第7話 一瞬の隙を突いて...
剣士とフェンリル、変わらず激しく動く両者だったが、大きく距離が空く瞬間がある。
剣士が剣を真横に構えた。
「これだ!」
切り付ける瞬間、フェンリルが大きく後退し―
「凍れ!!」
パキパキパキパキッ!!
一瞬、フェンリルと目が合った。
次の瞬間には、フェンリルを囲むように、高さ10mはある巨大な氷の壁が出現する。
あんな攻防の最中でも眉一つ動かさなかった剣士が、目を見開いて動きを止めた。
「よし!!」
ビシャァァァァァンッ!!!!
あの音が聞こえて体が固まる。大丈夫、壊されてはいない。
稲妻の音が何度か聞こえた。その間、俺はただ祈っていた。
...音が止む。破壊される様子はない。
「今です! 逃げてください!」
「すまない! 恩に着る!」
剣士はそう叫ぶと、自分で作った氷の壁を剣の一突きで粉々にし、馬車に駆け寄っていく。
どうなってるんだ、あの人の強さは...。
少しして剣士が駆け寄ってくると、小声で話しかけてきた。
「フェンリルの様子は?」
「大人しくなってます。暴れる様子もありません。」
「そうか...。あいつを... どうするつもりだ?」
「えぇ~っとぉ...。ペットにします。」
「フッ... ハハハハハハハッ!」
自分でも変なことを言ったと思うが、どう答えるべきかわからなかった。
というかこの笑い声でフェンリルを刺激したらどうするんだ!
せっかく大人しくしてるのに...。
男はひとしきり笑った後、静かな声でこう言った。
「そうか、それはよかった。あいつが暴れていたのは俺にも責任があるかもしれん。
できれば命を奪いたくは―」
「ばかぁ!」
空から降ってきたメルカが男の頭を叩いた。
メルカのこと、忘れてた...。
「ワンちゃんいじめちゃダメでしょ!」
慌ててメルカを抑える。男は驚きの表情を浮かべる。
空から子供が降ってきたら、当然の反応だろう。むしろ冷静すぎるくらいだ。
横からは馬車が近づいて来ていた。
「ああ、すまない。俺も傷つけるつもりはなかったんだ。」
「ウソつき! どう見ても血まみれだったでしょ!」
「あれは討伐隊との戦闘で負った傷だろう。この道は俺が最近作ったものでな。
許可は得ていたが、おそらくフェンリルの縄張りだっ―」
バァンッ!
勢いよく蹴り開けられた馬車の扉。それが男の顔に当たり、うめき声が聞こえた。
メルカも驚いて、両手で口を押さえている。
馬車から露出の多い格好をした、褐色肌の女性が出てきた―
次回: 剣士と女商人