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レディの今昔

 かつて、レディは別の世界の偉い人の住む御殿で、『御位の命婦』という名で生活していた。

 その国の最高位にあたる帝に抱きかかえられて、平安京に入ったが、付き合いだけなら四〇〇年に及ぶ。


 当代の頭の良くない帝が、ふらふらと市井の女に通った上に、病気を貰ってすでに生まれていた娘以外にもう作れない身になった(直系の娘に病気を移されてはたまらないので、娘はわずか四歳で伊勢の斎宮に隔離された。今は十四歳になる)。それだけでもイライラしたのに。

 外国産の狐の化け物を引き入れた。

「この手の狐は、人間の精(この場合性欲ではなく、生命力)吸う奴っっ」

 と、命婦は激怒した。

「だって、狐っ娘だよ」

「おまいの頭の悪さは、歴代随一だったけれど、命と国への結界ぐらいは守れよ、この阿呆」

 と、命婦は激怒し、陰陽師を率いて、外来9本尾狐と壮絶に戦った。

 この手の悪い魔魅を入れないために、宮中を結界で守っていたのに、引き入れやがって、この阿呆がっと腹が立つ。

 尾を一つ命婦は食いちぎり、狐はその痛みで一度引いたが、京内に潜伏。

 命婦も耳を引きちぎられた。目が無事だっただけでも、儲けものとでも思わねばやってられない。

「御位さまっ」

「今より、これは私からおまいらへの、最後の司令というか、遺言である。伊勢より、斎宮を呼びよせよ。今よりかの姫は女東宮であり、斎宮には降嫁せし四宮の娘(三歳っ)にちっといってもらって。四宮は斎宮になる姫についていけっ。国への祭祀途絶えてはならぬ。出家せし、今生帝の異母弟を還俗させ、女東宮の婿として、血統を維持せよ。っていうか、国の防御結界が揺らいだから、濃い血の皇族を産んで、次の次の帝にし、閻魔庁を経由して各寺社仏閣と連携を再度深めよ。ええい、阿部よ、地獄より篁を呼んでそのあたり調整せよ」

「命婦様っ、斎宮馳せ参じましたっ」

 男装の娘が白い狐に乗って宮中奥に飛び込んできた。

「早いなっ。稲荷の眷属、お疲れ様」

白狐「外来種を入れないで下さいよもー。次の斎宮、母親ごと連れて行きますねー、急ぎますよ」

「すまん~、ついでに男系維持しているの、何人か、稲荷に預ける。女系統でも全然構わないんだが、陽(男)の因子が中央にいることで強化される結界になってる上、数代は近親間での婚姻を続けて、強い祭祀の血を産まねばならんのよ。場が、中央が穢れた」

白狐「人間側の調整、お疲れ様ですね」

斎宮「婿にする僧都な叔父上。男色家では」

「ありゃ、流される男だから、おまいがっ、押し倒せ。起てば子供を作れる。っていっても、おまいの身体と生命を優先し、十七になるまで孕むの禁ず」

斎宮「乱暴ですけれど、ここまで場が乱されては仕方なし。押し倒すのはあと三年後ですね」

陰陽師「戦犯(帝)はどうします?」

「禿げ散らかせ」


 関係者一同は思った。


 出家だけですますなんて、お優しい

 っていうか、それですますんかーい。


 馬鹿な子は可愛いんだ。仕方ない。

 宮中総出で、帝の頭を剃って、寺院にぶち込み、女東宮が今生帝になった。


 斎宮→東宮(半日)→今生帝


 狐をあぶり出し、命婦がさらに尾を一つ食いちぎり。

 そして、渾身の一撃で、喉に食いついたが、この時に大怪我を負った。

「京よ、皆よ、私は怪我の回復のため、去る。あいつの力は半減ぐらいした(実質4割は削った)、あとは頼むっ」

 と、九尾の狐の力の源である尻尾二つを抱えて、命婦は転移した。



 予定では違う星系の、ずいぶん科学が進んだ連中のところに行く予定だった。

 だが。

 そこがなくなっていた。

 星系間戦争で。

 太陽すら掻き消えていて。


「え?」


 と、動揺した瞬間。

 別世界に飛んでいた。


 何があったのか理解したのは、その飛ばされたあとで。


「あいつら、戦争嫌って、『星系ごとワープ』したから、余波で世界の壁が・・・おかしく」



 まあきっと、彼らは無事なのだろう。450年ぐらい会ってないけれど。



 飛ばされた先は、たまに岩が転がるだだっ広い草原で、草丈は大人の腰よりやや下ぐらい。涼しいし、枯れ始めた葉が目立つので、秋か初冬だろう。

 岩の陰で二日ぐらい、傷が痛くて身を潜めていた。


 猫に九生あり


 かつて、死んで生まれた我が仔に一つ、渡して生き返らせ。

 今回、狐の尾をあちらに取り戻させないために自分のものにするために、2本で2生、費やした。

 異世界に飛んだことで、1生費やして。


 無敵で無限と化け物どもから称えられ、太古より生き、閻魔大王ともダチなこの化け猫の、命の残数はざっくり半分近くになってしまった。

 傷がだいたいふさがり、尻尾も融合したので、人里にいこうと道を見つけてよろよろと歩いていたら、ザザに拾われた。

「おや、ぼろぼろなレディ。どうしたんですか? 保護者がいないなら、俺のところ来ますか?」

 ザザは農村での収穫の手伝いにいっており、年に数回しか使わない、彼の太もも半ばから頭の上まである大型リュックを負って歩いていた。

 中身は土産の果実とか収穫した作物、野営用の道具で詰まっている。

 今の命婦は毛艶は確かに最悪で、草臥れていたからぼろぼろなのは、仕方ない。

 道の端に座ったザザが、おいでおいでするので寄ると、皿に綺麗な水を入れて貰えてそれを飲むことが出来て、干肉を湯がいて塩気を抜いたのをパンと一緒に食べた。

 泣けるぐらいにうれしかった。

 ただの猫なのに、こんなによくしてくれるなんて。


 もう、しばらくはただの猫の生活を満喫するっ。


 命婦はレディと呼ばれるようになり、昼寝をころころしながら、たまにお愛想しておやつを貰う日々を送った。

 ザザに拾われて2週間で、真っ白な艶毛に戻り、綺麗だね、可愛いねと皆から言われ、

「当然よっ」

 と、お澄ましした。

 宮中にいたとき、蓮っ葉というか、肝っ玉母さん的に仕切る羽目に陥ったけれど、今度の飼い主はレディを『淑女』か『貴婦人』のように扱うので、

「ザザのそばでは一等の貴婦人でいてあげる」

 と、思っている。





私「黒猫より彼女っぽい」

無夜「酸いも甘いも極めし淑女ですから」

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