表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/61

江戸時代にタイムスリップ 「町奉行の一日――果てなき激務」


――朝焼けに染まる江戸城下。

奉行所の表門の前に立った三人は、まだ眠気を残した顔で人の出入りを見ていた。


シュペルク「なぁ……まだ朝の六時だぞ。奉行って、もう起きてんのか?」


フィビアス「もちろん。町奉行はこの時間に起きて、朝食を済ませ、すぐ仕事の準備を始めるの。奉行所は六時頃には開門するから」


フローレン「私たちが旅をしていた頃もそうだったじゃない。日の出と共に出発。人間の生活って、結局変わらないものだよ」


シュペルク「でも、あいつらの方が大変そうだ……だって奉行って、裁判官で市長で警察署長で消防隊長なんだろ? 一人で何役だよ……」


フィビアス「二人だけどね。しかも交代制。今日は“月番”の奉行が新しい訴訟を受け付ける日」


門の内側では、与力や同心たちがぞろぞろ出勤していた。

紙束を抱える者、筆を腰に差した者、みな慌ただしい。


フローレン「午前八時には同心たちが出勤。奉行も御用部屋に入って、報告を受け、残務整理をする」


フィビアス「その後、午前十時には江戸城へ登城。老中への報告や、他の奉行たちとの協議があるから」


シュペルク「毎日城に行くのか……オレなら道中で昼寝しそうだ」


フィビアス「昼寝どころじゃないわ。江戸城へは騎馬で移動、しかもお供は二十五人。十万石の大名と同じ待遇よ」


シュペルク「えぇっ!? そんな偉そうに行くのか?」


フローレン「威厳を示すためだよ。町人たちはその姿を見て“奉行様が通る”と感じ、秩序を意識する。政治は見せ方も大事だから」


江戸城の一角。奉行詰所の広間。

三人は壁際から、その光景を見学していた。


老中「大火の件、進捗を報告せよ」


町奉行「はっ。本日より町火消しを増員、深川方面に重点を置きます」


シュペルク「うわぁ……プレッシャーすごそう」


フィビアス「老中に直接報告しなきゃいけないの。しかも、刑事事件や経済政策まで全部ここで協議される」


フローレン「町奉行は孤独だよ。失敗すれば命を落とすこともある。激務で死んだ奉行も多いからね」


シュペルク「ブラックどころじゃねぇな……」


昼を過ぎ、奉行は城から戻ってくる。

奉行所の白州では、すでに町人たちが待ち構えていた。


町人A「奉行様! 隣家と土地の境界で争いが!」

町人B「この者、借金を返さぬゆえ訴え出ました!」


シュペルク「えっ、帰ってすぐこれ? 休む暇ないじゃん」


フィビアス「午後はひたすら裁判と会議。証文を精査し、証言を聞き、判決を下す」


フローレン「ただし、死刑や追放以上の刑罰は老中や将軍の決裁が必要。奉行が独断で決められるのは“中追放”まで」


シュペルク「つまり……何やっても上に報告しなきゃいけないってことか」


フィビアス「そう。だから書類は山のように積まれるの」


日が暮れても仕事は終わらない。

灯明の下で、奉行は書類を捌き、与力に指示を飛ばしていた。


シュペルク「なぁ、もう夜だぞ。普通は寝る時間だろ」


フィビアス「でも、訴訟は待ってくれない。被疑者が連行されれば、深夜でも確認を求められる」


フローレン「火事が起きればさらに大変。半鐘が鳴れば、奉行は現場に駆けつけ、自ら陣頭指揮をとった」


シュペルク「……寝る暇ないじゃん。そりゃ早死にするわ」


そして数日おきには「評定所」に出席する。


そこは国政の最高会議。大名のお家騒動や前例のない大事件が持ち込まれる。


シュペルク「もう無理だろ……絶対キャパオーバーだ」


フィビアス「だから平均在任期間は五、六年。中には一年で辞める人もいた」


フローレン「それでも、町は回っていた。二人の奉行と、その下の与力同心たちが、膨大な責務を背負っていたからね」


夜更け。三人は奉行所の門前に立ち、灯りの消えぬ窓を見上げる。


シュペルク「……なぁ、俺、奉行には絶対なりたくない」


フィビアス「当然よ。剣も頭脳も胆力も、全部揃ってないと務まらないんだから」


フローレン「でも……そういう人がいたから、江戸は大火や飢饉の中でも秩序を保てたんだよ」


シュペルク「すげぇけど……やっぱブラックだろ、これ」


フィビアス「ええ。史上最大級の“ブラック職場”ね」


三人は小さく笑い合い、江戸の夜のざわめきの中へ歩み去っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ