10 見える人見えない人
翌日。親父さんは颯太と十分親子のふれあいをしたと満足して東北へ帰っていった。
颯太が休み時間にそう言った。俺が颯太を探るように見ると、彼は頷いた。
「ベッドは父さんに譲った」
完璧なる気遣いであり、そこに何の意図もない。意図はないんだが……チッ。
「無事で何よりだな」
「翔、説得力ない」
「うっせ」
さて不思議なことである。俺には見えるベッド下が、颯太には見えない。
美香さんにも見えるが親父さんには見えない。
不動産屋鈴木には見えるらしいが、警官には見えない。
この差は、この違いは一体どこからくるのだろうか。
「手っ取り早い方法をとるなら」
俺は無差別放射を考えた。
「お前がベッド下の写メとって、他の人に見せまくればいいんじゃねーの?」
見えるヤツが俺や美香さんのお仲間である。俺自身は全然霊感などないと思っていたのだが、アレはきっぱりくっきり見える。
「あー……姉さんに送った写メがあるから出来るけど?」
「冗談だ、トラウマを増やすな」
あの眼鏡になら見せても構わないと思うが、クラスメイトや桜ちゃん、他の人が心に傷を負うような行動は出来れば避けたいところである。
そこでチャイムが鳴ったため、その話はお預けになった。
うーん……何らかの規則性でも、あるのだろうか……?
* * * * * * * * * *
放課後、俺と颯太は今日はバイトがないため、連れだって家路へと向かう。途中に颯太のマンションがあるため、その前でいつもは別れるのだが。
「あの、あなたが河野颯太さんですか?」
マンションの前にいた女の人……年齢は俺たちより上の、大学生くらいだろうか? 思い詰めたような表情で話しかけてきた人がいる。
「そうですが、なにか?」
颯太が返事すると彼女は重ねて、真剣な表情で尋ねる。
「……301号室に住んでますよね?」
「はい」
その返事に、女性は言った。
「……ベッド下に、何かいます?」
……え? 何でそれを?
颯太は驚いた表情で目を見開いた。同じく目を丸くしている俺をちらりと見ると、彼女に向き直って頷いた。
「そうみたいです」
すると、女の人は信じられないとばかりに首を振った。
「なんでそんなところに住んでるんですか?」
それは俺も聞きたい。応じる颯太は表情を動かさずにあっさりと言う。
「安いからです」
そういえばそうだった。ブレのない奴だ。動揺した女性は叫ぶように言った。
「安いからってそんな変な部屋に住んでるなんて何を考えてるんですか!?」
俺もそう思う。心から思う。
……が、いきなり見ず知らずの人間に非難される筋合いはないのではなかろうか。
「あの、いきなり来て何なんですか? むしろあなたは?」
「あっ、興奮していきなりまくしたてて、ごめんなさい」
俺が少し非難めいた口調で尋ねると、はっと気付いて彼女は謝罪した。そして改めて俺と颯太に向かって言う。
「自己紹介遅れてすみません。私、琴石あやです。美香と……あなたのお姉さんの美香とルームシェアしています」