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店舗日誌 おまけ

「罰として本屋や図書館等の本に関連する施設での期限つきの奉仕を課せる」

 ノール爺さんが提案して最終的に承認された罰はわたくしが想像していたものとは全然違うものでした。

「勿論、本の虫に対して悪感情を抱くものも多いし事情を説明してもぬぐい切れないものが多いと予想される、また本の虫自身にも他種族との関わり方や常識などを身に付ける必要がある。よって本格的に各地で奉仕を開始する前に実地訓練をするものとする」

 そう、実地訓練。本の虫にたいして思うところのほとんどない存在がいて本に関係する場所。

「っう訳で、ここが実地訓練地だ。よろしく頼むぜぇ」

 ぽんっとわたくし、肩を叩かれました。

 え?

 え?

 わたくしの勤務地(本屋)が訓練先ですか?

 疑問に思えどすでに断れる状況ではありません。

「でも、上司さんの許可は……」

「事後承諾」

 コンマ一秒の差もなく言い切られてちょっと慄いてしまいます。

「い、いいんですか、それで」

 本屋としてオーナーに無断で断行してもいいんですか?

「めったに帰ってこねぇ上に本屋関連を全部俺に丸投げし続けてきた野郎だぞ?文句は言わせねぇ」

 じ、実は自由人過ぎる上司さんに相当鬱憤たまってました?

 そういえば入荷した本ってリストとか全然なくてそのまま地下にぽんと放り投げてそのままどこかに行っていましたね、上司さん。

 荒んだ目でそう言い切ったノール爺さんの迫力はきっと上司さんの文句なんてぶっ飛ばすであろうことをわたくしに確信させました。




 と、いうわけでただいま絶賛本の虫さんの実地訓練実施中です。まぁ、人数が人数なんで日替わりで出てきてもらっております。

 店舗での接客に関してはわたくしが地下の書籍管理に関してはノール爺さんが教育しています。

『てめぇら!いいか!ここは本を求めるお客様のための場所だ!己のことは二の次、参の次、本こそが至宝、何においても本が優先!飲食禁止の火気厳禁!わかったかぁ!』

『きゅ~!きゅきゅう!!』

 商品検索を頼もうかと水晶を起動させた途端、鬼軍曹……じゃなかったノール爺さんの激とそれに答える本の虫さんたちの声。それとざっと靴のかかとをあわせたような音が大音量で響いてきました。

「……えっと……」

『……きゅ、きゅいぃぃぃぃぃ……』

 ああ~~うっかり聞いちゃった本日店舗勤務の子たちが震え上がっちゃってます~~!

 小さなモップを持ちながら手に手を取り合ってプルプルおびえる本の虫さんたちをわたくしはあわててなだめにかかりました。

 ノール爺さん。貴方は一体地下でどんな教育をしているんですか!

 

 未知の恐怖と仲間の安否への不安で涙目になった本の虫さんたちをどうにかなだめ終わった頃、からんとドアベルが鳴りました。

「あ、ほら皆さんお客様ですよ。いらっしゃいませ~~!」

『きゅ、きゅい~~!』

 わたくしが挨拶をすると本の虫さんたちも涙を拭いて声を上げます。よしよし。いい感じです。

「こんにちは」

「あ、あの時のお客さん」

 柔和な笑みを浮かべ入ってきたのは男性と女性の二人組み。その男性の方が朗らかに手を上げてきてわたくしは目を丸くしました。

 そう、彼は後四日で本が欲しいと本の虫さん捕獲作戦に参加してくれたあの風竜の男性でした。

 しっかりと腕を組んだ二人はとても幸せそうで一目見て恋人同士だとわかります。

 好きな人の誕生日に彼女がずっと読みたいと探していた本をプレゼントして告白しようと四方八方手を尽くして探していたお客様は照れくさそうに笑って彼女と一緒にカウンターへとこられます。

『きゅいきゅい!』

 気の早い本の虫さんの一人がお勧めの本を準備し始め、他の子たちもいつ声がかかってもいいように待機しています。

 膝の上でまどろんでいる陽を抱きかかえるとわたくしは彼らを笑顔で出迎えます。

「いらっしゃいませ!今日はどのような本をお探しでしょうか?」

 どこの世界でも変わらない本屋のせりふをわたくしは今日もまた、異世界で口にしました。



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