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ハッスルハッスルにゃんにゃんにゃんっ

 月日の流れるのは早いもので、15年ぐらい前、師匠が死に、その親族に着の身着のまま追い出されて、道ばたで飢えていた少年をザザは拾った。

 少年は錬金術師見習いだった。

 当時も役所に知人が多かったザザは、

「錬金術師って、弟子の独立資金、師が積み立ててるはず、というかそういう規則だったな(弟子という名目で奴隷のようにこき使う連中が出ないように作られた規則)」と、知っていたので、役所から錬金術組合に連絡して貰い、とりあえず、その子を保護した。

 積み立ては使われてしまったので、その師の親戚一家は、強制労働にぶち込まれて、全然足りはしないが、10キン(50万ネカ)はとりあえず手に入れられて、屋台みたいな小さな移動組み立て店舗を出せた。

 まあ、今はちゃんとした店舗兼住まいを持って、人手が足りないから弟子を取っている。

 知り合いからはザザの店だろう、とか言われるが、手伝っただけだ。

 まあ、彼を育てた自負はあるけれど。

 というわけで、そんな付き合いの長い、トマの店にやってきた。

 本名はトマスなのだが、出会いがそんな感じで、力なく死にかけの状態で譫言みたいに名乗ったので、トマとしか聞こえず、関わったみんながトマと呼び続けたので、そのまま屋号になった。

 二階建てプラス屋根裏倉庫、がついた家で、弟子を引き取るときに買取した物件である。

 ちなみに屋根裏に行くとレディがすごく喜んで冒険しにいき、すき間に潜って出てこないため、必要時以外は梯子が外されてしまった。

 店舗の方にしか玄関はないため、そちらのドアを開けようとしたところで、トマの弟子の男の子が『閉店』札を持って出てきた。

「あ、ザザさん、こんばんは」

 明るい茶色の髪に暗めの灰色の目をしている。トマに引き取られてから、肉付きがよくなって、子供っぽい顔付きになっているが、会ったばかりの頃は餓死者の絵に出てきそうな細さだった。

 だから、トマの子っぽいなぁ。あの子もこんな感じ、より多少ましな状態だったよね、と思ったものだ。

「こんばんは。店閉めるところ、悪いね。預けたもんだけ取りに」

「それですむわけないでしょ。師匠、ザザさんきたよー」

 札をかけて、ザザを店に押し込んで、声をかける。高く、濁りのない子供の声だ。

 ザザはこの子の年齢に頓着しないというか、時間の流れの把握が年を取って微妙になったせいか、出会った8歳で更新されてないが、10歳である。名前はチェルという。農村部では、8歳ぐらいなら半大人扱い(人手として)になるから、チェル自身はザザからの子ども扱いに多々思うところがあるが、ザザが師匠のトマさえも子ども扱いなので、諦観した。

 認識を変えるのは無理だね、これは、と。


 店に入ると、薬や木の匂いがする。

 触媒にする骨や羽の燃えた匂いも混じる。かすかに、燃えた髪の不快な匂いもする。錬金術師は魔力を通しやすい自分の髪を燃やして何か作ったりもする。

 掃除しやすい白タイルの床。壁の棚に並ぶ売り物の小道具。鍋釜もあり、カウンターの後ろには魔石も並ぶ。

 折りたためるテーブルなどの家具もある。

「いらっしゃい、ザザさん」

 ザザの(息子)、と言われる理由は、顔立ちはそんなに似ていないが、穏やかな雰囲気と佇まいが似ており、髪と目の色、肌の焼け具合がそっくりだからだ。

 ザザはこれぐらいの子がいてもおかしくないのだから。

 ザザとしては死んだ甥っ子を重ねたのもある。

「預かりものの手入れは済んでますよ」

 森にロングステイするので、ザザが所持している中で最大のリュックと野営道具を預けていた。使えなかったり、破損していたりしたら、組んだ古鎧の連中に迷惑がかかる。今回、ポーター(荷物持ち)も誘ったので、ザザは行きと帰りの道案内と、暗い森のルールを破らせないように見張るのが仕事だ。

 やらかすと、魔王W・Dが出てきてしまう。

 世の中にはネームドと言われる魔物がいるのだが、暗い森とその近辺に出没する連中は、名前を呼ぶと出てきてしまうため、すべてイニシャル呼びである。

 赤いチョッキを着た黄色い巨熊Pとか、W・D配下の、大きな丸い耳をもった黒い鼠、雄は赤いチョッキのM・M、雌はリボンをつけたM・M。ついで、四天王(代理人)筆頭弁護士Rと、ほか三名とか。

 水色のチョッキを着た兎P・Rと赤のチョッキと帽子のB・Bとか。白いビーグルのSとか。

 そんな訳のわからぬ危険があるため、7日以上潜るときには詳しい人間を雇うことが義務付けられている。守らず、死亡する者も多い。

 十五年程前、よそから流れてきた冒険者が、森を維持する石にわざわざ立ちションして、結果、その男は石のそばで逆さづりにされて、喉を掻き切られ、干からびた死体として今もさらされている。

 そこまでの馬鹿はそうそういないが、教訓として子供向け紙芝居になって、広場で定期的にお役人がお話している。

 ついでに、魔王W・D自体が、森と水源を生み出すもの、なので退治されても困るのだ。 魔王が居なくなったら、この近辺はおろか、隣の大公領(隣国だが)も半壊するだろう。

「まあ、確認はあとにして、お風呂入っていってくださいよ。その間に、ウエストポーチとかほかのもの手入れしておきますから」

 と、カウンターの奥にあるドアから中に通される。


 中は湿気に強い土の壁と、同じ床になる。壁の上の方に蒸気を逃がす空気穴がある。

 薬などを作るので、常に大釜が煮えているためと、風呂を設置したので、湯気の逃げ場が必要なのでこんな作りになる。

 チェルが脱衣所に籠を持って現れたときには、ウエストポーチや使い慣れたナイフなどは、外し終えていた。

「もってきますね」

 と、チェルが拾っていく。

 と。

 脱いだシャツにレディがしがみついた。

「ちょっと。洗うからっ」

「ふっしゃーっっ」

 威嚇した後、レディはシャツに噛みつくと、蹴り蹴りしながら、興奮していった。


 獲物にゃ、獲物なのにゃ。


 ということなのだろうか。


「そのうち飽きるから。やらせてあげて」

「諦めますよ」

 着替えの入った籠を置いて、シャツは諦めて、それ以外は大きなトートバッグに入れてチェルは出て行った。

「脱いだシャツ、好きだからね、レディは。もうちょい、きれいなので遊んでほしいけども」

「うーうーうーー」

 ばっと放り投げたり、飛び掛かったり、


 けりけりけりけり


 したりしているので、ザザはほっておいて浴室に入った。

 町には二軒、風呂屋があって、値段は4テツ(200ネカ)で、週に二度ほどいく。それ以外は、アパートに、水しか出ないシャワーがあるので、夏はそれを浴びている。庭先で。

 ゆったり風呂に入れるのはありがたい。

 トマ一人の時は自家風呂に頓着しなかったが、チェルを引き取って、風呂屋で性犯罪に巻き込まれかけたので、風呂を作ることにした、と言っていた。

 その子供狙いの変態は、5年の労働義務で、領主の屋敷で監禁されて、魔力を使い切るまで魔石充電させられている。ちなみに魔力が切れると、昏睡する。軽犯罪者なら3ヶ月から半年ぐらいの同じ刑なので、相当重い刑だ。なにせ、魔力が1/3ぐらいになると軽い目眩がし、1割を切ると壮絶な頭痛に苛まれ、そして0になると昏睡。それを毎日。5年でだいたい20歳分ぐらい老ける。

 体を洗い、湯船につかり、疲れが抜けていくのを感じ取れる。

 特に、足から。

 年齢にしては若々しい肉体を維持しているが、やはり疲れやすくなった。

 湯の跳ねる音をさせていると、レディがシャツに飽きたのか浴室を覗きにきて、

「えっ」

 というような顔をした。

「毎回そういうお顔するね」

 おろおろっと浴槽の近くに寄って。

「にゃーん?」

 飼い主、もしくは下僕が、水(湯)に沈んでいるのを信じられないと、おかしいと、思っているようで、毎回心配してくれるのである。

「溺れないから大丈夫ですよ、レディ」

 レディが風呂に気を取られている間に、チェルがシャツを回収していった。

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