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(仮)  作者: イル
1/1

Jack 1

濃い霧が立ち込める第三区で、フードを被った男が酒場の扉を押し開ける。

ドアベルが鳴った瞬間、騒がしかった客たちはその方を向いたが、すぐに視線を戻し会話を再開した。

カウンター席に座った男に、店主がジョッキにビールを注ぎながら話しかける。

「ジャック、聞いたか?例の話。」

「ふん、聖都中どこもその話で持ち切りだ。俺にはどうも信じられないがね。」

「だがな、円卓はもう次の王を探し始めてるって話じゃねぇか。お前さん...」

男は勢い良くジョッキを置き、店主を睨む。

「何が神罰だ。どうせいつもの『十六夜』の譫言だろ、円卓の連中に踊らされるのはごめんだね。」

真に迫った顔に、店主はそれ以上の言葉は発せなかった。

その時、客の一人が不意に立ち上がった。

「ヒャッヒャッヒャッ、まだ復讐ごっこしてんのかぁ?こりゃトンだ傑作だな。オメー如きが円卓に敵うわけねぇだろ。」

「それによぉ、()()()は邪教徒どもに呪い殺されたって話じゃねぇか。大層酷い顔でもがきながら逝っちまったってよォ?どうやら、一足遅かったようだなァ」

一瞬にして軽口をたたいた客の喉元に短剣が押し当てられ、首筋に沿って血が滴る。

「口には気をつけろ。」

フードが外れ、漆黒で染め上げたような髪が舞い、その間から鋭い眼光が相手を突き刺す。

「ッ...オマェ」

湿気た酒場の中を、張り詰めた空気が流れる。数秒にも数分にも思えた静寂の後、男は短剣を戻しドアへと歩き出した。

床の軋む音が、静止した時間にその役割を思い出させる。

「おい待てぇ!」

「やめとけ。」

大柄な客が今にも襲い掛かろうとする客の腕をつかんだ。

「チッ...」

店には、ドアベルの音だけが響いた。


(「『繊月』が死んだ?あいつがそんな簡単に死ぬわけない。俺が真相を突き止める。奴の息の根を止めるのは、俺だ。」)


聖都を包む濃霧でさえ、男の冷たく燃える闘志を包み込むことは出来ないのだろう。

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