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第1話その5

 ディサアーレイ凰国ではマルマーデ女王とカルナ第一王女が今までの顛末を見ていた。マルマーデは薄紫色の髪を束ねてシニヨンにしていた。カルナも母親に倣ってシニヨンにしていて、さらに頭の横を壺菫色の髪と黒いリボンで編み込まれれている。二人とも瞳は紫色で、カルナはその瞳でマルマーデの方を見て聞いた。

「お母様、リーディア・マルゴットって……」

「マルゴット伯爵の娘で、ライオール王子の婚約者ね。そして魔力が高く、千年に一人の逸材と言われていた子ね」

「そうよね。もしかしたら私たちに匹敵するくらいの力を持つかもしれないと言われていた子よね」

 カルナ第一王女は溜息を吐いた。

「敵になる前に友だちになりたかったわ。そしたら私たちの脅威にならずに済んだのに」

「そうね。とても残念だわ」

 マルマーデ女王も溜息を吐いてから、【魔法の窓(エレウィーロ)】を二つ作る。この魔法は遠くの景色を映し出すことができ、映し出された相手と会話することができた。

 横に楕円形に広がるそれらに映ってていたのは、マースマーライ神国のスーリギア王とオースィ第一王子とユースィ第二王子。そしてもう一方は、イリイスガイ帝国のアルセウヌ王とライオール第一王子、ルイセール第二王子。

 スーリギアは緑色のショートヘアをしていて緑色の瞳を持ち、鋭い眼光をしている。双子のオースィとユースィも瞳は緑色。父親と似たような髪型をしているが、二人の髪色は、オースィは深緑色でユースィは灰緑色だ。ルイセールは黒髪で浅葱色のリボンで束ねて、ローポニーテールにしていた。

「皆さん、今の出来事を全て見ていましたよね?」

 各々、イエスという旨の返事をする。

「アルセウヌ王、これはどういうことですか?ライオールさんの婚約者が逃げ出すなんて」

「あの者は罪を犯した」

「罪?」

「ライオールの級友を殺そうとしたのだ」

「ライオールさんが何かしたんじゃないの?」

 カルナが口を挟む。

「頭が良い女がそんなデメリットの大きいことなんてするわけないわ」

「カルナさん」

 ライオールも口を挟む。

「恥ずかしい話になるんですが……俺にはリーディアという婚約者がいながら他に想い人がいました。リーディアはそのことに気付いて彼女に嫉妬したんです。俺が早くリーディアの気持ちに気付いていればこんな悲劇は生まれなかった」

 ライオールは辛そうに話した。

「全て俺のせいです」

「本当ね。女の敵よ、許せないわ」

 カルナは苛立たせながら言った。

「彼女に恨まれるようなことをするなんて。敵を増やすような真似をするなんて!おかげさまで、」

「オーストの力強い味方ができてしまった」

 カルナの代わりにマルマーデは付け加えた。

「オーストは広い範囲で大きく攻撃をすることができる。でも狭い範囲で速攻性のある魔法はどちらかと言えばあまり得意ではない。それが弱点だった。でもそんな彼女の弱点を解消したのが【雷の魔女】」

「彼女が現れたのは半年前。正体不明で魔力の高い魔女が現れたことは私たちの間で戦慄が走りました」

 今度はスーリギアが話した。

「私とユースィはジュイディッカ光国の者だろうと予想していたが、まさかイリイスガイ帝国出身の者だとは」

「とても予想外でしたよね」

 ユースィが神妙な面持ちでスーリギアに同意した。

「今までどんなに探っても彼女の正体を突き止めることなんてできなかったから、いつもオーストの保護下にいて隠れていると思っていたのに答えはこれ。イリイスガイ帝国にずっといたのなら、早く彼女の正体に気付いていればこんなことにならなかったのでは?アルセウヌ王、ライオール王子」

 アルセウヌもライオールも二人とも黙る。

「ライオールは全然気付かなかったんですか?」

「気付きませんでした」

「彼女の近くにいたのに、全然、全く?」

「そうですね……」

「はぁ、君からも隠し通すことができたなんて本当に彼女は魔力が強いんだな」

「そうなのよね」と、カルナは棘のある言い方をする。

「敵にしたくない魔女ランキング第一位に君臨していると言っても過言ではないくらいの天才で、未だに発展途上とも言われていたんでしょ?そんな女なら王族でも騙せられるのね。彼女すごいわね、本当に。そんな彼女の魅力に気が付かないなんて、ライオールさんすごいわね、本当に」

「カルナ、冷静になりなさい」

 マルマーデは娘を諭す。

「ジュイディッカ光国を攻めるのがさらに難しくなったからってイライラしないの」

「イライラするわ。リーディアの友だちになれない上にジュイディッカ光国も手に入らないかもしれないのよ?」

「まだ決まったわけじゃないわ」

「そうね、そうよ。分かってるわ。でもお母様、あの【炎の大魔女】がとてもお強いことは痛いほど知っているでしょう?大昔からいるオーストが年を経ることに力が弱まるどころか、ますます強くなってる化け物。発展途上のリーディアはそんなオーストの右腕。もう嫌よ、本当に嫌だわ。こんなことならリーディアを私の国にスカウトして私が面倒見たかったわ」

 ユースィはうんざりしているカルナに面白がって話しかける

「君は随分、リーディアを高く買っているね。まぁ、僕も君と同じように思っているけど」

「でしょう?」

「ライオールの婚約者じゃなかったら僕の妻にしたいくらいだった。とても可愛いしね」

「本当にね!」と、勢いよく立ち上がるカルナ。

「腰まである髪はチョコレート色で日の光に当たるとキラキラ輝く。目はぱっちりしていて赤い瞳が一際目立つ。鼻筋は通っているし唇もローズ色でまるでお人形のよう!」

「美人だと謳われるオーストと並んでも遜色がないのはすごいですよね」

「本当にね!なんでジュイディッカ光国に行ってしまったの?取り戻せるなら取り戻したいわ」

「あなた方、その話はそこまでにしてちょうだい」

 マルマーデは改めた態度でアルセウヌとスーリギアを見た。

「皆さんのご覧のとおり、私たち三カ国で作った兵器は予想通りまだまだ改良の余地があるわ」

「そうだな。まだまだ威力が足らない」

 とスーリギアは落胆した。

「今回は良い線を行っていると思ったんだが」

 アルセウヌも溜息を吐く。

「我らの魔法科学を結集させてもなお、あの結界を破ることはできない。しかし……」

 

「……思わぬ収穫もあった」


「思わぬ収穫とは?」

 スーリギアは訝し気にアルセウヌを見る。

「今回の件で『オーストは外に出ることができない』ということが分かった。今まで、なぜオーストはジュイディッカ光国から出ないのかは疑問とされてきた。だが先程の侵攻では、リーディアだけがジュイディッカ光国の領海の海域にある結界の外に出た。まるで領海の外に出られないオーストの代わりをするように」

「確かにそうね」と、マルマーデも話す。

「オーストは自分が外に出る必要がないから出ないだけだと思っていたけれど、もしかしたら本当に外に出ることができないのかもしれないわね」

「それなら朗報だな」と、スーリギアもマルマーデに続けて話す。

「私たちが南の国々を攻めたとしても、オーストはあまり手助けをすることができないということだからな」

 アルセウヌは「そうだ」と頷く。

「我々が結界を壊し南の国に侵攻したとしても、オーストが直々に来ることはない。我々は南の国に辿り着きさえすればいいというわけだ」

「そしてジュイディッカ光国の周りを取り囲み、戦争を仕掛けるのね」

 マルマーデの言葉に深く頷くアルセウヌ。

「あぁ。あのオーストでも四面楚歌になったら限界が来るだろう。その時がジュイディッカ光国の終わりの時で、我々のものになる時だ」

 二人の王と女王は不敵な笑みをもらした。その後いくらか会話して、会合をまた後日に設定してその場は解散した。




 会合を終えイリイスガイ帝国では、ルイセールがアルセウヌに尋ねていた。

「もしかしてリーディアを捕らえる気なんですか?」

「あぁ、自分で逃がしたものは取り戻せねばな」

「そして、処刑するんですか?」

「あぁ、そうだ。彼女は罪を犯したからな」

「そう……ですね」

「お前も侵攻に参加してもらうからな」

「え?僕が?」

「お前も今年で17。今年で18のライオールはすでに数年前から戦いに身を投じている。王族の男で戦争に参加していないのはお前だけだぞ」

「はい……」

「そんなに不安になるなよ」

 と、ライオールが話しかけてきた。

「俺も父上もいるんだからさ。お前は一人じゃないんだから」

 爽やかな顔で笑いかける。

「はい……ありがとうございます、兄上」


 アルセウヌもライオールも自室に戻った。でも、ルイセールは自室に戻らず城の外にあるバラ園に行く。バラ園の中心に深紅のバラが咲き誇っていた。1週間前、リーディアとこの花を見た。リーディアは「とても綺麗ね」と喜んでいた。このバラは彼女の好きなバラだった。

 ルイセールはあの日のことを振り返り、深紅のバラをただ見つめていた。








 私とオーストは家に帰宅した。家の外ではシーギとウーニャとキカが出迎えてくれた。

 キカはオーストの肩の上に飛んで乗り、自分の頬を寄せてオーストの頭にすりすりした。

「お二方、お疲れさまでした。今回もお見事でしたね」

「ありがとう、シーギ」

 オーストは嬉しそうに話を続けた。

「ところでさっきまで私たちが食べていたランチは残っているかい?」

「もちろんです」

 それを聞いた途端、とてもお腹が空いていることに気付く。

『そうよね、まだランチの途中だったもの』

 また椅子に座り先程の食事を続ける。ウーニャがお茶を入れ直してくれたので、カモミールティーがとても温かい。

「夕食はどうなさいますか?」

 腕時計を見ると午後2時を指していた。

「いつも通り、7時で」

「かしこまりました」

「ついでにこのままアフタヌーンティーの時間にしてくれ」

「かしこまりました」

「まだこんなにあるのにも関わらず、アフタヌーンティーやるんですか!?」

 私は驚く。だって、料理は全体の半分は残っているんだもの。

「あぁ。君だってお腹が空いただろう?」

「そこまで空いて……ますね」

 自分のお腹と相談した結果を正直に話した。

「だろう?」

「でもそんなすぐに作れないのでは……」

「安心してください、リーディア様。もうすでに準備されてあります」

 と、シーギが得意げに話した。

「えぇっ!?すごい!」

「フローはいつも私たちのタイミングを見計らうのが上手いね」

 オーストは感心したように言った。

「はい、フローの料理人としての勘は目を見張るものがあります」

 そう言うシーギに続いてウーニャが、

「フローはオースト様とリーディア様が行かれた時から、ルンルン気分で作っていましたよ」

「そんな早くからこの展開を読めていたのね」

『あとでフローにお礼を言わなきゃ』

 もっとも、彼はとてもシャイなので会ってくれるかどうかは分からないけれど。

『でも、もっと仲良くなりたいもの』

 これからずっとここに住むのだ。この国の人々とはできれば全員仲良くしたい。いや、仲良くなる。

 未来は決してものすごく明るいとは言えないが、それでもこれからの生活に心躍らせた。


 夕食は私の歓迎会を兼ねて御馳走が振舞われた。この国の料理をふんだんに使われたフルコース。食前酒は塩オレンジで作られたもの。オードブルではマスカットと生ハムの甘砂糖がけ、モッツアレラとオレンジとトマトのバジルソースがけ、子羊のソーセージとレンコンの素揚げ。前菜ではカニと帆立、オクラやスイートコーン、人参、ブロッコリーを使ったテリーヌ。メロンの中に入った海老のポタージュに、ポワソンではコワキ鯛のムニエル、レモンのソルベを挟んでヴィヤンドではレーン牛のヒレ肉のソテー。フロマージュでは、花カマンベールチーズとブルーベリーチーズとチョコレートチーズ。デセールでは大きなホールケーキが出てきた。生クリームが多く塗られたスポンジケーキには苺、ラズベリー、イチジク、梨、林檎、黄桃などの果物がこれでもかと載せられたり挟まれていた。

 オーストと食後の紅茶を飲んでいると不意にオーストが笑い始めた。

「どうかなさいましたか?」

「いや」

 オーストはティーカップを置く。

「これから君とここで共に生活できるんだなと思うと嬉しくて」

 気恥ずかしそうに笑った。

『……私といるの、嬉しいと思ってくれているんだ』

「私もすごく嬉しいです!これからはいつでもオースト様に会えますし!」

「ふふっ、そうだな」

 私は姿勢を正した。

「改めて、これからどうぞよろしくお願いいたします」

 オーストに対して深々と頭を下げた。

「こちらこそ、これからよろしく」

 顔を上げた時、オーストと目が合った。なんだかおかしくて、お互い笑ってしまう。



 食事を終えると、オーストが部屋の案内をしてくれた。

「今まで通り君は四階を使ってくれて構わない」

「本当にこの階全部を使っちゃって良いんですか?」

「あぁ。君も必要なものが色々とあるだろう?部屋が足りなかったら増築しても構わない」

「しませんよ、そんなこと」

「増築してもこの家は倒れない。心配しないでおくれ」

「いえ、そういう問題ではないですが……」

 4階は5部屋ある。その内の一室をこの家に滞在している間、有難く使わせてもらっていた。

「こんなに部屋があれば十分ですよ。お気遣い、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 オーストは満足したように笑った。

「私は5階にいる。何かあったら呼んでくれ」

「はい。いつものベルを鳴らせば良いですか?」

 オーストは「あぁ」と返答した。この家は一階から四階までは階段で繋がっているが、五階だけは無かった。五階に行くにはオーストに階段と扉を作ってもらわなければならない。ベルは部屋の扉近くの内側と外側に取り付けられていて、そのベルに付けられている紐を引いて鳴らせばオーストと話せた。

「では、リーディア。おやすみ」

「おやすみなさい、オースト様」

 オーストはしばらく廊下を歩いたのち、蜃気楼のように消えた。それを見届けてから私も寝支度をするために自分の部屋に入った。



 ベッドの脇にある蠟燭の火を消して布団の中に潜り込む。このベッドはふかふかして柔らかくて気持ちいい。それもそのはず、ウーニャがいつも真心こめてこの家を綺麗に保っているからだ。

『ウーニャは本当に家事のエキスパートね』

 この世界どころか前の世界でも私は家事を他の人にさせていた。

『この世界だとウーニャのようなメイドさんが初めからいたし、前の世界では実家住まいだったからお母さんに甘えてたし』

 研究職でいつも忙しい私の代わりに専業主婦の母がいつもサポートしてくれたのだ。

『色んな人にお別れができなかったのは本当に悔やまれるわね』

 もう、元居た世界に帰ることはできないだろうと薄々気付いている。どんなに書物で調べても元居た世界に帰る方法どころか、私のように前世の記憶を持った者は一人もいないらしかった。

『私は死んでこの世界に転生した』

 人はいつか死んで、そして生まれ変わる。ただ、生まれ変わった先が元居た世界ではなく、違う世界だっただけで。

『でも、この世界って何なんだろう?』

 原作の「鬼畜王子なんて要りません!」に似ているけれど、この世界の主人公のはずのアイリスはいないし。

『もしかして本当はいるけど私が見つけていないだけとか?』

 でも、イリイスガイ帝国にいないのは事実だった。魔法が自由に使えるようになってから探したけど、どこにもいなかったのだ。

『もしかして他の国にいるのかしら?』

 そうだとしても、どのみち原作が改変されている。

『とりあえず私はこの国のために働かないと』

 そして、オーストに出会った頃を思い出した。


















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