幸せになれたのは、二人だけ。
ヤンデレ注意
性的表現注意(無理矢理致す表現あります)
暴力表現注意
人死表現注意
ハッピーエンド、バッドエンドあり。後味が悪いかもです。ご注意ください。
✩←視点が5人分あります。✩から視点が変わります。
✩息子Side
学園を卒業後、婚約者と結婚をした。特別な感情もなく、義務として結婚しただけだ。
結婚式を終えた夜、友人宅で、友人達と酒を飲み、楽しく過ごしていた。初夜はいいのか?と聞かれたが、そんな気分ではないと言い捨て、深酒をした。
記憶はそこまでだった。
目覚めてすぐに過ちに気が付いた。
隣に裸の女がいた。友人の一人だった。
これは不味い。家にも帰らず、浮気までしてしまった。誰かに見られていないといい…この女も覚えてないといいのだが…
すぐに着替えて、自分の屋敷へと帰った。
両親は怒っているだろうか。妻となった女が泣きついているだろうか。
誰にも会わずに部屋へ戻り、風呂へ入った。あぁ、憂鬱だ。結婚してなければ、ただのお遊びで済むのに。
朝食の時間となり、使用人が呼びに来た。憂鬱だ。
使用人達も知っているはずだ。昨夜は帰ってきていないことを。初夜を行っていないことを。
…両親の耳にも入っていそうだな。最悪だ。
既に両親が食事をしていたが、何故か険悪な空気だ。いつもはそこまで仲が悪い訳でもないのに…
俺のせいか…?
無言で椅子に座り、食事を始める。
そういえば…妻がいないな。部屋で泣いているのだろうか。
多少の罪悪感を覚える。両親は知らないのか、興味がないのか。
先に父上が食事を終え、出て行こうとすると、母上がテーブルを叩いた。
「あの娘と初夜を行ったのよね?」
ギロリと俺を睨む姿は、まるで化け物のようで恐ろしい。今日は機嫌が悪いのか…
「…申し訳ありません」
「さっさと後継ぎを作りなさい!」
母上は立ち上がり、父上を押し退けて出て行った。
父上が溜息を吐くと、俺を一瞥した。
「お前は何もしなくていい。仕事に集中しろ」
意外にも怒っていない…?
父上も出て行った。はぁ…驚いた。けれど、妻を抱かなくてもいいということか?
別に抱こうと思えば、抱ける。昨日はそんな気分じゃなかっただけだ。
今夜なら…と思っていたが、父上から大量の仕事を渡されてそれどころではなくなった。
数日後には領地へ行くようにと言われれば、もう妻のことなど忘れてしまった。
✩母親Side
あぁぁぁぁぁっ!忌々しいわ!
あの娘!胸が大きいのをアピールしているのかしら!いやらしい!
結婚式の最中からずっと腹が立っていた。儚げな雰囲気を出して男を惑わす魔女よ!
夫婦仲が破綻している夫は、顔には出さなかったが、あの女を見つめていた。熱烈な視線で。
あんなのが義娘になるなんて嫌!夫も息子も奪うような女なんて!使用人にも手を出すかもしれないわ!
許せない!!
✩父親Side
数年前の話になる。
息子が12歳の頃。妻子を連れて、友人の開くお茶会に出席した。
その頃には夫婦仲など破綻していた。子作りでさえ嫌々行って息子を産ませたくらいだ。
だが、そんなことを知られたくない為、外では仲の良い夫婦でいた…はずだ。
女の友人達と昔話に花が咲いている妻を置いて、男の友人達と花園を歩いて話をしていた。
話題は己の妻達への不満だったり、悋気、惚気など。妻の話もしたくないので聞き役に徹した。
随分と歩いたものだと足を止めると、花園の中で天使を見つけた。
愛らしい顔立ち、空色のぱっちりとした瞳、ハニーブロンドの髪をした少女が楽しげに花を眺めている。
心を奪われた。
まるで絵画だ。息を吸うことさえ忘れる程に。
友人の一人が少女の名前を呼んだ。友人の娘だと知る。
『ここにいたのかい』
『お友達と見ていたのですが、先に戻ると言われてしまって…ごめんなさい、とても綺麗な花園でしたから…』
珍しい花ばかりで、つい目を奪われてしまったのと友人を見上げて謝っていた。
私は少女に目を奪われた。
『さぁ、私の友人達にご挨拶を』
少女は友人に向けていた素の表情を隠し、淑女のお手本のような微笑みを向けて挨拶をした。
顔立ちに幼さが残る、けれど年頃の娘だ。体つきも良く、これから更に美しくなるだろう。
お茶会が終わるまで、私は少女を何度も何度も見つめていた。
時々、目が合うと恥ずかしそうに頬を赤く染める姿に私の胸は高鳴った。こんなことは初めてだった。
次は、いつ会えるのだろうか。遠くで見るだけでいい。あの可憐な少女を一目だけ…
そんな時、その少女の父親である友人から提案された。お互いの子供達を結婚させないか、と。
友人とは仲が良く、これからも付き合い続けたいからと頼まれた。
私にとって、最早、友人などどうでもいい。少女が欲しかった。手に入るなら何でもいい。
あの瞳に映りたいのだ。
それからはあっという間に婚約者に決まった。息子は興味が無かったようで安堵した。
そして時は経ち、可憐な少女は美しい女性へ変わっていた。
結婚式の最中、彼女に似合う真っ白なドレス姿に目を奪われた。あの日の花園の中にいた少女を思い出す。
一瞬でも見逃さないように。瞬きさえ忘れ、彼女だけを目に焼き付けた。
ただ、誓いの口付けのあの一瞬は、息子に憎悪を抱いた。
私が義父でなければ。独身であれば。息子がいなければ。
憎悪を押し殺していると、ふと彼女と目が合った。
恥ずかしそうに微笑む彼女のおかげで、憎悪は消え去った。
美しい。外見だけでなく、内面も。
唇は奴に奪われたが、純潔はやらないと決めた。
だから利用した。愚息の友人の一人を使って。
信頼出来る使用人に任せ、あの女に薬を渡した。酩酊状態になるが、アレは機能はする。既成事実を作れと。
女は喜んで使用した。愚息と交わり、屋敷に戻れぬようにした。
さて、その頃の話になる。
初夜だからと薄い下着姿で待つ彼女の元へと向かった。
胸が高鳴る。扉をノックしようとすると、中から泣き声が聞こえた。
ノックも忘れて部屋へ入ると、ベッドの端に座り、涙を流す彼女がいた。
すぐに抱きしめて、頭を優しく撫でた。ふわりと柔らかな髪に指を通した。
「お、お義父…様、も、申し訳、ありませ…っ」
「愚息が悪いのだ。すまない…」
泣き声すら愛おしい。
涙を指で拭っていたが止まることはない。思わず、目元に口付けていた。
目が合った。
そのまま唇を奪った。柔らかく、甘く、蕩けてしまいそうになる。
上唇を甘噛みをしたり、吸ってみたり、舌を絡めたり。
喉から手が出るほど欲しかった少女が。
今、私の腕の中にいる。
興奮で手が震える。彼女の下着を剥ぎ取って、吸い付くような肌に口付けた。
怯えているのか体を震わせているが、それがまた興奮させる。
もう己を止めることなど出来ない。
怯える彼女をベッドへと押し倒し、一晩中、彼女を味わい尽くした。
朝になり、気絶したように眠る彼女に何度も口付けた。
唇を奪い、純潔を奪い、次は息子から奪わねばならない。
「あぁ、もう手放せないぞ…私から絶対に逃がしはしない」
✩彼女Side
私の旦那様になったお方は、婚約者時代から私のことなど、どうでもよさそうだった。
私はほんの少しの期待を持っていた。いつか愛されると信じていた。
けれど、結婚式の誓いの口付けの時にポキリと心が折れてしまった。
私を映さない瞳は、ただ義務だからと冷たい唇が押し付けられた。
泣きそうになってしまった。ふっと視線を感じ、そちらを見るとお義父様と目が合った。
泣きそうなのがバレてしまったのだろうか。慌てて微笑んだが、みっともない嫁だと思われたかしら…
お義母様には睨まれてしまったわ…
泣いては駄目。微笑むのよ。今日の私は幸せな花嫁。お父様とお母様に笑顔を見せて、幸せだと思わせるの。
大丈夫。私は幸せよ。
そして、結婚式が無事に終わり、夜になると全身磨かれて、下着姿になって寝室で夫を待っていた。
緊張を紛らわせようと用意されたお酒を一口飲んだ。酔ってしまっても駄目ね…と、ベッドへ戻る。
けれど、夫はいつまでも戻らなかった。
義務として来てくれるんじゃないかと思っていた。
でも…違ったのね。
涙が止まらなかった。体を重ねてしまえば、少しでも私を見てくれるのではないか、愛してくれるのではないかと。
溢れ出す涙も嗚咽も止まらなかった。
すると、突然扉が開いた。
旦那様…?
涙で、よく見えない。必死に目を擦り、入ってきた人を見た。
その人は私を強く抱きしめた。
何故、お義父様が…?と不思議に思ったが、それよりも悲しみが上回っていて涙が止まらない。
暫く、涙を指で拭われていた。のだけれど…
私の目元に口付けられた。
え…お、義父様…?
頬が赤く染まり、雰囲気が何だかおかしい…高揚しているのか、息も若干荒い…
目が合うと、突然唇を奪われた。
深い口付けに驚くも動けなかった。
お義父様が、どうして…?
下着を剥ぎ取られ、全身に口付けられてようやく理解した。
お義父様に抱かれるのだと…
いけないことだ、裏切りになってしまう。止めようにも力強く動きを止められ、一晩中、体を重ねることになってしまった。
破瓜の痛みと恐怖で、何度もやめてと呟いた。けれど、聞こえていないかのように、愛していると囁かれ、激しく抱かれた。
いつから…お義父様は私を…
疲れからか、私は気絶するように眠ってしまった。
✩母親Side
嫁がやってきて数日。息子は領地へ視察に行って暫く帰れないらしい。
さっさと嫁を孕ませて後継ぎが出来たら、追い出してしまえるのに。
いつまでもこの屋敷に置いておきたくないのよ。イライラしていると、専属侍女が真っ青な顔で報告をしてきた。
夫が嫁の寝室に入ったと聞かされた時、絶叫してしまった。
最悪の事態が起きてしまった。私の夫を寝取るだなんて!
息子を妊娠してから一度も閨を共にしていない。口付けすらされていない。会話さえ、まともに出来ていないのに!
急いで嫁の部屋へ向かい、扉を開いた。どこにもいないわ…まさか!
夫の執務室や寝室を覗くもいない。
一体、どこへ…と探し回っていると夫の浴室から声が聞こえた気がした。
浴室に近づくと、水の音と情事の音、夫の笑い声、嫁の泣き声まで聞こえてきた。
嘘よ…嘘だと言って。まさか息子の嫁を寝取るだなんて。
その場に座り込んでしまった。いつからなの。いくら仮面夫婦でも、あんまりだわ。
暫くして、私はようやく立ち上がり、自分の部屋に戻って泣き続けた。
✩息子Side
領地での視察を終えて、明日の朝に帰ることになり、夜は宿で休むことにした。
疲れていたのもあって暫く眠っていると、人の気配がして起きた。
「誰だ…」
「私よ」
はっと目を覚ませば、目の前には初夜に抱いてしまった友人だった。
「な、何故…」
「貴方、あの日のこと覚えてる?」
「い、いや、覚えてない」
「もう子供が出来てるかもしれないわ。何度も吐き出されたんだもの」
腹を撫でて、うっとりと呟く友人。
まずい…子が出来たとしても、この女を我が家に入れるわけにはいかないぞ。この女にメリットなど無いんだ。
「ねぇ、責任取ってくれるのよね?」
…こいつは誰とでも寝るような女だ。俺が父親ではない可能性が高い。
だが、もし俺の子を生んでしまったら…
女が話しかけてくるが、もう何もかも聞き流してしまう。
…こうなったら…消すしかない。
少し待っていてくれ、と女を部屋に待たせた。そして、近場の飲み屋から女に飢えた男達を集めて部屋へ向かわせた。
宿屋の主人に周りの部屋の代金と口止め料を支払い、誰も近寄らせないでくれと頼んだ。
俺はもうその宿には戻らなかった。
✩父親Side
初夜の日から彼女の世話は、全て私がしてきた。
食事も風呂も着替えも全て。
愛しい彼女を誰の目にも触れさせたくなかった。
家令に命じて、別邸に荷物を運び込んで、私と彼女だけの暮らしが始まった。
最初は泣いて怯えていた彼女だが、受け入れてくれたのか大人しく過ごしている。
「愛しい人。今日は庭を散歩しよう」
「…お庭…」
「珍しい花が植えてあるんだ。君好みの花園がある」
「どうして私が好きだって…」
「君と初めて出会った時、花園で楽しそうにしていたからだ」
彼女に似合う海の色をしたドレスを着せて、庭へ出る。
彼女の為に作られた花園だ。国内、国外からも集めた花を彼女は喜んでくれるだろうか。
花園の前で彼女は涙を溢れさせた。
「綺麗…」
あぁ、その美しさに私はもう抑えきれなかった。
口付けてしまう。何度も何度も。彼女の息が荒くなっても、ただただ欲張り続けた。
「君を愛しているんだ」
「お、義父様…」
「いいや…私を君の夫にしてくれ」
「…旦那様…」
彼女が花なら、私は虫だろう。
甘い蜜に集る虫だ。
私達だけの世界で。私達だけの花園の中で何度も愛を確かめ合った。
✩息子Side
あの女から逃れるように屋敷へと戻ってきた。
これからどうすべきか。あぁ、最悪だ。
イライラしながら部屋へ行こうとすると、古くからこの屋敷にいる使用人が怯えるように話しかけてきた。
「じ、実は…坊っちゃんの奥様が…」
衝撃的な話に何度も聞き返した。
父上が俺の妻を愛人にした?どういうことだ?
別邸で二人暮らしをしている?
理解が出来ない。ふらふらと歩いていると、母上の部屋の前にやってきてしまった。
部屋の中からは何かが割れる音、引き裂かれる音がした。
あぁ、母上も更におかしくなってしまっている。
事実を確認したくて、別邸へと向かう。
嘘であってくれ。父上が狂人になっただなんて。
息子の妻だぞ?俺の代わりに初夜を行っただけだよな?
別邸に到着し、ふと声がする花園の方へ向かう。
まさか。まさか。嘘だろ!
父上が彼女の後ろから覆い被さっていた。
見たくなかった。知りたくなかった。
妻の鳴き声に思わず、高ぶってしまう。
くそっ、くそっ!
父上の楽しげな声と荒い息が酷く憎く思えた。
しかし、そんな状況なのに俺自身が興奮してしまっていた。
✩とある使用人Side
このお屋敷の主達は、皆、おかしくなってしまった。
奥様と旦那様は随分前から破綻していた。息子である坊っちゃんには教育だけはしっかり受けさせるが、家族としては接していなかった。
だから使用人の皆で、坊っちゃんを愛した。
暇そうにしている時は遊び相手に。悩んでいる時は相談相手に。そうして坊っちゃんは成長していった。
身勝手な人間へと。
結婚式を終えて皆がそれぞれ帰ってきた。一人を除いて。坊っちゃんはいつまでも帰ってこなかった。
心配になり、夜遅くになっても帰りを待った。
待っていた使用人達が眠りかけていた頃、二人の侍女達が部屋に飛び込んできた。真っ青を通り越して、真っ白な顔をしていた。
「だ、旦那様が…」
息子の妻を寝取るだなんて。誰が想像出来た?
悲鳴をあげる者。呆然とする者。泣き出す者。
皆、坊っちゃんを愛していた。幸せにしたかった。親の愛情を与えられなかった子供を必死に守ってきたつもりだった。
坊っちゃん。貴方が早く帰ってきてくれたら。貴方の妻を守れただろうに。
使用人全員に優しく声をかけてくださったあのお方は、今頃怯えて泣いているだろう。
私達では止めることも出来ない。出来ることは、翌朝にお世話をすることだけ。
そう思っていたのに、お世話さえ出来なくなるとは思わなかった。
旦那様があのお方を別邸へと連れ込み、誰の目にも触れさせなくなるなんて。
自らお世話をしているだなんて。
申し訳ありません…っ、お助け出来ずに…
もうあのお方のお顔を見ることはもうないだろう。
✩彼女Side
別邸へ移動してから、私には旦那様しか頼れる人はいなかった。話し相手も旦那様のみ。
常に熱が籠もった視線と愛を囁かれると、私も絆されてきてしまう。
愛されたいと願ったけど、まさか義父とは…
旦那様は仕事を素早く終わらせては、私の元へと急いで戻ってきて、大型犬のように飛びついてきた。
私がいなくなってしまうかもと気が気でないと、怯えていた。
それが乾いた心に落ちる、救いの水のようであった。
満たされる。何を欲していたのか、もう分からない。けれど『私』を求めてくれるこの人の愛が私の心を満たしてくれる。
旦那様。私の旦那様…
私が幼い頃に花園で出会ったと言われても思い出せなかった。父の友人だと言われても覚えていなかった。
それでも旦那様は私の為に素敵な花園を用意してくれた。
ずっと夢だった、見たことない花を、植物を私の為に。
食事も食べさせてもらい、お風呂には一緒に入り、庭を散歩をしたり、朝から晩まで愛され続ける生活に私は完全に絆されてしまった。
「旦那様…どうか、私を置いて逝かないでくださいね。長生きしてください」
「勿論だとも。長生きして、死ぬ時は共に」
「あぁ…旦那様。嬉しいわ」
死ぬその時、私は旦那様と共に旅立とう。あの世でも共にいられるように祈りながら。
✩息子Side
父上は狂人になった。母上も狂人となり、部屋から出てこれなくなった。食事も拒否しており、衰弱しているそうだ。
食事を別邸に運ぶ使用人に、妻の状況を聞いている毎日だ。
父上が手放さない為、ほんの一瞬だけしか見られないようだが、元気そうに見えると言われた。
父上と話がしたい。だが、本邸には俺がいない時に現れ、仕事をしているらしい。
そしてもうすぐ、完全に俺に全てを譲り渡すということも決まっているそうだ。
彼女を連れて領地へ引っ込むと。そこで、完全に二人で暮らすのだと。料理人に料理を教えてもらっているのだとか、掃除の仕方も、買い物の仕方も。
…本気なんだ。もうどうすることも出来ない。
俺と妻を離婚させ、自身も母上と離婚するらしい。俺に全てを譲り渡す日に再婚するということだ。
何が何だか分からない。イカれた家族だ。
そして最悪な状況に、最悪な報せが入った。
本邸に頭のおかしな女が騒いでいると、使用人に呼ばれた。
友人だった、あの女が。
膨らむ腹を撫でながら、イカれた目で俺を見つめる。
死ななかったのか…そうか…
「すぐに捕らえてくれ。頭のおかしい女だ。何をするか分からない。地下牢に連れて行ってくれ」
やはり己の手を汚すしか方法は無い。
あぁ、俺もまたイカれた一人だ。
✩家族のその後
父親と彼女は領地へ移り、子も産まれ、死ぬまで愛し愛される幸せな日々を過ごした。
時が経ち、父親が亡くなるその時、彼女は毒を飲み、共に逝く。父親は喜んで彼女と逝った。
彼女を残して逝くことは最初から考えなかった。絶対に連れて逝くと決めていた。残された彼女が誰かの物になるのは許せないから。
彼女はただそばにいたいという気持ちだけで、ついていった。
母親は精神崩壊をして、二度と正気に戻れず、衰弱死。死ぬまで理想の家族を夢見ていた。
息子は女を始末した後、親戚から後継ぎを貰い、教育を行い、成人した後継ぎに全てを譲り渡した。
その後、彼は行方不明となる。最後に目撃された場所は飲み屋で、貴族らしい数人に連れて行かれた。(後に女の家族だと判明)
古くからの使用人達は、新たな主の元で働き続ける。
あの家族の壊れていく姿が目に焼き付いていた。
何かがひとつでも違えば。正しい道へ戻っていれば。
今更の話である。
End