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0004 我が轟は猫である

 とどろき優香ゆうかはハンバーガーショップで、少し遅めの昼食をとっていた。

 午後2時前――あと十分もしない内に2時になる。

 紺のブレザーに、グレーのプリーツスカートという極めてありきれた制服を身にまとっている優香は、大きなため息をついた。

 優香の前には、テーブルを挟んで、優香と同じ制服の女子高校生が座っていた。

「だからさー。好きならさ、好きです。て言えばいいじゃん」

 うんざりした顔で、優香が言った。今日このフレーズは何回目だろうか? 1ヶ月のトータルならば、とうに100は越えているだろう。

「優香は簡単にコクれって言うけどー、口にするより行動する方がずっと難しいんだよ?」

「告白ってのは、口でするもんでしょ。普通」

「むー! 他人事だと思って! さっきおごってあげたシェイク代返してもらうよ? なんなら、今優香が食べてるハンバーガーも」

「……」

 優香はクラスメイトの西谷にしたに可奈かなの恋愛相談を受けていた。今回で通算9回目の恋愛相談だった。

「ねえ」

 可奈が言った。

「ん?」

「明日、神宮くんの好みのタイプ聞いてきてよ」

 ブッー! とまるでマンガのように、優香は飲んでいたシェイクを噴き出した。その口から出てきたシェイクは、当然のごとく重力に逆らうことはできずに、テーブルにぶちまけられた。

「ちょっと、優香、大丈夫?」

 あーあー、呟きながら可奈がテーブルをポケットティッシュで拭く。

「『大丈夫?』じゃないでしょ!」

 優香の顔は羞恥でなのか必死だからなのか、まるでたこのような色の赤面になっていた。

「なな、な、何で、私が、そんなことを聞かないといけないのよっ!」

「えー、駄目なのー? 優香なら引き受けてくれると思ったのになー」

 可奈がわざとらしく口先を尖らせる。

「じゃあさ、駅前の牛丼屋で鰻丼おごるから! ね? どう?」

「駄目」

「駄目なの?」

「駄目」

「どうして?」

「だいたいなんで牛丼屋で鰻丼なのよ! しかもなんでまた食べ物なの!? 私はそんなに食べ物で釣られる女って思ってんの?」

 ツッコミを我慢しようとしていた優香だったが、はやくも限界がきた。


 可奈の恋愛相談を受けている内に、夕方の6時を過ぎていた。

 夕日が建物を茜色に染めていて、ところどころ反射した光が、ぎらぎらと輝きながら目に入ってきて眩しいい。

 あのあと優香は、牛丼屋に連れて行かされ、無理やり鰻丼をほおばされ、駅の本屋では恋愛テクニックがどーのこーのという本の立ち読みに付き合わされたのだった。結局、3、4冊ほど可奈は恋愛関連の書籍を購入していた。何故かそのうち1冊を「優香に好きな男の子ができたときのために」と言われ、強引に渡された。優香は興味が無かったが、お金は可奈が払ったので、捨てたり、返品せずに置いておくことにした。

 今はその帰り道である。可奈とは家の方向が多少違うため、今は優香1人だった。

「ふぅー、もしかして、私っていいように利用されてる?」

 優香はため息をつきながら家族と温かい夕食が待つ家へと帰って行った。

「まいっか! 可奈とは幼馴染だし、私も助けてとは言ってないけど、助けられたことはあったしね!」

 家についた優香は、自分で自分を納得させ、深くも浅くもない睡眠へと堕ちた。

 その睡眠で不思議な夢を見た。

 内容はあまり思い出せないのだが、やや印象に残っているフレーズのようなものがあった。


 轟優香は猫だ。

 気ままで、友達を助け、気ままで、他人を助け、気ままで誰かを見捨てる。

 自由に行動し、予定は未定。

 世の中に『絶対』はなく、すべては『偶然』だと思っており、しかし、それすらも深く考えず、気ままに生きる。

 周りに流されることも無いが、周りを引っ張ることもしない。

 自分のためにも、他人のためにも生きず、ただ気ままに生きる猫。

 その猫は轟優香である。

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