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店舗日誌 十二ページ目

 愕然とするシルバーさん。ざわざわと落ち着かない本の虫さんたち。そして言われたことを理解したのかみんなそろって地面にうずくまってしまいました。


「……自分たちの行為は犯罪だったのか?」

『きゅ、きゅい?』

『きゅいきゅい……』


 なにやらうっかり口から漏れた疑問が意外なほど本の虫さんに衝撃を与えてしまい、事の詳細の説明を求められたので正直に彼らのやったことに対するほかの種族の印象と彼らに対する認識についてお伝えしたら暗い影を背負ってしまいました。

地面にのの字を書く子。オロオロとする子。顔を手で覆って一切動かなくなる子。反応は様々ですが皆暗いのは共通です。

『きゅ、きゅいぃぃぃぃ』

 悪い子たちではないのでしょう。だけど一般的な常識がなかったんですね、きっと。

 どうしてそうなってしまったのかはわかりませんがほかの種族に姿を見せたことすら今回が初めてだというのですからこの子たちは本当に自分の種族以外とは接触がなかったのでしょう。

(……あれ?でも本を読んでいたんですよね?竜族が最大級の敵と認識していたぐらいですから相当本を読んでいたはずです。……その中にはほかの種族の常識とかも書いてあったはずなのにどうしてこの子たちは知らないのでしょうか?)

 浮んだ疑問の答えは出ず、首を傾げるしかありません。

「こいつら……本当に迷惑行為をしている自覚がなかったんだなぁ~~」

「ふぉふぉふぉ~~」

 嘘だろとノール爺さんは頭を抱え、何を考えているのか村長さんは相変わらずプルプルしながら朗らかな笑顔で笑っていらっしゃいます。

「君たちがわれわれをここに集めたのは……」

「最初は駆除目的でしたがあなた方との意思疎通ができると判断してからは作戦変更で会談目的です」

 まぁ、わたくしは朗読していたんで作戦からは思い切り放置されていましたけどね!

 多分、そんな所でしょうと答えましたがどこからも異論が出なかったのでよしとします。

「く、駆除……そこまでされるほどの迷惑をわれわれはしていたんですね」

 シルバーさんが疲れたようにそう呟かれます。

 聞くとどうも本の虫さん達の間では「知識は皆の共通財産」という考えがあるらしいのです。知識は無償で共有すべきというすばらしい理念ですがこれが彼らが本を読んでいたのにも関わらず我がこととして考えていなかった大きな原因でした。

 しかも本の虫さんたちには貨幣を使ってのやり取りする習慣もなく精霊の近いと言われている通り世界に満ちている「力」さえあれば食も必要ないので他の種族がお金でのやり取りをしていることは知っていたけどそれを己自身のやっていることに重ねることが出来なかったのですね。

 なまじ他種族と関わらずとも生きれるだけの生態でしかも変化にも長け、おまけに世界最高峰と言っても過言ではない頑丈な繭に擬態できて人前に出ている間は全く外からの干渉を受けない存在だったためにこんな結果に……。

「……知らぬこととはいえ他種族の皆さんには多大な迷惑をかけていたようで……これからはこんなことのないように種族をあげて徹底させますので……」

 この短期間でものすごく疲れた顔をしたシルバーさんがぺこんと頭を下げられます。それにあわせて他の本の虫さんも「きゅい~~」と次々に頭を下げられました。

 え~~っとわたくしとしては反省しているようだし再犯の恐れもなさそうだし無罪放免にしてあげたい所ですが……。

 プルプル震えている村長さんに難しい顔のノール爺さんの考えを無視して押し通せませんよね。実際に被害に遭っていたのはわたくしではなくこの世界の人たちですから。

「おめぇらよぉ~~謝ってはい、それでおしまいってわけにはいかねぇってわかってんだろ?」

 ノール爺さんのお顔がとても厳しくなります。なんだかんだと文句と愚痴と説教が多いですが本屋という仕事に誇りをもっていらっしゃる人です。知らなかったとはいえ不当に本を占拠し続けてきた本の虫さんには鬱憤が溜まっているのでしょうか。

「もちろんです」

 真剣な顔でシルバーさんが頷かれます。あ、なんか覚悟を決めちゃったお侍さんの顔ですよ。あれ。

 どうしよう腹きりとか普通にしそうな顔をしてらっしゃいます。この子。

「ノール爺さん……あの」

「小娘は口出しするな」

「……あうっ……」

 ノール爺さんに鋭く一喝されて思わず肩をすくませてしまいます。

 あうぅぅぅ。駄目です。口出しなどできません。

 怖いし、そして何より……口出しする権利が自分にあると思えないから何も言えなくなってしまいます。

 なんか、自分がこの世界の人間じゃないって今、すごく感じます。だって本の虫さんたちのことを知ったのは本当に数時間前のことでした。すぐに作戦に入ってしまったので迷惑かけられたという実感は正直なところ、わたくしにはありません。

 本の虫がぁ!と息巻いて怒っていたノール爺さん。多分、ノール爺さんの反応のほうが”当たり前”なのでしょう。

 ぎゅうと陽を抱きしめます。

『…………』

 いつもはつるりとし冷たくも温かくもない卵がほんの少しだけわたくしを慰めるかのように温かくなったように感じたのは気のせいでしょうか?



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