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14 最初の契約者


 眼鏡の職場に突撃した。


「こんばんは眼鏡さん。とりあえずメールアドレスを教えろ」

「何ですかその強引なナンパみたいな挨拶は!」


 男をナンパする予定はないが、お前のメアドは教えてほしい。

 危機管理がなっている眼鏡はそそくさと手持ちの携帯をバッグに隠していた。ちっ。最新機種を持っていやがる眼鏡のくせに。


「なんのご用件でしょう」


 既に営業時間の終わりかけで、周囲に客はいない。俺は眼鏡の前に座ると切り出した。


「何の用かなんて分かってるだろ?」


 悪役か金融屋の台詞である。眼鏡鈴木の目が泳いだ。アレ以外の件で来るわけがない。俺が新しく一人暮らしするにしても絶対ここにはこない。


「アレの情報を教えて貰おうか」

「わ、私のスリーサイズは教えません!」


 分かっているくせに必死で話を逸らそうとする眼鏡がいた。お前のスリーサイズ聞くならあやさんのスリーサイズ聞くわ!

 そんなあやさんと颯太は2人して奥でアルバイトらしきお姉さんと一緒に談笑している。おい、お前ら。というか颯太お前。

 危機感を感じていない幼なじみはおいておいて、俺は鈴木をじろりと睨んだ。


「今日、颯太の手がぶった切られるところだったんだよ」

「!!?」


 驚いて顔を上げた鈴木の眼鏡がずれた。その目をまん丸にして俺を凝視してくる。


「あいつが手をベッド下に突っ込んで」

「!?」

「更に棒でつつこうと突っ込んで」

「ひぃ!」

「俺が慌てて颯太ごと引っこ抜いたら棒がすっぱりと切れていた」

「……!」


 鈴木がギギギとロボットのように颯太を見る。その目が「なにあの人こわい」と言っていた。大変悔しいが同感だ。ベッド下よりもたまに颯太が怖くなる。


「あいつがあのままあそこに住んだら、いずれ死ぬと確信する俺がいるんだよ!」

「ど、どちらかというとあなたが心配しすぎて死にそうな気がしますが……」


 うるさい黙れ。

 俺の無言の視線に黙る鈴木。しばらく逡巡するように顔を伏せていたが、仕方なく頷いた。


「分かりました……私の知る情報で良かったら、話します」

「じゃあ何だよ、ベッド下のアレは」

「分かりません」


 終了。

 ……役に立たないにもほどがある。俺が黙って携帯の赤外線通信を指さすと、鈴木はぷるぷると首を振った。


「いや、あの、私にもあれがなんであそこにいるのかは分からないんです!」

「じゃあなんで……というか」


 原因を探るならば、聞きたかったことは一つ。


「いつから、あれはいるんだ?」


 鈴木はその質問を予測していたようで、ぎゅっと目を瞑ると答えた。


「……最初の、契約者様が引っ越した後は連続してすぐに引っ越しされています」

「っ! じゃあ、その最初の契約者って誰なんだ!?」


 鈴木は俺の目を見るとしっかりと言った。


「――仕事上の守秘義務に違反するため、お伝えできません」




 * * * * * * * * * *




 その後どんなに脅しても宥めても、決して鈴木は最初の契約者の事を話すことはなかった。

 彼にとっては譲れないところだったのだろう。

 手詰まりになった俺たちは、一旦諦めて帰ることにした。時間も遅くなったため、あやさんはここから一度東京へ帰るという。


「じゃあ、駅まで送ります」


 颯太の言葉にあやさんは嬉しそうに頷く。

 ……もしかして、俺はここではぐれてやるのが親切なのだろうか。あやさんが颯太に好意を持っているのは見て分かるし、颯太もあやさんには普通の女の子に対するような壁が感じられない。

 不動産屋の出入り口前で立ち止まると、こっそりと脇道に逸れた。あやさんは頬を赤くしたまま颯太に話しかけ、颯太も笑顔でそれに応じている。しかし、少し進んだ颯太が不思議そうに周りを見回した。


「あれ……翔? あやさん、すみませんちょっと待ってください」

「あ、はい」


 きょろきょろと周りを見る颯太。俺は脇道の奥へ行くと、メールを一通送っておいた。


「邪魔っぽいし俺はこのまま帰る。ちゃんとあやさんとアドレス交換しておけよ!」


 そうしてそのまま俺は家路へと向かう。すでにとっぷりと暮れた夜空には綺麗な月が光っていた。なんとなく物悲しい気持ちが沸いてくるが、そんな気持ちを頭を振って追い払う。




 別に友達に彼女が出来ることが悲しいとか、そんな心の狭い男じゃないぞ。ないったらない。



 そう心の中で呟くと、ベッド下が怖くない安心の我が家へと向かうのだった。



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