5 高校一年生 春
入学式から二週間ほど経ち、新しく出会ったクラスメイトでは既にいくつかのグループが出来ていた。この高校では、颯太の中学からの友達は俺しかいなかった。俺は入学初日には颯太に心からのアドバイスを送ったのだった。
「いいか、新しく出来た友達は絶対家へ入れるなよ」
「分かった」
颯太は神妙に頷いていた。絶対あんまり気にしてないだろうベッド下をこいつが隠さないのは明らかだったため、事前の防止が必要だ。
しかし最大に警戒すべきは女であった。颯太はモテる。当然高校でも狙ってくる女子はいるが、基本はそっけない颯太になかなか仲良くなれないようで、将を射んとせばの要領で俺に話しかけてくる女の子も多い。
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今日は颯太が休みなので、関連して質問が多い。俺は颯太係か。いや否定はできないけど。
「ねぇ、翔くーん。颯太くんは今日はお休み?」
「あ-、昨日食った卵に当たったみたいで、休むらしいよ」
クラス男子の一番人気、ひなこちゃんも颯太狙いの1人である。
ひなこちゃんはちょっと首を傾げると、口元に手を当てて心配そうに言った。
「そっかぁ、食中毒なんて可哀想。大丈夫かなぁ。心配だよぉ」
俺は颯太が学校を休むと真っ先に夜中に殺られたかと心配になるんだがな。
「颯太は丈夫だから明日には来るだろうし、心配しなくて大丈夫」
「えー、翔くんつめたーい」
食中毒くらいで心配してたら、今頃ベッド下を心配しすぎて死んでるわ。
ひなこちゃんが頬をふくらませて怒るので、俺は既に心配の場所が違うから仕方ないと思いながらも「ごめんごめん」と謝っておく。
「ひなこ心配だから、お見舞い行ってもいいかな?」
「絶対やめたほうがいいと思うよ」
しまった、絶対、に力が入った。
「そうなんだぁ……わかった」
複雑な表情で頷くと、ひなこちゃんはすすっと移動して別の女子と話しだした。失敗した、と思ったが今から何を言ってもあまりフォローにならない気がする。
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放課後には「俺がひなこちゃんを好きで、颯太に会わせたくないからお見舞いを阻止した」という噂が流れているらしい。早すぎだろう。
「お前のクラスの女子から聞いたけど?」
隣のクラスの友達、昭人が言っていた。女子ネットワーク恐るべし。
昭人は中学からの俺の友達だが、颯太とはあまり親交がない。それ以上に事情を説明できない大きな理由がある。
どちらかというとひなこちゃんには、颯太というよりベッド下の女と会わせたくないからだったのだが、当然言い訳出来るものでもないため、曖昧に受け流すしかなかった。
「まあひなこちゃんは可愛いと思うけど、颯太狙いの女の子には興味はねえよ」
「そんなん言ったら俺ら絶対彼女できないわー」
けらけらと笑う昭人ではあるが、一見さっぱりとした気性のこいつの最大の欠点は、非常に恐がりだということだ。学校の怪談はもちろんダメ、以前合宿で怪談話をしてた最中こいつだけは一人で布団をかぶって聞いてないフリをしていた。さらに怖いから頼む、とトイレに俺を連れて行くという、お前は女子かという行動すらもあった。
当然、颯太のベッド下の話をしたら今後は、そうたの「そ」だけで逃げ出すレベルである。
「そういえば昭人、全然怖くない話するけど、ベッドと包丁と女の人っていうキーワードをどう思う?」
「やめろよおおおおおおおお」
うん、ダメだな。
早々にあきらめて話題を変える。
「いや、ほらベッドで寝てたら女の人が包丁でトントンとネギを刻みながら味噌汁をつくってくれるとかいいよなぁって……おい」
包丁でトントンと、という辺りで昭人は逃げ出してしまった。うん、絶対ダメだな。
相談相手が誰もいなくなり、ため息をついた俺はふと思い出した。
携帯電話を取り出すと、カチカチとメールを送る。
「元気ですか?」
返事はすぐ来た。
「ちょっとめーるは、いま、とらうまです」
美香さんもダメだった……。




