オムライス
恭子はわかっていたのだろうか?
私はよく恭子に料理の腕を振る舞っていた。最初はバイト先でただオムライスを作った。その食べる仕草、表情、なにより笑顔が今でも私の脳裏に焼きついている。恭子は愛想が良く店内でも人気だった。いつも気づけば恭子が私の瞳の中にいた。今思えば私が恭子にできることはただ料理を振る舞うことしかできないのに、私は思い上がっていたのかもしれない。
あの日のことはよく覚えている。あの日のオムライスは忘れもしない。初めて料理を振る舞ってからバイト先で恭子に料理を振る舞うのが日課だった。恭子は私のオムライスが好きで、私はそんな恭子が好きだった。私が冷蔵庫から卵を取り出そうとするとき「環奈ちゃん、私は彼氏できたんだよね//」と恭子が言った。私の中にある渦巻く感情から取り出し「そうなんだ。どんな男なの?」と声を絞り出した。いつも手際良く割っていた卵も上手く割れない。恭子から男の魅力や性格が語られるが私の耳はそれを受けつかなかった。話しているうちにオムライスができた。いつもの手順で作ったがそれを口に含むと酸っぱく上手く飲み込めない。いつも日常、いつものオムライス、いつもの恭子だと思っていた。それは違った。恭子が「環奈ちゃんのオムライスってなんでこんなにも美味しいんだろう!?今度彼氏にも作ってあげたいから作り方教えて?」と言ってきたが私は「普通のと変わらないよ」と断った。別に恭子を嫌いになったから断ったわけではない。ただ隠し味を教えたくなかっただけだ。恭子はわかっていたのだろうか?オムライスに入っていた隠し味を、私の恭子への想いを…
あれから何年経ったか思い出したくないが、今でも私のオムライスは甘酸っぱい味がする。