【夕暮れ、街道沿いの石碑の下にて】
フィビアスが読んでいた哲学書のページを閉じ、静かにひとこと呟く。
フィビアス
「……“コギト・エルゴ・スム”ね。存在の根拠は思考にある、という意味だけれど……」
シュペルク
「えーと、それってつまり、“俺は考える、だから俺はいる”ってやつだっけ?」
フローレン
「そう。デカルトの言葉ね。
でもね……昔、とある魔族が“多重人格”に近い構造を持っていたの。
彼の“哲学者人格”だけは、毎晩『コギト・エルゴ・スム!』って叫んでいたんだけど……
他の人格たちに袋叩きにされてたわ。“また始まったよ”って」
シュペルク
「いやそれ、怖いけど笑えるな……自己言及で殴られるのか……」
フィビアス
「“我思う、故に我あり”と言った瞬間、“お前だけが我じゃない!”って論破される、ってことですね」
フローレン
「そう、まさに“コギト・エルゴ・スマッシュ”。存在の証明が原因で、存在否定されるという皮肉」
シュペルク
「いやそれ、怖いけど笑えるな……自己言及で殴られるのか……。哲学者人格、毎晩“考えるからいる!”って主張してるのに……」
フィビアス
「“我思う、故に我あり”と言った瞬間、“お前だけが我じゃない!”って論破される、ってことですね。人格会議で多数決負けしてそう」
フローレン
「そうよ。哲学者人格は“存在論的自我”としての地位を主張してたけど、戦士人格に“問答無用”って殴られてたわね」
シュペルク
「問答無用はひどすぎる……でもわかる気もする。たぶん“我腹減る、故に我あり”の方が支持されやすいだろ」
フローレン
「でも哲学者人格はめげないの。毎朝“おはよう”の代わりに、“コギト!”って叫んで存在確認するから。
でも他の人格たちからは、“また始まった……”って深いため息」
シュペルク
「人格全員でLINEグループ作ってたら即ブロックされるやつじゃん……“コギト既読無視”とか書かれてそう」
フィビアス
「しかも、その哲学者人格、“俺の存在は思考で成り立ってるから殴られても痛くない”って言い張るんですよ」
フローレン
「でも結局、“それが通るなら全員そう言うわ!”って他の人格から総ツッコミ受けてた。哲学的防御は、物理には勝てないの」
シュペルク(項垂れて)
「……人格って、作り直せるのかな……?」
フィビアス(冷静に)
「一度煮込んだスープの具を取り出すのは難しいですよ」
フローレン(にこりと)
「でも味は、少しずつ変えられるわ。香辛料とか、火加減とか。ね?」
シュペルク
「そういう問題か……?」
フィビアス(小声で)
「それに、あなたは素材が“じゃがいもと塩”だけなんですから……限界が」