オタクくんはとてもモテたい
「僕から、どうしても君に伝えたいことがあるんだ」
その日、オタクはとても気分が良かった。
オタクは学生である。普通に勉学に励む方だった。励みながらも、アニメ視聴は欠かさない。そんなオタクだった。
そんなオタクの気分がいい理由は、非常に分かりやすいものであり、テスト期間が無事終了したのである。
結果なんてものは後から付いてくるものに過ぎず、必要なのは今の開放感であった。
ゆえに、オタクは。
「ねえ、ギャルさん」
非常に開放的になっており。
「僕はね──とってもモテたいんだ」
「オタクくんさあ」
ギャルは呆れた。呆れながら、口にプリッツを放り込んだ。
試験期間が終わりを告げ、互いの部活動前の中途半端な時間に、ばったり出会ってしまった故に突発的にお菓子パーティーが開催されていたのである。
「どうしたの急に」
「恥ずかしながら……………性欲かな」
「本当に恥ずかしいから、いっぺん三階の渡り廊下から飛び降りない?」
屋上は安全性の観点から封鎖されている。あと、最近カラスが近所のマンションからハンガーをかっぱらってきて巣作りしていた。
「そもそもだよ、ギャルさん」
オタクくんはめげなかった。男子高校生の欲望はすごかった。
「僕はね。気づいたんだ」
そもそも学問とは自然を解明することから始まっており、ゆえに勉強漬けになった少年が世界の理に触れることがあっても、不思議ではなかった。
「女の子はクズが好きなんだって」
ちなみに、倫理の試験範囲を読み込んでいる最中に思いついた。
「女性人気高い男キャラはだいたい中身終わってるって。──だから、僕も、そうしようと思うんだ」
オタクくんの自認は、内面は終わってない、であった。
ギャルだって、言われっぱなしではなかった。
「オタクくんさあ。それは内面を補えるだけの顔面がある前提であって、オタクくんみたいなセンスが求められる顔面は対象外だよ」
ギャルは優しかった。そして、さばさばとしているので、シンプルに突っ込んだ。
「──だからその手にもってるタケノコを手放しな。むしろ何をするつもりなんだよタケノコで」
季節外れなのに、なぜか皮付き。そこはそこで、ギャルにとって不思議だった。ギャルは季節感に優れていた。
「竹から戻したんだよ、これ」
「はあ?」
「だからさ、ギャルさん。僕はクズになろうと思うから──クズで竹をタケノコに戻したんだ。これで、竹界隈を無茶苦茶にしようかなって」
静寂が訪れる。
静寂を切り裂いて、チャイムが鳴り響いた。
「じゃあ、僕部活いくから」
オタクは机にかかっていたスパイクを手にしてグラウンドへ向かう。
ギャルはため息を吐きながら、教室の後ろに立てかけていたベースを背負って教室を出る。
「クズで竹をタケノコに戻す………………?」
たまたま教室の前を通りかかった教務主任の呟きは、廊下にぽつんと落ちてやがて消えていってしまった──。
「クズで、竹を、タケノコに………………?」




