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0003 ジャメヴ

「バラバラ死体ね……最近の世の中はやけに物騒だな」

 桐野きりの竜也たつやはお世辞でも綺麗とは言えないアパートの一室で、コーヒーをすすりながら、新聞の記事を読んでいた。

『<マンション一室でバラバラ事件>

 昨夜未明、●●-××のマンションの一室にて、手足を両腕とも切断された男性の遺体が発見された。被害者の名前は岩城いわき正志まさし(31)。部屋には血痕は残されておらず、殺害現場は別の場所であると――』

「まったく酷いことをする奴もいるもんやなあ。人間をばらすなんて――バラバラ死体……バラバラ死体か…」

 桐野は記憶の奥深くにある思い当たる事柄を探索する。

「何か、そんな都市伝説があったはずやな」

 オカルト研究部の同輩に聞いた都市伝説だったはずだ。

 しかし思い出せない。

「ま、ええか」

 たとえ、どれほど物騒な事件でもオカルトに思考回路を持って行ってしまう自分は不謹慎だなと思いながら、自虐的に苦笑した。

「ちょっと、それ、見せてよ」

 姉の響子きょうこがそう言い、手をのばしてくる。

 ちゃぶ台のようなテーブルで、桐野と響子は向かい合わせという状態で朝食をとっていたので、いとも簡単に響子の手が新聞をつかむ。

「待ってぇや! まだ途中までし――」

「――大学生になっても、ガキだなあ、竜也」

 響子は強引に新聞を取った。いや、盗った。もしくは『獲った』。桐野の新聞をつかむ力は変わらなかったが、彼女にとっては気にするほどのものでもなかった。

「……」

「……」

 響子は黙々と新聞の記事を読む。

「女より弱いということで、俺のプライドはズタズタ何ですけど」

「あんたが弱いからじゃん。その理由は」

「うっ……」

「大丈夫さ、あたし以外の女には、そう負けないだろ?」

「……」

「何だ! その黙りこみは! まさか……あんた……」

「いやいやいいやいやいあや。そ、そんなわけないだろ?」

 桐野は呂律が回らなくなった。しかも標準語になってる。

「動揺しまくりじゃん! 言葉もおかしいし!」

「いや、これはホンマに違うんや! 誤解やねん!」

「ほう。偽りであると?」

「そや、偽りや。俺は姉ちゃんのせいで女が苦手やねん! 別に女に負けてるわけちゃうねん!」

「青二才が! 戯言をほざいている暇があったら、勉強しろ! 留年したら殺すぞあんた」

「青二才ちゃうわ! もう21歳や!」

「嘘をつくな! 21にもなって女に興味がないだと? もしくは21のくせに女性不審か、あんたは!」

 もう1つ、2つほど響子に言いたいことがあるのだが、桐野は言わなかった。ボロアパートとはいえ、ここの家賃は響子が払っているからだ。

「もうええわ」

 らちが上がらないと判断した桐野は、席を立ち、コーヒーカップを台所に置くと、外出の支度を済ませた。

「んじゃ、学校行ってくるわ」

「とっとと出ていけ」

「それが実の弟に対する態度なんか!?」

「なら家賃、あんたが払いな」

「鬼かいな! あんたは!」

「ホモ野郎のあんたよりかは、鬼の方がましだね」

「くっ……」

 桐野はどうせ、俺の人生なんてこんなもんだ、と心の内で吐き捨てながら大学に向かった。

 しかし、何かよくわからないが、彼は違和感を覚えていた。今朝の日常に。

(何か気持ち悪いねんな。すっきりせえへん……)

 今朝のことをもう1度思い出す。

 特に変わった点は無い、と思う――多分。

(こういうのを……ジャメヴっていうんやろか?)


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