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あちしのおかげニャン

 ザザの、というより冒険者と呼ばれる連中の装備品は革が多い。

 基本的には、魔山羊の皮を鞣したもの。家畜化されて安定供給されているからだ。

 ついで多いのは、普通の兎の皮。うんざりするほど出没し、周囲の農家の敵である。

 これらの革製品は、水洗いは適さず、定期的に油分を補い、手入れをする。

 『魔』と頭につく生き物は、魔力が馴染みやすく、錬金術加工しやすい。

 デイバッグの中身を取り出して、青い粘液の中に沈める。コートは別である。皮革ではなく、毛織物を革偽装しているのだ。隣の大公領の軍服で、大公家の紋章が入る左胸ポケットのところにレディのシルエットが刺繍されている。

 本当は不味いのだろうが、ここの前領主と、大公は仲がよい。(国が違うのに)猫好き同士のお隣さんで。

 彼らは、下僕が真摯に猫に仕える姿からしか接種できない栄養素を求めており、ザザとレディがひっかかった。

 大公はこのペアのありように大層満足して、軍服コートの予備をくれたのだ。

 コートは魔羊から刈られる毛を圧縮したもの。フェルトである。それだけでも、矢や刃物が貫通しにくい。

 魔羊も家畜化してはいるが、魔山羊より飼いにくいこともあって、とても高い。

 フェルトも水洗いすると縮んでしまい、駄目なので、さらっとした薄い水色の液体に沈める。

 錬金術師協会で販売している、『革・毛用水溶性魔力成分含有油分補充洗剤(正式名称である)』が青い。革と毛の使用の違いは濃度が高いか低いかの差である。

 どちらも油分と魔力が補充されると、小さなひっかき傷ぐらいは消えていく。

 革は溶液をほとんど吸わないが、フェルトは飲む。飲むように吸い込む。

 だから、フェルトの場合、『革・毛(略)洗剤』に、水と魔力補充用オイルを半分ぐらい混ぜて使うので、色が薄い。

 メンテナンスに金がかかるが、それでもこのフェルトのコートは良質で、命を預けるに足る。個々でカスタマイズできるのが、特に良いところだ。

 ザザの手に渡ったとき、加工されたのは胸元の、背を向けた白い猫の刺繍のみ。本来そこに、大公家直轄軍の紋が入るが、他国の者に渡ったので消したのだ。

 刺繍には『フェルト地が普通の革に見える』という偽装の魔法がかかっていた。

「充填・完了だニャン」

 と報告する、変なギミックもあった。

 ザザ用だけならともかく、大公軍のコート全部にこれがかかっていたらメンテ室にぎやかだろうな、とか思うトマだった。

 革は洗剤液から出して、浮いた汚れとついている液を専用の布でふき取り、終了。リュックなどの袋物が多いので、中も拭くから手間がかかる。

 フェルトのコートは『完了だニャン』報告後、板を乗せて圧し、余分な水気を抜いてから桶から出す。

 これも専用布で拭いて、風に少し当てれば乾く。というか、多分、フェルトが吸収する。

 汚れは圧して出した水分っぽいものに含まれて出てくる。

 魔石が仕込んである左偽ポケット(右は猫の刺繍)の中を見て、魔力が充填されているのを念のため確認する。

 魔石はコート内の温度調節、両脇の大きなポケットの空間拡張、胸部の強化(もともと銅板ぐらいは堅いが、肩から心臓付近は槍の一撃も防げる。同じ箇所への二撃目は、まあ無理だけれど)。

 あと三つ仕込めるけれども、ザザはなんか不都合があったときに足そうと空けてある。



 コートが終わった後、普通の服は普通に湯で煮込み洗濯し、あとから回収した、蹴り蹴り噛み噛みされたシャツは、魔力を通して修繕する。形状記憶糸で作られているので、それが可能だ。

 そして、鍋に放り込んで、やはり煮こむ。その後、濯ぎ洗いするときに魔力補充用オイルを二滴ぐらい垂らす。

 ベテラン冒険者になると、頭のてっぺんからつま先まで、装備はだいたい魔力を帯びている。

「さて、ブーツも」




 ザザが風呂から上がってきたときには、普通の服以外はだいたい手渡せるようになっていた。

 服は乾くのに時間がかかる。森にはいるので、襟と手首、足首近くは厚手になっている。コートから出てしまう部位はやはり、ガードしなくては枝や石でも怪我はするのだから。

 コートが優秀すぎるので、ここまで過剰な保護はいらない気もするが、それは部外者や新人の考え方で、ベテランの考え方ではない。

 長く暗い森で採取していられるということは、ザザが慎重で用心深いことを表していた。


 新人は半年で2割、2年で7割が、引退したり死んだりで消えていく。


 とは、ベテラン達の言だ。

 一年を過ぎて馴れてきた頃に、怪我や死人が多くなる。

 身体力を上げるアイテムが手に入り、それに所有者の技量が追いつかないことも多い。



「ありがとう」


 と、ザザは言い、大きなリュックを受け取り、中をざっと確認してから、20日分のスープの素と携帯食料5日分詰めて、瓶に入った塩・胡椒・唐辛子・油を毛布に包んで入れた。

 予定は10日だが、念のためだろう。

 携帯食料も。

 滞在日数分の食料自体は、古鎧の担当らしいから。

 ザザの『持ちノルマ』は、スープの素、だけ。

 湯に入れると、ほうれん草とベーコンが溶け出すコンソメ風味と鹿干肉と細切り蕪のスープ(塩味)の二種である。  

 ついで乾燥野菜も一袋(2㎏)を入れていく。肉は現地調達可能だが、野菜は難しい。今時期なら、キノコがとれるけれども。それから、干し肉とベーコンの塊も念のため入れていく。

 ナッツや干果。これらは、ウエストポーチに。

「食べ物だけでいいんですか?」

「ま、今回は荷運び専門家雇っているしね。俺は家にある野営用カトラリー食器のセットは持っていくよ。あとはいつもの装備のままで良いし。ただレディのご飯とトイレを持っていかないと」

「え、ペット同伴で」

「おっさんしかいない10日間に癒しはいるんだよ。女性はトラブルからレディが最適なんだよ」

「なぁーん」

「何より十日も離れたくないからね」

 正妻というより愛人みたいな絡まり方をするレディをトマはふーんと眺めた。



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