あちしは魔性の女にゃの~
そして、入り口に戻り。
夜勤の顔見知りとたわいなく雑談する。
昼勤は役所の新人が3年ほどここに勤め、領主の屋敷兼役場に移動していく。ちなみに、本当に役人なのは一人で、他は騎士見習いが警備のために何人か交代で待機している。
夜勤は少し物騒なので、引退した騎士と、お役人勤めを定年したあと、まだ働きたい人が来ている。
一応、お役所簡易手続き場所でもあるのだ。
冠婚葬祭の書類もここで受け付けているが、メインは冒険者・錬金術師登録と教育(説明)である。
30年近く、森での採取で生計を立てているザザにしてみたら、世話され、世話してきたのでみんな顔見知りである。
ザザ、45歳。森に潜る者の中で、4番目ぐらいに年かさで、15歳の頃から冒険者である。
「つーか、ザザ、明々後日から、15日も潜る予定入ってるな」
「本当の予定は10日だよ。予定日過ぎると、罰金すごくなるから多めに取ってるよ」
「帰る予定日の翌日に、遭難者とみなして捜索するからな。そりゃ、金取るよ」
「俺の名前で、帳簿に予定突っ込んでるけれど、リーダーは別だから。書いてあるだろ。狩猟メインは、蛇。だから、少し奥行くし」
「ああ、古鎧のメンバーか。珍しいな。あいつら、猪、盗賊、野犬専門だと思ってた」
「ごつい鎧持ってるからね、かれらは」
「あー、そういや、リーダーの娘さんが冬前には出産だったか。薬屋の、蛇で作る薬も切れてたな。茸取る婆さんが、嫁の産後の手伝いに隣町にいってるから、ついでにこれらをとってくる奴、今、いない」
「ばあちゃんさ、他に、何とってた?」
「けっこう、いろいろついでにとってきてんだよな。あれ、わりと在庫やばくねぇか」
と、退役騎士(簡易鎧着用。籠手、ブーツ、兜、胸当て)は帳簿を見直して。
「この辺は、在庫在るのか。咳止め草も、代替が、あるか。ちょっと効き悪いが。増乳薬(蛇の骨で作る)の方が、深刻だな。ってかさ、町の薬が、老婆一人の『ついで仕事』でまかなわれてるの、やばいだろ。いつまでも元気じゃねえぞ(森に潜る連中の中で最高齢である)」
「あと、20年ぐらいはひょこひょこ森で茸と蛇と薬草とってるよ、きっと。毒茸もないから、頼まれたんだよ」
「お前の小道具屋、な」
「大道具も売ってるけれどもね。俺のでもないれども」
回収し忘れた、レディのための携帯トイレを折りたたんでコンパクトにして、専用収納袋に入れて、
「そろそろ行くよ。店が閉まる」
今度こそ、本当にお暇である。
「ああっ、レディ、またな」
「そこは俺の名前言えよ。ったく、ねえ、レディ。貴女は魔性の女だから、みんな貴女にめろめろですねぇ」
「なぁ~ん」
まるで、もちろんです、と言いたげに返事をしたレディがとんっとデスクからザザの肩に跳び乗った。
夜勤の入口さん(定年後のお役人)は、やはり「ああ」と落胆に近いため息をついて、
「ばいばいヴランレディ」
と、名残惜しそうに送り出した。




