江戸時代にタイムスリップ 宿場町とお伊勢参り ― 旅の到達点
――夕暮れ。三人は街道沿いの宿場町にたどり着き、旅籠屋の暖簾をくぐった。
囲炉裏の火がぱちぱちと弾け、湯気の立つ味噌汁と焼き魚の香りが漂う。
シュペルク「おおっ! 今日の飯、豪華じゃないか! 魚に煮物に香の物まで……庶民の普段の食事よりずっと立派だろ、これ」
フィビアス「ええ。江戸時代の庶民は普段“一汁一菜”が基本でしたから、旅籠の“一汁三菜”はごちそうだったんです。宿代には食事代も含まれていましたからね」
シュペルク「なるほど、旅の楽しみはやっぱり飯だな」
フローレン「……相部屋で雑魚寝だけどね。知らない人と同じ部屋で眠るのは、落ち着かないでしょう?」
シュペルク「……俺はちょっと嫌かも」
フィビアス「だから“旅行用心集”というガイドブックには、相部屋になったら早めに相手の様子を観察しろとか、食べ物のやりとりはするなとか、注意がたくさん書かれていました」
シュペルク「ガイドブックまであったのか! 江戸時代なのに」
フローレン「文化七年、1810年に出版された本よ。旅の心得やマナーが六十以上も載っていた。……旅の危険を考えれば当然ね」
食後、三人は宿の縁側で夜風にあたりながら、旅の到達点「お伊勢参り」の話をした。
フィビアス「伊勢参りでは、まず二見ヶ浦で沐浴して身を清め、それから外宮と内宮を参拝するのが習わしでした。そして最後は朝熊岳金剛證寺にも詣でるんです」
シュペルク「長い旅のゴールか……。庶民にとっては一生に一度の大イベントだったんだな」
フローレン「参拝を終えた人々は、古市の歓楽街に立ち寄って、精進落としと称して遊びに興じたそうよ。歌や踊りの伊勢音頭も有名だった」
シュペルク「お参りしてから宴会か……。結局、信仰と遊びはセットなんだな」
フィビアス「でも、その“セット”こそが庶民の旅を支えたんです。苦しい道中も、楽しみがあるからこそ歩けたんでしょうね」
夜空を見上げるフローレンが静かに言う。
フローレン「……歩くこと自体が祈りだったのかもしれないわね。伊勢にたどり着くまでの道、その一歩一歩が」
三人はしばし
黙り込み、星空の下で江戸の旅人たちの姿を想像していた。




