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マーダーゲーム・トライアル  作者: ノムラユーリ(野村勇輔)
Stage2 密林の覇者

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13/49

第1回

   1


「おい、なに寝てんだ、起きろ」


 頬をぺんぺん叩かれて瞼を開くと、そこには高瀬の顔のドアップがあった。


 金髪イケメン野郎なだけに、同じ男であるにもかかわらず思わずドキリとしてしまう。


 高瀬は僕が目を覚ましたことに気付くと、髪を掻き上げながら腰を上げ、

「早く立てよ、佐倉」

 僕に右手を差し出してきた。


 僕は素直にその手を握り、助け起こされながら辺りを見回しす。


 鬱蒼と生い茂る緑の草葉。天を覆い隠すように立ち並ぶ太い樹木。


 ねっとりとした空気が肌に貼り付くようでなんだか少し気持ちが悪い。


 踏みしめる地面は柔らかく、たくさんの朽ちた葉や木の幹がミルフィーユのように幾重にも折り重なっているのが想像できた。その地面を観察すれば、色々なものが蠢いているのが見える。さすがの僕もそれらをより詳しく観察しようなどとは思わなかった。


 虫、ちょっと苦手なんだよなぁ。


「ここは、ジャングルかなにかか?」


「どう見てもそうだな」

 言って、高瀬はバックパックを担ぎ直す。


 そう言えば、今回は自分もバックパックを背負ったままだ。


 前回は何も持たないまま廃墟の世界に飛ばされたけど、思い出してみればあの時はバスターミナルの床の上にバックパックを下ろしていたからだったのかもしれない。


 今回は昨日までに準備したあれやこれやがある。何とか生き延びて現実に帰りたいところだけれど――そのためには、結局誰かが殺人者を殺さなければならないのかと思うと、気が重くなるのだった。


 殺しだけは、絶対にしたくない。


 そんな僕の横で、慎重に辺りの様子を窺う高瀬の姿があった。


 至る所から何かの動物や鳥たちの鳴き声が聞こえてくる。


 ひっきりなし、というわけではないのだけれど、その鳴き声がより不安を増幅させた。


「……まさか、虎とか熊とか、襲い掛かってきたりしないだろうな?」

 思わず口に出すと、高瀬はさも当たり前であるかのように、

「襲い掛かってくるに決まってんだろ」

 と内心馬鹿にしたように瞬きした。


 それがより一層、こいつへの苛立たしさマシマシだ。


「冗談じゃない!」僕は思わず叫んでしまう。「ただでさえ人殺しを相手にしないといけないってのに、なんで野獣まで気にかけなきゃならないんだよ!?」


「知らねぇよ」と高瀬は腰に手をあてため息を吐く。「なんだよ、前のステージ、そんなに甘かったのか?」


「……甘かったかどうかは知らん。終末バトルロワイヤルって映画のセットみたいな世界で、俺たち参加者と殺人者しかいなかったからな」


「そりゃぁ、ずいぶん甘い世界だな。俺なんて、初回から鎌を持って襲い掛かってくる案山子を相手にさせられたぞ。あれはマジでビビったな」


「……そんなんまで出てくるのか?」


「それだけじゃないぞ? 二回目は夜の学校で人体模型に追いかけまわされて、危うく内臓を奪われそうになったし、三回目はゾンビ、四回目はなんか白いヒョロヒョロした奴が次から次へと現れて、何人かはソイツに消されちまった」


「け、消された? その人たちは? どうなったんだ?」


「知らね」高瀬はあっけらかんとした様子で答える。「そんなん、俺が知るわけないだろ? たぶん、死んでるんじゃないか? 俺はこれまでずっとひとりでやってきたから、そのあとどうなったか、どうなるかなんて全然知らねぇ。要は逃げ切るか、自分で殺人者を殺っちまえばいいだけのことだからな」


「じゃぁ、やっぱりお前も、このゲームの明確なルールは知らないってことか?」


「まぁ、そうだな。初回に怪しい感じのおっさんにざっくり教えてもらっただけで、それ以上のことは俺も知らねぇ。お前を誘ったときに説明しただろ? 俺が知ってんのは、実際あれくらいのものなんだよ」


「でも、誰かは知ってるんだよな?」


「さぁ? 誰も知らないんじゃないか? アプリを確認しても、どこにもルールなんて載ってなかったし。これまでの参加者が経験したことから推察したルールなんだろうな、としか俺には言えねぇ」


「なんだよそれ、そんな曖昧ななかでやってんのか、みんな」


「調べようがないからな。特に俺は二回目以降、ずっとひとりだったから。もし迂闊に他の参加者に声をかけて、そいつが殺人者だったらどうする? 油断した隙にこっちが殺されちまうだろうが。それに、中には殺人者とか関係なく参加者を殺し回るヤバい奴もいたからな。そんな簡単に参加者に近づきたくなかったんだよ」


「た、確かに、前のときに僕を殺そうとした緒方ってやつは、そんな感じだったな。殺人者じゃないふりをして、僕や一緒にいた女の子を殺そうとしてきたし」


 だろう? と高瀬は肩を竦めて、

「だから俺は、信用できるお前を騙してでも、このゲームに参加させたんだよ。ひとりじゃ、限界があるからな」


 そうは言っても、ずいぶん身勝手なことしやがって。


 僕だって、高瀬の気持ちは解らなくもない。


 けれど、巻き込まれた僕の気にもなってみやがれってんだ。


 なんてことない普通の大学生活を送っていただけの俺を、なんだってこいつは。


 同じ学年で、同じ講義を受けていたのが運の尽きだと思うしかないってことか?


 今となっては悔やんだってしかたのないことだし、そもそも悔やむ意味すらないのだけれども。


 だけど――


 もし、こいつが殺人者になったときは?

 もし、この僕が殺人者になったときは?


 高瀬はいったい、僕をどうする気だろう。

 僕はいったい、高瀬をどうするのだろう。


 アプリのランキングから考えるに、ゲームのプレイヤー(あえてそう呼ぶ)はそれなりに人数がいるらしい。


 けれどゲーム自体への参加者は、そのうち六人から八人が選ばれることになるわけで、たぶん、前回の様子だと、そのメンバーは毎回異なるのではないかと思われる。


 僕はなるべく高瀬や藤原さんと同じゲームでそんなことにならないよう、ただただ願うことしかできそうになかった。


 それとあともう一つ、僕には気になることがあった。


 このジャングルに飛ばされる前、バスターミナルで口にしたことを、僕はもう一度高瀬に訊ねる。


「なぁ、高瀬。結局お前は、どうやってこのアプリを知ったんだ?」


「あぁ、俺は――」


 高瀬が口を開きかけたところで、どこかから草葉を踏み分ける音が聞こえてきた。


 高瀬も僕も口を閉じ、ふたりの間を緊張が走る。


 顔を見合わせ、反射的に僕らは腰を屈めた。


 辺りを見回し、どこから音が聞こえてくるのか耳を澄ませる。


 ――何かがこちらに近づいてきている。


 それは人か、それとも獣か。


 僕らは這うようにして近くの太い木の幹まで向かうと、その地面から顔を出した蛇がうねるような形の根っこの間に身を潜めた。


 やがて、草葉を掻き分けるようにして僕らの目の前に現れたのは――


「――っ!?」


 僕はその姿に、思わず息を飲み、目を丸くする。


 ずらりと並んだ鋭い牙を生やしたワニの頭。

 巨大な偃月刀を担ぐ筋骨隆々とした、うろこ状の緑の肌。

 下半身には茶色い腰蓑を巻きつけていて――


 それはどこからどう見ても、何かのテレビゲームに出てきそうな竜人――リザードマンそのものだったのだ。

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