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第1話その6

 オーストが道を開き私を敷地に入れてくれたあの日、私は初めてオーストと対面した。噂でしか聞いたことがなかった彼女はとても美しく呆然と見てしまった。とても500年生きているとは思えないほど若々しく、老婆を想像していた私の予想を裏切った。オーストに見惚れていると、

「なんだい?私の顔をまじまじと見て」 

 と、話しかけてきた。私は「申し訳ありません」と言ってから、慌てて挨拶をする。

「初めまして、私はリーディア・マルゴットと申します。あなたの弟子入りをお願いしたくここに参りました」

「なぜ君は私の弟子になりたいのかい?」

 私は自分が置かれている状況を話した。ライオールが私を罠をはめようと動いていること。おそらく私に罪を着せて処刑させようとしていること。それらを話し終えた後、オーストは口を開いた。

「君の事情は分かった。でもなぜそれが私に助けを乞うことに繋がるんだい?」

 私は何も言えなくなってしまった。転生前のことを話したって馬鹿げた話だと信じてくれるはずがない。これは無理そうだと落胆していたら、

「なるほど、君は異世界から来たんだね」

「え?」

「私はある程度なら、その人の過去を見ることができる。今の君は隙だらけだったから君の記憶を覗くのは簡単だったよ」

「でも、信じてくれるんですか?」

「君は狂ってるわけではないし、本当のことを言っていると思う。でも、にわかに信じがたいな」

「聞いたことがないから……ですか?」

「そうだね。他の世界からこの世界に転生した話なんて聞いたことはない。しかも誰かが書いた小説の世界に転生するなんて、そんなことあり得るのか?」

「でも」とオーストは続けた。

「この世界は原作の世界そのままというわけではないのか」

「そうなんです」

 私は前のめりに頷いた。

「ここは原作と違って主人公のアイリスがいないんです」

「うーん……そうだね」

 オーストは少し考えてから自分の考えを述べた。

「ここはその原作の平行世界じゃないか?」

「平行世界?」

「この世界の他に世界はいくつもあり、中には似たような世界も存在すると言われている。君の世界では平行世界の存在は眉唾物だと思っていた人もいるらしいが、それは嘘ではなく本当に実在している」

「本当にパラレル……平行世界がいくつもあるんですか?」

「あぁ。誰も他の世界に行ったことはないし、君以外は他の世界から来た人はいないけれどね。少なくとも私の知る限りでは」

「どうしてそこまで断言できるんですか?」

「この世界には【地脈(エティシ)】と【道脈(サティシ)】というものがあるんだが、そこからこの世界の過去を垣間見えることができるんだ」

「へぇ!?すごい!」

「ただ全てを網羅できるわけではないからね。私が知らないだけで、もしかしたらそういう人もいたかもしれない」

 私はひたすらオーストの話に感心していた。

「それで前世の記憶がある君は私の元に来たわけか」

「はい!どうかお願いいたします」

 深々とお辞儀する。

「確かに弟子はほしいと思ったことはあるが……」

「お願いします!何でもしますのであなたの側に置いてください」

「本当に『何でも』するのかい?」

「はい!!」

 力強く頷く。

「そうだな……」

 オーストはまた考え込んで、そしてまた口を開いた。

「取引をしよう」

 オーストは私の()を覗き込んだ。オーストの()も私と同じ赤色をしている……

「君を私の弟子にしてあげよう。その代わり、私の子孫のオーレンの嫁になってほしい」

「オーレン??」

「『そんな人、原作にはいなかった』と思ったかい?」

「はい。初めて聞きました」

「オーレンは私の子孫の一人で年は25の男だ」

「はい」

「だが、その男は普通の男ではない」

「はい?」

「その男の身体は呪いによって皮膚が焼け爛れているんだ」

「何の呪いなんですか?」

「イーギア家は長く続いている古い家系だ。その歴史がある分、多くの人から恨みを買っている。特に私のせいでな」

「そんな、オースト様はすべきことをしているだけなのに」

「そう言ってくれて嬉しいよ」

 オーストは初めて笑ってくれた。

「その恨みは呪いに代わり私ではなく、私の子孫の身体に現れるようになった」

「それで皮膚が焼け爛れていると?」

「あぁ。オーレンは顔の上半分と両手の先から両肘まで、両足の先から両膝までが焼け爛れている」

「そんなに範囲が広いなんて……」

「そんな訳で、君にはオーレンの嫁になってほしいんだ」

「誰も結婚したがらないからですか?」

「そうだね。皆、オーレンを見るとたじろぐのさ」

 オーストは残念そうに言う。

「それで、君はこの条件を呑むのかい?」

「もちろんです!」

「オーレンがどんな男かよく知りもしないのに?」

「オースト様の子孫なら悪い人なわけがないです。それに……」

「それに?」

「その人の見た目ではなく中身で好きになる派なので、正直外見はそこまで気にしないです」

「……本当に?」

「はい。例え相手がどんなに美形でも、なぜかすぐ好きにならないんですよね。その人と交流してその人のことを知って、そこで初めて好きになることが多いです」

「君、嘘は……吐いていないか」

 オーストはすごく驚いた様子だった。

「君はすごく変わっているんだね。気に入ったよ」

 オーストは右手を差し出した。

「交渉は成立。君を私の弟子にする」

「本当ですか!?やった!!」

 私は喜んでガッツポーズをした後、オーストの手を両手で包むように握手した。

「不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしく」




 ……あの日のことを不意に思い出した。それから1年半はあっという間だった。

『濃い1年半だったな』

 それまでの人生がぬるま湯に感じられるほど、修業はスパルタだった。

『でも、楽しかったから良いけど』

 いつもドキドキハラハラする生活も悪くないなんて、私はオーストの言う通りやっぱり変わっているのかもしれない。

『明日も早いし、そろそろ寝よう』

 ここでは朝は6時起きなのが決まりだ。

 戦いで疲れていたので、すぐに瞼は重くなり私は眠りについた。







 リーディアが眠りについた頃、5階にあるオーストの書斎ではオーストとシーギが穏やかに雑談していた。蝋燭の灯った部屋は温かみがあり、キカは止まり木に乗りすやすやと眠っている。

「リーディア様が無事にこちらに来てくださって良かったですね」

「そうだな」

 オーストは書斎机の近くの椅子に座りシーギを見る。

「近々、ライオールが動くとは分かっていたが意外に早かったな」

「随分と楽しみにしていらっしゃいましたよね。リーディア様がこちらに来るのを、今か今かと」

「楽しみにしていたさ。私の愛弟子だからね」

「愛弟子だからでもありますが、婚約者だからというのもあるでしょう?」

「……否定はしない」

「あなたは昔から私とウーニャに対しては正直ですね…………」



「…………オーレン様」



 オーストはゆっくりと姿を変えた。女性から男性の姿へ。背は高くなり、髪はブロンドから灰色に変わり、髪の長さは腰の下から顎の下まで短くなった。前髪の下の皮膚は鼻頭あたりまで赤黒く焼け爛れる。眉毛と睫毛はほとんどなくなり、鼻頭からその下皮膚は青白くなった。両手は包帯が巻かれる。白いブラウスと臙脂色のドレスから、淡い水色のワイシャツと紺色のズボンに代わる。変わっていないのは赤色の瞳だけ。

「自分の正体を明かす気はないのですか?」

「オーストの秘密を他者に明かしてはいけない。それがイーギア家の決まりだ」

「秘密をばらしたということが知られなければ良いじゃないですか?」

「君は本当にイーギア家の執事かい?」

「イーギア家ではなくオーレン様の執事でございます」

「君というやつは……」

「確かに、」と前置きをして話を続けるシーギ。

「オーレン様がオーストだということはイーギア家の方々と私とウーニャしか知りません。でも、リーディア様は将来イーギア家の一員となるお方なんですから話しても問題はないはずです」

「まだイーギア家の者ではないだろう?」

「なら、今すぐにでもなされば良いじゃないですか?」

「リーディアは私のことは好きではないだろう?」

「リーディア様は人の見た目には拘らないと仰っていたのでしょう?」

「そうだが……」

「まず、オーレン様が今の姿になって異性の姿にならないと意識してもらえませんよ?」

「……」

「リーディア様なら大丈夫だと思いますが、そこまで嫌なら私からはこれ以上何も申し上げません。しかし、」

「しかし?」

「告白する前に誰かに取られても知りませんよ?」

「君は時々意地悪なことを言うね」

「申し訳ございません」

「そんなこと少しも思っていないくせに」

「ふふふ」

 シーギは愉快そうに笑った。そんなシーギを見て苦笑するオーレン。

「とにかくリーディアには私の正体を話さないでおくれよ」

「かしこまりました」


 二人の男はそんな会話をして夜は更けていった。リーディアはオーストが本当はオーレンだとは知らない。だがリーディアにもオーレンに明かしていない秘密があることも……この時のオーレンはまだ知らないでいた。

 その頃、(ほむら)の森ジュジュッカで彷徨う一人の少女がいた。暗い森の中、ランプを掲げて歩く。

「オースト様のお家はどこにあるのかしら?」

 ウェーブがかった亜麻色の髪は肩まで隠れ、前髪から青い瞳が覗く。

「あぁ、さっきここに来たばかりとはいえ挫けそう!でも、諦めちゃダメ!頑張れ、私!頑張れ、私!……」



「……頑張れ、アイリス・セレナーデ!!」



 少女は暗闇の中で一人、自分に活を入れる。暗い夜道を怖れることなく突き進むその姿は、まるで物語の主人公のようだった。








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