シュタルクが“腹減った”と割り込む回
フリーレンとフェルンは木の根に座り、哲学書を手に語り合っている。
その隣でシュタルクは、腹の虫が盛大に鳴るのを押し殺している。
シュタルク(割って入り)
「……なあ、お前らさ。難しいこと言ってるけどさ……。腹が減ったときは、どうすんだよ?
“形相因”だの“イデア”だのより、俺は今、パンが食いたい。
“美の本質”がどうとか言う前に、“焼きたての美味いやつ”をくれって話だろ」
フェルン(一瞬言葉に詰まって)
「……それは、“生存欲求”の話でしょう。でも、アリストテレスも“欲求”を“実現すべき目的”として捉えているわ。
あなたが“パンを食べたい”と思うのは、あなたの本質に組み込まれた栄養維持の目的が、今“未達成”だからです」
シュタルク(腕を組んでふてくされる)
「……なんか、急に俺が実験動物みたいな扱いになってないか?」
フリーレン(小さく笑いながら)
「でも、面白いでしょ? その“パン”だって、“イデア的なパン”があるんだよ。
“焼きたての香り”“カリッとした表面”“中はふわふわ”……それらが**完全に実現された“パンの理想形”**が、心の中にあるから、
君はそれを求めるの。実際のパンは、いつも少し“違う”」
シュタルク(ポカンと)
「……つまり俺は、毎回“理想のパン”を追い求めてるってことか?」
フェルン(静かに)
「ええ。あなたは哲学者よりずっと切実に、“善いパン”を求めている。
それは“味覚”の問題であっても、突き詰めれば“価値の判断”に通じている。
人間の“善さ”も、“美味さ”も、本質的には“選び方”の問題なのだから」
シュタルク(急に真顔になって)
「……すげぇ。なんか“俺の腹の虫”が、“本質”ってやつに昇格した気がする」
フリーレン(立ち上がって)
「じゃあ、その“善なるパン”を探しに行こうか。イデアはこの世に実現されるべきものだしね」
フェルン(焚き火の支度をしながら)
「その前に、ちゃんと火が通るように焼きなさい。理想的なパンは、生焼けじゃ困るから」