宮女
**「え?私が宮女にされるって?!」**
村外れの川辺に立ちながら、私は空を見上げてから水面に映る自分の顔を見下ろした。水面には一枚の清楚な顔が揺らめいている。それは決して絶世の美女というほどではないが、目鼻立ちは整い、村のほかの娘たちと比べると肌もいくらか白い。問題は――「ちょっと見た目が良い」ことが、逆に厄介事を引き寄せる原因になっていることだ。
私は川面の自分をぼんやりと眺め、頭の中に一つの馬鹿げた考えが浮かんだ。「ただこの顔のせいで、私は宮女にされるなんて……。」
川の水はさざ波を立て、倒影は次第にぼやけていく。私は鼻で軽く笑い、身をかがめて水を一掬いすくい、顔を洗った。指先から冷たさがじわじわと這い上がり、少しだけ頭が冴える気がした。だが、冷静になったところで状況が変わるわけではない。分かっている、嫌だろうと何だろうと、私は「宮女になる」道を歩むしかないのだ。
背後から急ぎ足の足音が近づいてきた。まだ身を起こしきらないうちに、耳元で甲高い声が炸裂する。
「椿木薫!何をチンタラしてるんだい!さっさと準備しな、遅れるじゃないか!」
伯母さんの濃い訛り混じりの声が、私の鼓膜を叩いた。彼女は手に一着のぼろ服をぶら下げ、それをゴミでも投げ捨てるように私の足元に落とした。
私はその服を見下ろした。粗布でできたそれは、まな板代わりにできそうなくらい硬そうだ。吐き出しかけた言葉をぐっと飲み込み、無言で服を拾い上げた。
伯母さんは両手を腰に当て、いらだちを隠さず口を開く。
「うちでこんなに大きく育てるのがどれだけ大変だったと思ってるんだい?宮に送られるなんて、うちの先祖がいい加減に喜びで飛び跳ねるくらいだよ!宮に入れば、たとえお茶くみだろうが食べる物も着る物も村にいるよりマシだよ。それで上の人に気に入られでもしたら、家の名を高められるんだから!」
私は眉を軽く上げ、心の中で冷笑した。「家の名を高める」?それは私が高めるのか、それとも伯母さんが誇るだけなのか?彼女の急き立てるような声を聞けば聞くほど、私が彼女の「人生逆転の道具」にされていることがよく分かる。
「何をボーっとしてるんだい!さっさと着替えな!」
彼女は私を鋭く睨み、さらにせかした。
私は無言で一歩脇に移動し、のろのろと服を着替え始めた。粗布の生地が首元をこすり、痒くてたまらない。思わず低くぼやいた。
「こんなのが服?おばさん、自分で着てみたらどう?」
伯母さんの耳はやけに良いらしく、すぐさま腰に手を当てて怒鳴った。
「くだらないこと言うんじゃないよ!感謝しな!宮に入るなんて滅多にないチャンスだって分かってるのかい!」
私は彼女を無視した。一言でも多く言えば、逆に私が気にしているように見えてしまうからだ。事実、私は選ぶ権利などない。この「宮入り」が目前に迫った以上、どれだけ嫌でも受け入れるしかない。それを拒めば、怠け者扱いされて労役に引っ張られるだけだ。そちらのほうがよほど惨めだ。
服を着替え終え、私は再び川辺に立ち、水面に映る自分を見つめた。灰色のぼろ服に乱れた髪――痩せこけた案山子みたいだ。
伯母さんは一歩下がって、品定めでもするように私を見つめた。そして満足げに頷いて一言。
「まぁ、見た目はそこそこだね。村の他の娘たちよりはマシだ。いいかい、宮に入ったらおとなしくして、余計なことをするんじゃないよ。生きて戻ってこれたら、運が良かったと思いな!」
私は心の中で大きくため息をついた。「生きて戻れたら」?伯母さん、あんた思ったより宮廷ってものを分かってるじゃないか。あそこがどんな場所なのか、彼女は知らないだろうけど、私は古書でいくらか読んだことがある。女ばかりがひしめき合い、寵愛と資源を奪い合うような場所だ。少しでも頭を使えば分かる。あそこは「地獄」だ。
だが、それでも分かっている。染み込む地獄に飛び込まなければ、ほかの道はないことも。
町に向かう道は、すでに人で埋め尽くされていた。私は伯母さんと一緒に前へ進みながら、すれ違う人々のささやき声が耳に届く。
「今年は選定が厳しいらしい。最初の審査で半分以上落とされるって。」
「そうだね、見た目が良くても、規律や裁縫ができないとダメらしいよ。」
「それでも宮に入れたら運がいいよ。こんな貧しい家から娘が宮で働くなんて、最高の誇りだろうさ。」
私はうつむいて何も聞かなかったふりをしながら、足を止めることなく歩き続けた。今日は宮女選定の日。町の役人たちは早々に準備を整え、私たち「精選された」娘たちを受け入れるために待っている。
隣を歩いていたお団子頭の少女が、私をちらりと見上げ、小さな声で聞いてきた。
「……怖くないの?」
私は彼女に一瞥を投げ、手元にある服の端をぎゅっと握りしめているのが見えた。泣き出しそうな顔だ。
「怖い?」私は軽く口を開き、微笑むように言った。「怖がっても仕方ないじゃない?」
少女は一瞬呆然としたように見えた。反論したい様子だったが、何も言い返せず口を閉じた。
私は彼女を見るのをやめ、再び前を向いて歩き続けた。本当は、私だって怖くないわけじゃない。けれど、「怖い」という感情は、状況を良くするどころか、逆に悪化させるだけだ。今この場で弱みを見せたら、それこそ誰からも軽く扱われるだけだ。
隊列は次第に長くなり、少女たちの家族は別れ際にそれぞれを励まし、見送っていた。一方、伯母さんはまだ耳元で延々と文句を垂れ流し、従順でいるようにとうるさく言い続ける。
私は適当に相槌を打ちながら、心の中で静かに決意した。「宮女?奉仕するだけの人生?」それは確かに冴えない響きだ。でも、もし宮に入るのなら――私は絶対にそれ以上を目指す。
列が動き出すと、私は群衆に紛れ込みながら、次第に冷静な目つきになっていった。川の水が流れ、太陽が体に降り注ぐ。その暖かさが刺すように感じられるほどだった。私はもう自分の姿も、ほかの誰の姿も見ようとせず、ただ黙々と歩き続けた。