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店舗日誌 十一ページ目

 きゅいきゅいきゅい。

 可愛らしいですけど確実にしばらくの間耳に残りそうな本の虫たちの小会議はようやく終わったらしく一人の本の虫が村長さんの前に進み出ました。

 ……おかしいですね。普通に歩いているはずなのですけどどうしてもこの子たちの足音にてててって擬音をつけたくなるんですよね。どうしてでしょうか?

 そんなささやかな疑問を抱くわたくしをよそに本の虫たちの代表と思われる子がこちらに近づいてきます。

 茶色系の髪と目の色をした子が多い中で銀髪に深い緑色の瞳という珍しい色彩をもった子でした。

 くせっ毛なのか寝癖なのかあっちこっち自由にはねた髪は無理やり帽子をかぶってもなおはみ出てしまっています。丸めがね越しにこちらを見つめる緑色の瞳は周囲の本の虫たちがまん丸なのにたいしてアーモンド型でめがねをかけているせいでしょうか、可愛らしさのなかにも鋭さがあり神経質な学者さんのように感じられました。

 銀髪の本の虫さんが村長さんの前で止まり村長さんを見上げます。

 ぷるぷる通常通り震えている村長さんがそっと手を差し出しました。

 彼にしてみればあまりにも大きなその手を本の虫さんはじっと見つめます。

『きゅ、きゅい……!』

 手に汗握るといった感じて固唾を呑む本の虫さんたち。小さな声で『きゅい~~!』って言っているのは多分「がんばれ~~!」って意味なんでしょうね~~。

 地面にいる子たちも木の上に鈴なりに座っている子たちもじっと自分たちの代表と村長さんを見守っています。

 考えてみればこれって今まで交渉のなかった二つの種族(本の虫と竜)の歴史的会談ですか?

 そう考えるとわたくし、もしかしてものすごい場所に立ち会っているのでしょうか?


 そんなことを頭の片隅で考えていたわたくしでした。

 後年、この時のことは本の虫との付き合い方や彼らのあり方を劇的に変えた一場面として両種族だけでなく世界に広く語られていくことになるのですがもちろんこの時は誰一人としてそんな未来を想像できるわけでなく、ただどうなるかわからない会談の行方をみんな緊張の面持ちで見守っていました。

 

 代表さんは差し出された村長さんの手に小さな自分の手を乗せると「よろしく」とかわいらしい声で言いました。

 おお~~ここにきて初めて本の虫から「きゅい」以外の言葉が発せられましたよ~~。わたくしなんだか変な所に感心してしまいました。

 村長さんもふぉふぉふぉと好々爺の笑みで「よろしく」と返し、そして竜と本の虫。二つの種族の会談が始まりました。



本の虫の代表さん……彼らの言語での名前はわたくし達が使う言語での表現が難しいらしいので(何度聞いてもきゅいとしか聞き取れなかった)彼はわたくしたちに非礼をわびつつ便宜上シルバーと名乗られました。

 村長さんもそれを受け入れられたので以後、代表さんのことはシルバーさんとお呼びいたします。


「村長殿はわれらに対して害意はないと申されたが、ならばなぜわれらを一箇所におびき寄せ結界で閉じ込めるようなまねをされたのだ?」

 シルバーさんはどうやらこちらの言語にかなり精通しているようでよどみなく言葉を紡がれています。でもしっかりとした喋り方なんですが声と外見でどうして幼子ががんばって大人の喋りを真似ているように見えてしまってなんだか和んでしまうのです。

 陽を膝にのせほわほわしてしまうわたくしを正気つかせるためにノール爺さんが何度もほっぺたをつついてきました。

「騙す様なやり方でみなさんをここに集めたことは幾重にも謝罪しよう。じゃが言い訳をさせてもらえるのならわしらはそなた達がそのように確かな自我を持った存在とは思ってはおらなんだ。失礼を承知で言わせてもらえば本の虫は本能的に知識を集めることだけが目的の一種の精霊だというのがわしらの中の認識じゃ。今日までわしもそなたらと意思疎通ができるとは思わなんかったからのぉ~~」

「…………」

 まぁ、確かに図書館などの本のあるところに現れては本を繭に包み数年独占しまくりの存在と意思疎通が図れるだなんて誰が思うでしょうか。

 それに言い方は悪いですが彼らの被害は本だけなのです。本は解放されれば手元に戻るので実質かれらが多種族に与える損害はほとんどないと言っていいでしょう。

 あの繭を排除することもできない、本に擬態する存在。まぁ、怒るし恨んでもどうしようもない存在、だったのでしょうね。きっと。

「……知識を集めることはわれらの習性であり使命だ」

 村長さんの言葉を黙って聴いていたシルバーさんが静かに己の考えを口にされました。一言一言かみ締めるようにゆっくりと彼は話していきます。

「われわれはいずれ現れる”誰か”に手渡すために知識を集めなければいけない。それがどんな名でどんな姿であらわれるのかなに一つたわってはいない。ただ出会えば必ずわかる。そのためにわれらはありとあらゆる本を読み知識を蓄え、待ち続けるよう定められた種族だ」

「つまり……お前さんたちには知識を集めそれを渡す誰かがいて、そのために本のあるところに侵入しては本を繭に包んで読みふけっていたと?」

「そうだ」

『『『きゅ~~い!!』』』

 シルバーさんがなんの迷いもなく頷くと同時にあちらこちらから同意の声らしきものがあがります。

 なんだか「そうだそうだ!」「こんなことも知らないの~~?」といわれているきがします。

 でも、あの、それって……。


 不法侵入と他者所有の書物の不法占有は迷惑行為どころか犯罪ではないでしょうか?


「え?」

『『『きゅい?』』』

「……おや?」

 なぜでしょうか。全員の視線が再びわたくしに集まっていますよ?

 しかも本の虫さんたちは目をまん丸にしてわたくしを見ています。え、あれ?本当になんで見ているんですか?


「小娘。お前、思っていることが駄々漏れてんぞ」

 ぼそりとノール爺さんがつぶやいたのが耳に入ります。

 おやおやおや~~~?


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