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18 最初の入居者


 眼鏡の妹さんは、赤い眼鏡をかけた可愛らしい女の人だった。眼鏡が三十歳付近っぽかったが、結構年は離れているのかもしれない。大学を卒業したくらいの年齢のようだ。


「今日は大学はなかったんですか?」

「え、やだ、社会人ですよぉ。大学はとっくに卒業してます」


 俺が尋ねると彼女は笑みを見せた。

 妹さんは小柄で可愛らしい人だった。長い髪の毛はゆるめのウェーブがかかっていて、ゆったりとしたニットが、着ている彼女の雰囲気を柔らかくしている。俺達よりは年齢が上のはずなのだが、子供っぽい笑みが年よりも若く見せているようだ。

 彼女は、俺達を中に通すと、ソファを勧めてくれた。颯太が住んでいる家と似た、1LDKのタイプの部屋だった。

 思わずベッド下を見ようとしてしまったが、ベッドがなかった。


「あ、今は布団です」


 彼女は俺の視線の意味を感じとってか、そう答える。さもありなん。変わらずベッドで寝ている太い神経の人でなくて正直ホッとした。


「メリーさんが来ちゃったら、怖いので」


 さらりと続く彼女の台詞にぎょっとする。メリーさんって、やはり、あの?

 彼女が指すものはベッド下の女のことに違いない。名付けたのか名乗られたのか。あ、そういえば。


「言い忘れましたが、俺は溝口翔です。翔で結構です。そっちの変人が今ベッドの上に平然と寝ている異常者です」


 俺がぺこりと頭を下げて、自己紹介と分かりやすい他者説明をしてやると、隣からクレームが来た。


「名前を説明する気すらないだろ、翔。先ほど名乗りましたが河野颯太です」


 頭を下げる颯太を見ると、妹さんは笑って応えた。


「鈴木結衣です。はじめまして。お兄ちゃんの方からもちらっと話を聞いています。あそこに住んでいらっしゃるんですよね」


 あそことはもちろんホーンテッドマンションのことである。


「はい、今で大体8ヶ月くらいになると思います」


 長いですねぇーと驚く結衣さんだが、怯えた様子ではない。


「現状については聞いてますか?」

「大体は。原因を聞きにいらっしゃったんですよね?」

「そうです。どこぞの自称幼なじみが頑として引っ越しをしようとしないため、どうにかしてあのベッド下のホラーかこいつと縁を切れるかを模索中です」


 結衣さんは、力強く頷く俺に目を向けた。そして隣で眉根を下げてしょんぼりとしている颯太を見て少し笑う。


「……正直なところ、私ずっと怖かったんです。メリーさんが追いかけてくるかも知れないし、私を殺すかもしれない。そんな気持ちで怯えていました。お兄ちゃんにも迷惑をかけちゃって……」


 ぽつりぽつりと、話し出す結衣さんの言葉に、俺達は黙って聞き入った。

 メリーと呼ばれているあの女と、結衣さんの間に一体どんなことが起こったのだろうか。


「そうしたらお兄ちゃんが『今住んでいる人はもう半年以上住んでいるから大丈夫だよ』って言ってくれて、すごく気になっていました。私もあなたたちとお話したかったんです」


 心配性のお兄ちゃんが反対したから、無理だったんですけど、と結衣さんは目を伏せて言った。よし、悪いのは全て眼鏡だ、あの眼鏡め。

 俺が再度眼鏡の眼鏡をどう割るか考えていると、じっと結衣さんがこちらを見つめてきた。


「翔さん、ごめんなさい。最初から全部説明します。その上でよかったら、お願いがあるんです」


 彼女は一度目を閉じると、決心したように傍らのチェストを開いた。そこから取り出した小さな物を、俺の方へと差し出して来た。


「これを、彼女へ。メリーさんに返したいんです」


 彼女が俺に渡してきた物は……黒く光る四角い物。

 ……携帯電話?

 渡されたその四角い携帯電話のようなものは、見たことのない種類であり、ボタンを押しても何の反応もしなかった。電池が切れているのかと思って底面を見てみるが、充電器を入れる穴が見当たらない。


「メリーさんの携帯電話です」


 ……はい?



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