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マーダーゲーム・トライアル  作者: ノムラユーリ(野村勇輔)
Stage1 廃墟の街

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第7回

   7


「だいじょ〜ぶ〜?」


 気の抜けたような女性の声が、非常階段の上から聞こえてくる。


 篠原さんだ。


「悪いな、お前に当たらねぇようタイミングを見計らってたら、ちょっと撃つのが遅くなっちまったわ」


 ヘラヘラとした軽い口調で、僕らから少し離れた場所の物陰から、零士さんが姿を現した。


 僕は助かったことに全身の力が抜けて、その場に膝から崩れ落ちた。


「……あ、あぁっ」


 声がうまく出せなかった。立ちあがろうにも、膝に力が入らない。


 そんな僕を、階段を降りてきた篠原さんが、腕を引っ張りあげて助け起こしてくれる。


「あらあら、仕方のない子」


 篠原さんは、僕の腕を彼女の肩に回してから、身を寄せるようにして身体を支えてくれた。


 ふと横に視線をやれば、僕と同じように、藤原さんも零士さんに助け起こされている。


 彼女が座り込んでいた場所には大きな水たまりができていたが、けれど、僕のズボンもぐっしょり濡れてしまっているので、人のことは決して言えない。


「まぁ、生きてて何よりだ。よく頑張ったな」


 そんな零士さんに僕は、

「あ、ありが、とう、ござい、ます……」

 なんとか舌を動かし、感謝を述べた。


「いっただろ、俺に任せろって」


 三日月状に口をニヤつかせる零士さんに、僕は訊ねる。


「も、もしかして、気付いてました? 緒方さんが――」


「殺人者かもしれないってことか? まぁ、最初からおかしかったからな、アイツ」


「……え?」

 眉を寄せる僕に、


「気付かなかった?」と篠原さんもくすりと笑んで、「まぁ、普通は気付かないか、あんな微妙な表情の差なんて」


「あいつ、終始笑ってたんだよ。つっても、俺みたいなニヤケじゃねぇ。心の奥底で俺たちを殺せるって喜んでるような目だっただろ?」


「ぜ、全然、気付かなかった――」


「まぁ、そのうち慣れてきたらわかるようになるだろうさ」


 そのうち、というのが気になったけれど、なんだか頭がぼうっとしてきてそれ以上は聞く気すら失せていく。


「で、でも」と代わりに口を開いたのは、藤原さんだった。「あ、あたし、てっきり熊谷さんが殺人者だと――」


「あぁ、あのオヤジな。なんてったっけ? 終末バトルロワイヤル、だっけか。あの映画の原作小説を書いたのが熊谷だったらしいな。前にアイツと一緒のゲームに参加した時、そんな話をアイツから聞いてたからな。でも、実はアイツ、他にも別のペンネームがあってな。基本的にはそっちのペンネームがメインで、すでに何十作も書いてたらしいぜ。終末バトルロワイヤルは、別に大して思い入れなんてないってさ」


「じ、じゃぁ、なんでここが終末バトルロワイヤルと同じ廃墟の街なの? 緒方さんは、いったい何者?」


「あいつは映画制作会社の人間だったのさ。携わってたんじゃないか、この映画に」


「そ、それも緒方さんから?」


「聞いたのは私よ」と篠原さん。「私もあのふたりとは以前のゲームで一緒だったから。それで、私とこの人が聞いた話をすり合わせて考えたら――自ずとこのステージの殺人者は緒方だってことに辿り着いたってわけ」


 どうりであの時、四人とも自己紹介も何もせずに普通に話し合っていたわけだ。


 今なら解る。


 最初から四人は面識があったのだ。


 矢立海斗が殺人者だと口にしながら、その実、四人(正確には緒方以外の三人だけれど)は自分たちの中に殺人者がいることに気付いていたのだ。


 けれど、それを決して口にはせず、彼らはお互いの様子を窺っていた――


「だ、だったら、最初から僕らにもそう教えてくれればよかったのに……!」


 そうすれば、もう少し他にやり方があったんじゃないのか、と僕は零士さんに抗議した。


 けれど零士さんは肩を竦めながら、

「まぁ、俺たちもその話をして、緒方が殺人者だって確証を得たのが、お前らをあそこに隠れさせた後だったからな。悪く思うなよ、助けてやったんだから」


「で、でも、熊谷さんは――」


 緒方の手によって、殺されてしまった。


「アイツは直後にそれに気づきながら、結局俺らには言わなかったのさ」


「どうして?」


「ポイント」と篠原さんは微笑んだ。「私たちより先に緒方を殺して、ポイントをゲットしたかったんでしょ」


「……まさか、そんな」


 まだまだ疑問に思うことはあったけれど、僕はもう、それ以上訊ねる気にはなれなかった。


 だんだん気持ちが落ち着いてきたことで、熊谷さんと緒方から漂ってくる死臭とその無惨な姿に吐き気を催してきたせいでもあったのだけれど、なにより、ふたりの言っていること自体が本当なのかどうかすら疑わしくてしかたがなかったからだ。


 これ以上何を訊ねても、このふたりが納得のいく説明なんてしてくれるような気は全くしなかった。


 その時だった。


 ――ドンッ! ドンッ! パーンッ!


 大砲や花火を撃つような音が辺り一帯に響き渡ったかと思うや否や、僕らの佇むすぐ上空に、「CONGRATULATIONS!」という文字が浮かび上がってきたのである。


 それはあまりに場違いな可愛らしい丸文字で、その文字の下には『Winner : Reiji Kurosaki & Rika Shinohara』と続いていた。


「ちっ、なんだよ、今回もお前と同時か」


「あら、ざんねん。私の方が数発多くアイツを撃ち抜いてたと思ったのに」


 ふたりの場違いな会話を耳にしながらぼんやりしていると、どこからともなく、あの四角いブロックが再び僕らの周囲を取り囲むようにして現れた。


「さて、そんじゃ、お疲れさん」

 零士さんが、ニヤニヤしながら僕らに手を振る。


「またどこか、別のゲームで会いましょ。お互い、生き残っていたら、ね?」

 篠原さんは、僕に向かって投げキッス。


 やがて僕らの周囲をあの眩しい光が包み込んだその時、

「――待ってて」

 藤原さんの声が、すぐ耳元で聞こえたような気がしたのだった。

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