【深夜の焚き火】――とある辺境の街道沿い
【深夜の焚き火】――とある辺境の街道沿い
木々のざわめきが止み、火がパチパチと小さく爆ぜていた。
フィビアス
「……先生、最近“グローバリズム”って言葉をよく聞くようになったけど、それって何なんですか?」
フローレン
「世界がひとつに近づくこと。経済や技術、文化が国境を越えて混ざっていく。最初は船で、次は蒸気、それから通信。そうして、どんどん境界が薄くなっていったのよ」
シュペルク
「じゃあ、それって悪いことじゃないよな? 戦争がなくなりそうじゃん」
フローレン
「理屈ではね。でも、グローバルって言っても、みんなが平等になるわけじゃない。得をするのは、仕組みを作った側。例えば昔の大陸帝国。交易で栄えたけど、周辺の小国は搾取されてた」
フィビアス
「つまり“栄えてるようで偏ってる”ってことですね」
フローレン
「そう。“自由貿易”って言葉の下で、経済の強い国が弱い国にルールを押し付ける。戦後の“国際金融体制”も、ドルを中心に動いていたし、そこには必ず力の偏りがある」
シュペルク
「で、それが“DS”ってやつか?」
フィビアス
「DS……“ディープステート”。最近よく聞く陰謀論です。闇の政府、とか」
フローレン
「陰謀論というより、“構造の見えにくさ”ね。本当に何かの組織が操っているというより、“利益を共有する勢力”が、意図せずに似た方向に動いてる。鳥の群れが一斉に飛ぶように」
シュペルク
「でも名前があると怖く感じるな。“闇の政府”とか言われたら、何か巨大な意志があるような……」
フローレン
「実際には、そんな一枚岩じゃない。多国籍企業、軍需産業、国際機関、金融資本、NGO、メディア、政治家――みんな別々。でも“グローバリズム”ってイデオロギーで結びついてる」
フィビアス
「それぞれが自分の利益のために動いてるだけなのに、全体としては同じ方向に進んでるように見える。だから“陰謀”に見える」
シュペルク
「うわ……たしかに。全部つながってるって言われたら、ちょっとゾッとする」
フローレン
「それに、問題も多い。格差は広がるし、文化は壊れ、移民政策が社会を分断し、国家の主権は“協定”や“機関”によって制限される。環境破壊もついてくる」
フィビアス
「“持続可能性”とか“平等”とか、耳障りのいい言葉で包まれてますけど……裏には資本の論理があるんですね」
フローレン
「そう。そして、それを批判しようとすると“陰謀論者”のレッテルが貼られる。まるで、“語ること自体が禁止”されているみたいにね」
シュペルク
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ? 世界が大きくなってるのを止めるのか?」
フィビアス
「止めることはできなくても、“誰のためのグローバル化か”を考えることはできると思います」
フローレン
「……そのとおり。魔法も同じ。誰のために使うかで、祝福にも災いにもなる」
火がはぜ、空に小さな火の粉が舞った。
シュペルク
「なあフィビアス、俺が使える魔法も、いつか世界の役に立つと思うか?」
フィビアス
「……それはまだ、検討中です」