0002 たがが延長線
神宮蓮は学校の教室で大きなあくびをした。
「高校生活ってのは……こんなにもつまらないものなんだね」
蓮は少女のような可愛らしい声で言った。
「……かもな」
隣にいる少年――鬼崎飛鳥が気だるそうに言う。
「つい半年前までのエキサイティングな日々が懐かしいよ」
蓮は目を閉ざし、2、3秒した後に目を開けた。
「ああ、あの時は――楽しかった」
鬼崎は無言のまま小さく頷いた。そしてほとんど開けることの無い口を開けた。
「だがな」
「ん?」
「高校生活も捨てたものじゃない……かもな」
「何か面白そうなことでもあるの?」
蓮の大きな黒い瞳が輝く。
「蓮は都市伝説は好きか?」
「どちらかと言えば、嫌い」
「だろうな」
蓮の気持ちよいとは言い難い返事に鬼崎は表情を変えなかった。
「ちょっと来い」
鬼崎がそう言い、座席を立った。
小首をかしげながら蓮は鬼崎に続き、2人は教室を後にした。
神宮連と鬼崎飛鳥は出会ってから半年の仲である。中学三年生の夏ごろに初めて出会い、不思議と意気投合し、今でも一緒に行動することが多い。
奇人『ハンニバル』と呼ばれる蓮の容姿は、極めて中性的で、少し長めの黒いくせ毛と大きな黒光りする瞳が特徴的だ。そのため、未だに性別を間違われることが多い。『蓮』の字を『連』と間違われることも多い。
異性にもかなり好かれやすい彼だが、不思議な奴、とよく言われることがある。
退屈と不毛が嫌いな男――神宮蓮は常軌を逸する行動を平然とやってのけるからだ。その具体例を1つ1つ上げると切りがないのでやめておくが、クラスの端っこにいる平凡な少年と呼ぶ者は誰もいないだろう。蓮自身は自覚がなく、自分のことを普通の高校生を思っているが、誰も咎めたりはしない。中性的な容姿とやわらかい雰囲気が、その要因だろう。
そんな蓮とよく行動している鬼崎飛鳥は、蓮と同じく、蓮以上にクラスで浮いている存在だった。
異様に長い黒髪もそうだが、生気が宿っていないような、死んだ魚のような目が異質な雰囲気をかもし出していた。
勉強もスポーツも必要以上にすることを拒む。しかし、勉強もスポーツも全国トップクラスの成績を残している(スポーツにおいては、個人プレイしかしないのだが)。
蓮以外の人間と話すことも殆どない。他人と深い関係を持つことをよしとしない性格らしい。学校も欠席がちで、わざわざ自分で出席日数を計算しているらしい。生まれながらの『天才』の頭脳によれば、ほぼ労力を必要としないのだろう。
神宮蓮と鬼崎飛鳥は、クラスのはみ出し者、それだけの理由で繋がっていた。
神宮蓮と鬼崎飛鳥は、クラスのはみ出し者、それだけの理由で繋がっている。
蓮と鬼崎と一部の人間を除いた者は、そう思っている。
しかし――彼らの繋がりはそれだけで成り立ってはいない。
蓮は鬼崎に連れられ、屋上に来ていた。
屋上では、ビュービューと音を立てて、少し強めだが、心地よい薫風が吹いている。
上を見上げれば、雲1つない快晴の青空。端の柵に身を乗り出せば、下にはグラウンドが広がっていた。昼休みということもあってか、グラウンドには大勢の男子生徒がたむろしていた――蓮や鬼崎には関係のないことだった。遠くには小さくなった数多くのビルや住宅が見えた。その付近の上空を2羽のカラスが、もめごとをしてるかのように飛んでいた。
2羽のカラスの姿もだんだんと小さくなり、やがて見えなくなった。
「面白そうな話って何?」
蓮が鬼崎に話しかける。
死んだ魚の目が蓮の方を向く。
「何、半年前の推理ゲームの延長線さ」
「奇怪な事件には、奇人の探偵が必要だろ? ――ハンニバル」