旧版:ここまでの全話まとめ
旧版 第0話 砂漠に転がる36歳、戦車に轢かれかける
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「もう夕方か...。」
結局何もしないまま、いつも通りの1日で誕生日が終わりそうだ。
36歳ともなるとどうでもいいが。
でも誕生日くらい、小さな幸せがあってもいいよな...。
この時間ならお寿司の出前もまだ間に合う。
貯金を切り崩す生活が1年。残りもわずかだけど、今日くらいは贅沢してもいいかな?
うん、今日贅沢して、明日から本気出そう。
そんなことを思いながら、お気に入りの漫画を手に取り、見慣れたページをめくっていく。
女神を信じる正義の少年が、格闘技のチャンピオンを目指す物語。
バトルも素晴らしいが、一番の魅力は人間関係を調律していく主人公にある。
「本当に女神がいるなら―」
「おじさん...」
少女の声が聞こえた瞬間、床から伸びた光に包まれた。
「何の光!?」
足元に魔法陣が見えたが、光が強くて反射的に目を閉じる。
◆◇◆◇
次に目を開けた時、俺は砂漠に立っていた。
足元の魔法陣が消えると、焼けた砂で足の裏が熱くなり、思わず尻もちをつく。
「なんだったんだ? あの声...」
何が起きてるのかわからなかった。
「...どうやったら帰れる? いや、帰りたいのか?」
どうせ退屈な無職生活、そろそろ貯金も尽きる...。
気持ちを整理して落ち着いた頃には、自分の命なんてどうでもよくなっていた。
...暑い。胸元を掴んで扇いでも、Tシャツに描かれたお寿司の絵が揺れるばかりで、全然涼しくならない。
もう考えるのはやめて、この景色を女神様からの誕生日プレゼントだと思うことにしよう。
そうやって気持ちを割り切ってみると、世界は驚くほど綺麗に見えた。
まっすぐに俺を見る太陽、澄んだ青空、すくい上げてもこぼれ落ちていく無数の砂粒。
なんだか自然と一体化しような気分だ。
「もう少し早く、こんな気持ちになっていれば...。」
多少の後悔を感じつつも、不思議な心地良さを感じて仰向けに寝転んだ。
ぼーっと空を見ていると、空に妙な気配を感じた。
見ると、太陽とは逆の方向に巨大な魔法陣が現れていた。
大きさこそ違うが、部屋で見たものと同じように光っている。
そこから白い巨大構造物が、少しずつ姿を現していく。
「なんだあれ? 船... いや、戦艦?」
白い戦艦がこちらに正面を向け、魔法陣から出て来る。
艦首に配置された白い戦車もこちらを向いている。
「綺麗だな...。戦艦って... こんなに大きいのか...。」
突然艦首から青白い光が放たれ、俺に向かって何かが飛んで来た。
一瞬見えたのは、ミサイルや砲弾ではなく戦車そのものだ。
目の前が真っ白になった―
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旧版 第1話 現れたのは、メスガキ天使?
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砂漠で戦車に轢かれたと思ったら、空も地平線もない白い空間にいた。
音は響かず、足元には白い霧が這う。
そこにいた8才くらいの少女に、ここまでの出来事を語った。
反応してくれることを期待して、薄ピンク色の丸くて大きな瞳をじっと見つめる。
髪型は、瞳と同じ色のショートボブ。
前髪はおでこの前で斜めにまっすぐ切られ、両サイドはあごの高さまで長く伸びている。
華奢な体には白い布が巻かれており、頭上には光の輪、背中には光の翼が見える。
少女が笑顔になった。
眉が八の字に曲がり、少々腹の立つ表情をしている。
「ざっこぉ〜☆ おじさん、あんなのもよけれないのぉ〜? よわよわじゃ〜ん☆」
避けられるわけないだろ...。
声に出すのは我慢した。生意気だが相手は子供だ。
言葉が通じる。この状況についても何か知っている様子だ。
中身も見た目通り子供のようだから、ここは大人らしく接してやるとしよう。
「は〜い〜? 全然余裕でしたけど? 今もピンピンしてるし!
ジャンプもできるよ?見たい?しょうがないなぁ見せてあげるよ!
ほら!」
軽く跳ねておちょくってやろうと思ったが、俺は異常な速さで地上を離れた。
正面にいたはずの少女が、下で小さくなっている。
「なっ...! これ、落ちたら―」
一瞬死を覚悟したが、難なく着地できた。
俺は大人らしく、余裕を見せる。
「...な? ゲンキだろ?」
一瞬、間が空く。
「アッハハハハ! 焦ってやんのぉ〜! おじさん、ダサダサじゃ〜ん☆」
流石に見透かされていたが、確実に好感度は上がっている。
この調子で情報を引き出していこうと思ったが、意外にも少女の方から話し始めた。
「あたしはメルカ! 天使だよ!
おじさんを助けてあげたのはメルカ様なんだよ? 感謝してね☆」
天使...? 想像とは違った。
助けたってことは、多分まだ死んでないみたいだ。
少女に歩み寄ってしゃがみ、目線を合わせる。
「ありがとう。メルカが助けてくれたんだね。
俺はテルユキ。どうして助けてくれたの?」
「世界を良くするためだよ!
女神様から人にスキルをあげる役目を任されたから、たぶんスキルで世界を良くしてってこと!」
女神...。本当に存在したのか。まあ、天使がいるんだもんな...。
でも、俺が世界を良くするって...?
「でも役に立たないざこばっかだから、強いスキルは回収してほかの人にあげることにしたの。
メルカは回収なんてできないって女神様に言ったら、あんたに頼めって言われちゃった。
あんたにしか使えないスキルを3個もくれたんだよ」
俺が選ばれた?
なんでだろう、普通の生活をしてただけなのに...。
「なんで女神様があんたみたいなざこを選んだのかわかんないけど、元の世界にもどしてほしかったらメルカを手伝ってね☆」
元の世界に戻れる...?
もう人生なんてどうでもいいと思っていたが、さっき死にかけて考えが変わった。
普通の日常でいい、ささやかな幸せでいい。もう一度お寿司を食べたい...。
「...お寿司の世界に帰りたい―」
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旧版 第2話 ステータスが全部∞で若干引いた件
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「俺はこの世界を良くして、絶対に家に帰る!
そして美味いお寿司を食べる!」
「...なにいってんのかわかんないけど、言うこと聞けてえらいね♡
じゃー回収の仕方をおしえてあげる。手でさわって、【回収】って言うだけだよ」
メルカの手元に魔法陣が出現した。
一瞬、まばゆい光を放つと、手のひらの上にハムスターが現れた。
何が起きてるんだ...。
「ステータスオープン」
空中にゲームのようなウィンドウが浮かび上がる。
「わっ! なんだこれ!」
種族: ハムスター
HP: 600/600
攻撃力: 27
防御力: 32
魔力: 5/5
魔法攻撃力: 5
魔法防御力: 30
敏捷性: 32
スキル: 【火魔法】【氷魔法】【雷魔法】
「いちいちおどろくなんて、なっさけな~☆
ハムちゃん、火を出して♡」
ボッ!っとハムスターの口から小さな火が出る。
その瞬間、魔力が0/5になった。なんなんだ...。
「おもしろいでしょ。あたしがスキルをあげて遊んでたの。
はい、ハムちゃんからスキルを【回収】してみて。」
人にスキルをあげるのがメルカの役目って言ってなかった...?
そんな遊びして、女神様に怒られないのかな?
おそるおそるハムスターにふれる。
「...【回収】」
ハムスターの体から白い光が飛び出し、メルカの体に入っていった。
ステータスウィンドウからは全てのスキルが消えている。
「やればできんじゃん♡
いま回収したスキルはあんたにあげる。ごほうびだよ♡」
そう言って人差し指を振ると光が飛び出し、俺の体に入ってきた。
「はい、しゅーりょー。ねぇ、テルもステータスオープンって言ってみて!」
「...? ステータス、オープン」
種族: 人間
HP: ∞
攻撃力: ∞
防御力: ∞
魔力: ∞
魔法攻撃力: ∞
魔法防御力: ∞
敏捷性: ∞
スキル: 【火魔法】【氷魔法】【雷魔法】
ユニークスキル: 【全ステータス∞】【回収】【剥奪】
「わぁ...。」
ものすんごいことになってる...。
この【剥奪】ってなんだ?
メルカの方を見ると、隣で得意げにニヤニヤしていた。
俺にスキルを付与したところが見せたかったんだろう。
かわいらしいところもあるじゃん。
「すごいねメルカ! ありがとう!」
「ふふん、満足した? じゃ、世界におりてさっさと回収しよう☆」
「おし! テル先生に任せな!」
「うざぁ~...」
「ところであの戦艦... 砂漠の白くてデカいヤツはなんだったのか教えて?」
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旧版 第3話 大爆発に巻き込まれて異世界へ
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「あの白くてデカいヤツ、多分魔法だと思うけど、魔法ってあんな物まで出せるの?」
「ああ、アレ? フツーはできないけど、あれは絶対にユニークスキルの【創造】!
メルカがあげた力をムダ遣いするなんて、信じられない!」
「...怒るとこ、そこ? 俺の命は...?」
ユニークスキルを悪用して俺を殺そうとした奴がいる...。
あんな力を持った相手から、本当に回収なんてできるんだろうか?
そのための【全ステータス∞】と【剥奪】か?
「あ、そうだ☆ せっかくだから、テルがいたところが今どうなってるか、見せてあげる!」
メルカが顔の前で右手を振ると、巨大なウィンドウが浮かび上がり、砂漠にできた巨大なクレーターが映し出された。
直径100m以上はあるな...。
「メルカが助けてあげなきゃぺちゃんこだったね☆
ね、わかった? わかったら絶対に回収して!」
「そうだねぇ...。もしかして、俺にもあんなことができちゃう?」
「あったりまえじゃん! 女神様があげた力なんだから、最強に決まってるでしょ!
さ、じじいをこらしめにいくよ!」
メルカが駆け出した。
じじい? メルカには心当たりがあるようだ。
ユニークスキルというくらいだし、【創造】を持つのは世界に1人しかいないんだろうな。
メルカが20mほど走って立ち止まると、ぴょんぴょん跳ねながら叫ぶ。
「テル~! ここに魔法で穴開けて!!」
地面しかないこの空間ではどこも同じに見えるが、メルカにとっては違いがあるらしい。
「どうやって!? 魔法なんて使えないよ!」
「え~、スキルあげたじゃん...」
歩いて戻ってきた。歩くと結構時間のかかる距離だ。
「じゃあテキトーでいいから、手を伸ばしてなんか出そうとしてみて。
しょーがないから、できるようになるまで待っててあげる。
ま、あんたじゃ100年かけてもムリだけど☆」
...大人の力を見せてやるか。
とりあえず、爆発で穴を開けるようなイメージで―
「ざぁ~こ☆ ハムちゃん以下のよわよわおじさん♡ はやく―」
「ファイア」
ゴウッ!!
勢いよく音を立てて、視界を覆うほどの巨大な火球が現れた。
「お”っ...」
メルカは驚きの声を漏らすと慌てて俺の後ろに隠れた。
さっきメルカが跳ねていた場所に着弾して爆発し、爆風に巻き込まれる。
俺の体がびくともしなかったのは、きっと魔法防御力のおかげだろう。
しかし地面は一瞬で崩れ、俺たちは落下した。
胃の浮くような感覚、視界が白い霧に包まれる。
「なんだこれ!大丈夫!?」
「バカ!メルカに当たったらどうするの!?」
メルカもお寿司Tシャツも無事だ。
「どうすればいい!?」
「なんとかして!!」
2人で言い合いをしながら落ちていく―
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旧版 第4話 次
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