。片手を腰にやり少し怒った顔でわたくしに小さな指を突きつけてきます。

「まったくの的外れだ。馬鹿もん。あの小僧が孵化しないのとお前との因果関係はまったくない!」

 どキッパリ言い切られ、馬鹿みたいに口をあけて呆けてしまうわたくし。

 え?

 なに?

 あまりにも自信満々に言い切られてしまったのでとっさに情報が処理しきれませんでした。

「あ、え?何を根拠に言い切られるのですか?」

「ああ?ワシの言葉が信じられねぇと?そういうのか?小娘」

 凄みのあるガンつけをされたら”信じられません”なんて言えっこありません!

 ブンブンと頭を振って否定するわたくしの額をノール爺さんの小さな手が再びはたきます。手加減をされたのか一度目ほど痛くはありませんがそれでもちょっと驚きます。

「まぁ、種明かしすりゃ……ワシは対象の力の動きや影響やら体調やらが分かるんだよ。ここに来る前にいた職場が丁度……そういう能力を必要とする所だったからな」

 前の職場というところでノール爺さんはなんだか顔が暗くなっていました。ノール爺さんは意思ある魔道具です。誰か創造主がいるということですがそういえばノール爺さんは自分の過去を話してくれたことがありません。

 上司さんからはどっかの施設の跡地で意地を貫き通そうとしてて、どうせ朽ちる気なら自分が拾って書籍の管理をしてもらっても文句はないねと連れてきたと犯罪ちっくな過去話として聞いたことがありましたが本人の口から自身のことを聞いたのは今回が初めてです。

 施設……そしてノール爺さんにあるという対象の状態がわかるという能力……ノール爺さんの前職は医療関係だったのでしょうか?

 そう思いましたがなんだかノール爺さんはあまり聞いて欲しくなさそうな空気です。

 わたくし空気が読めるほうではございませんが今は読みました。なので深くは追求せずにスルーの方向で決定です。それに今は人様の過去を暴くよりも陽のほうが心配ですので。

「そうですか……じゃあわたくしが原因じゃないとしたら陽はどうして孵化しないのでしょうか……」

「さぁな。ワシがわかるのはお前が間違いなく健康な普通の人間だということと陽も異常なんてない健康体だってことぐらいだ。原因追求と解決にはやはり医者に聞くしかない」

「そうですね」

「というわけで里の医者の所に朝一番で行け」

「はぁ?」

「連絡はもう済んでいるからな受付で名前を言えばそのまま診察だ」

「ちょ、いつの間にそんな手回しを」

「店の方は本の虫たちに任せとけ。シルバーにも連絡して店番頼んどいたしまぁ、午前中ぐらいは平気だろ」

 本気でいつの間にそんな手回しをしたんですかぁ~~~!

 ノール爺さん~~~~~~!!




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