【とある未来都市の宿にて】
(背景)
旅の途中、2050年の大都市に立ち寄った一行。
身体を癒すため、最新の“ボディ・チューニングルーム”を利用した後、夜の宿で焚き火のような照明を囲んで語り合っていた。
フィビアス
「……まるで魔法みたいでしたね。施術台が体圧に反応して形を変えて、音や香りまで脳波に合わせて調整されるなんて」
シュペルク
「しかも、遠隔マッサージってやつ? スーツ着るだけで、遠くにいる人の“手”が感じられるって……ほんとに人間って、どこまで進化するんだろうな……」
フローレン
「進化、ね。……でも、あれは“代替”にはならないわよ。技術がいくら精巧でも、“人が触れる”ことの意味には届かない」
シュペルク
「でも、便利だよな? 宇宙にいる奴にも届くんだし。離島のじいちゃんばあちゃんとか、すっげえ喜ぶと思う」
フィビアス
「それでも……一番予約が取れないのは、“古典指圧”と“ヒューマンタッチ・セラピー”らしいです」
シュペルク
「え? あの、ぐいぐいやるやつ? 未来の癒しって、もっとハイテクじゃないのか?」
フローレン
「癒しって、身体の問題だけじゃない。“人と人がつながる感覚”――皮膚の温もり、息づかい、無言の信頼。そういうものが、人間を人間たらしめる」
フィビアス
「つまり……“触れること”自体が、魔法なんですね」
シュペルク
(照れくさそうに)「え? あー……それってつまり……おれがさっきフィビアスの肩叩いたのも……魔法?」
フィビアス
「……あれは、雑すぎました。逆に痛かったです」
フローレン
(少し目を細めながら)
「どれだけAIが発達しても、“人のためにある”っていう目的を忘れたら、ただの機械よ。
人間の文明って、全部“人のために”積み重ねてきた知識と技術なんだから」
フィビアス
「それを扱えるかどうかは、人間の心次第……ですね」
フローレン
「……そして心は、触れられることでしか育たない。記憶も、悲しみも、やさしさも、すべて“誰かに触れられた”ことで残る」
シュペルク
「なあ……それでも、オイルマッサージってやつは、やっぱ女の人にされる方が……気持ちいいと思うんだけど……」
フィビアス
(無言で視線を鋭くする)
フローレン
(淡々と)「……生き残りたければ、それ以上は言わない方がいいわよ、シュペルク」