イデア論 vs アリストテレス的現実主義
黄昏時。古代遺跡の神殿跡、風が吹き抜ける石柱の間。
フリーレンは空を見上げ、フェルンは小さなノートを開いている。
フェルン(石に腰掛けながら、静かに切り出す)
「ねえ、師匠。以前、“この世のすべてはイデアの影にすぎない”って言ってたけれど……。
私には、目の前の“もの”にこそ意味があるように思えてなりません」
フリーレン(空を眺めたまま微笑して)
「それでも、フェルン。花が散っても“美しい”って感じるのは、そこに“完全な美”の記憶が宿っているからだと思わない?
プラトンは、それを“イデア”って呼んだ。目に見えないけど、すべての根拠になってる“かたち”だよ」
フェルン(少し間をおいて、やや厳しめに)
「でもそれは、思い込みにもなり得ます。
アリストテレスは“本質”を“現実の中にある目的”として考えました。“イデア”のような抽象的な世界に逃げず、この世界で原因を観察し、分類し、定義することが真理に近づく道だと」
フリーレン(ゆっくりと視線を下ろして)
「でもねフェルン。観察では捉えきれない“なぜ”がある。たとえば“なぜ人は善くありたいと思うのか”――
それは物理的な因果では説明できない。永遠なる“善のイデア”が、私たちの魂に触れているからだと私は信じてる」
フェルン(小さくため息をつき、手帳を閉じる)
「“信じる”という言葉が出た時点で、論理は終わりです。
アリストテレスは、“人間は理性的動物である”と言いました。人間の本質は“行為”に現れる。
抽象的な理想よりも、具体的な目的と実現手段を分析することの方が、現実的です」
フリーレン(やや楽しそうに)
「ふふ、さすがフェルン。たしかにアリストテレスの“質料因・形相因・目的因・作用因”で考えれば、魔法もずいぶん効率よくなるね。
でも、それでも私は“完成された三角形”が頭の中にあって、それを“写そうとする”からこそ、魔法陣を描けるんだと思う。
理想が先にある。それが私の立場だよ」
フェルン(少しだけ微笑して)
「なら、私はこう言います。“理想”は、“この現実の積み重ねの先にしかない”。
空に浮かぶ理想より、地に足のついた行為こそが、“知”に至る道です」
フリーレン(やわらかく、頷く)
「――なるほどね。なら私たちは、空を見て歩く者と、地を見て走る者ってとこかな」




