桜の散る頃に
桜の舞い散るこの季節にある一人の女性が静かにこの世を去った。
俺が溺愛していた人。
桜が大好きで子供が出来たら桜と名付けると言い切るほど好きだった。
だけど、子供は一人も出来る事も無くこの世から姿を消していく。
彼女からの最後のお願いを聞いたのは火葬場で待っている時の事だった。
「こんな時に言うのも辛いとは思うけど、どうかこの子の骨を桜の舞い散る所で散骨して欲しいと言っていたの。ほんの一つまみでも良いから出来ないかしら」悲しみの中で懸命に告げてくれた彼女の両親は涙を流しながら話してくれる。
俺はほんの少しの遺骨を持ち帰っていく。
散骨用に粉々に砕かれた最愛の彼女を連れて夜中こっそりと桜の舞い散る場所で散骨すると不思議な事が起こったのだ。
俺の周りが朧気に光り、突如として姿を現した彼女は二度と会えないだろうと思った人。
一年に一度だけ。それも限られた一時間だけの時間しか会えない彼女とわずかな言葉を共有していく。
そんな生活ももう十年続いたある日の事。
だんだん彼女の姿が薄くなっている。
年数を経つにつれて別れが近付いているのだろう。
後何回彼女との短い時間を共有できるのか。
聞くのが怖い。
聞かずにいれば別れを惜しむのは最後だけでいいはずなのだ。
聞いてしまえばその時まで俺は別れたくないと引きずりながら彼女に再び会える一年を過ごしてしまうだろう。
「そろそろ時間だからまた一年後ね」人の往来するベンチで俺と彼女は付き合いたてのカップルみたいにお互い頬を染める。
暖かい光りに包まれていた場所は光りを失い街頭の光りに照らされて桜が舞い散っていた。
桜のようにほんのひと時花を咲かせ俺を満開に咲いてる桜と同じように笑顔にさせてくれる存在は来年まで会えない。
もう涙は流せない。
俺はベンチを立ち上がり往来する人ごみの中へと消えていった。
大変短い文章でしたが読んでくださり心より感謝申し上げます。
わずか八百字で詰め込んだ文章なのでそこまで出来上がっていないと思いますがお楽しみくださったら私としては至上の極みです。
久しぶりの全年齢作品なので緊張してますが今後ともよろしくお願いいたします。