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2 お前空気読め

「あー、うーん」


 応援に来てくれた警官は、2人とも曖昧な笑顔で言った。


「部屋の隅々まで捜索しましたが、特に誰も居ませんでした」


 そんな訳ない。ばっちり目撃した。幸い目は合わなかったけど、長い髪の女の人が、手に包丁を持ってた!


「逃げたのかも知れない! 早く周囲も見回ってください!」


 俺は必死で言うが、50歳ほどのおじさんの警察官が首を振ると、若い警官も頷いた。


「中には他の人のいた形跡がまったくないですし、念のためエルベーターと入り口、階段の監視カメラも見ましたけど、お二人以外は誰も映ってなかったですよ」

「たまにあるんですよ、ほら、怖くて人に見えちゃったっていうのとか」


 2人とも宥めモードである。俺の……勘違い? そんな馬鹿な!

 慰めるように俺の肩を抱く颯太の手を振り払うと、俺は叫んだ。


「そんな訳ない! じゃあもう一度俺も行きます!」




 * * * * * * * * * *




 おそるおそる、もう一度部屋に入ってみる。

 前を警官がずかずかと歩いて行く。特に事件性はないと思っているのか、ひょいっとベッドの布団をめくると


「ね? 誰もいないでしょ?」


 !!??

 もう言葉もない。誰もが向いている視線の先に、女の人が居る。

 蒼白の俺に向かって、再度「ね?」と念押しをしてくる警官。助けを求めるように颯太を見ても、颯太も平然としている。若い警官もだ。


「そう……た? 見えない、のか?」

「いないぞ?」


 颯太は宥めるようにそう言う。

 俺だけがおかしいのか? 俺の目がおかしいのか?

 もはや自分すら信じられずに、女の人を凝視すると、彼女はすすっとベッドの奥へ入り込んだ。

 ……?

 眉間に皺を寄せると、さらに奥へといく。

 ??


「今、奥の方へ入ってったよ、な?」


 もう警官の目は可哀想な人を見るような目だ。ばさっと布団を下ろすと


「また何かあったら連絡してください。もしずっと同じようなら、お医者様へ受診されたほうがいいかもしれないですね」


 精神科を言外に勧められた。


「いや、しかし、だって!」


 おかしいではないか、見えるのに、なんで誰も信じてくれない、いやなんで誰も見えないんだ。


「ここ、1LDKで2万って、何かあったんですよね!?」

「ほら、そう思い込んでしまうと何かあったかのように見えてしまうんですよ」


 リアルタイムで見えてるって!!

 布団がおりたおかげか、すすっと女の人が手前まで来ている。なんださっきは布団がめくられて恥ずかしかったとかか!? そんな訳ないな!

 もう自分の思考が限界だった。


「では、失礼します」


 そう言って警官達が部屋をでると部屋には俺と颯太だけが残される。俺は颯太に言った。


「俺……がおかしいと思うか?」


 変だと思い込みすぎて、幻覚でも見えてると?

 颯太は首を振った。


「翔はそんな奴じゃない」


 颯太……。俺は胸が熱くなるのを感じた。


「俺、本当にベッドの下に女の人が見えるんだ。信じてくれるのか?」

「翔が言うなら信じるよ」


 なんだかさっきと違う涙が出てきた。幼なじみで、時に喧嘩したりもあったが十年以上も一緒にいる。小さい頃から友達だった。だから颯太が本気で俺を信じてくれているんだと口調で分かる。俺が涙目で笑いかけると、颯太は真剣な顔で付け加えてきた。


「そういえば姉さんもそう言ってた」


 ……先にそれ言えよおおおおおお!!





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