第4話 ヴィオレット辺境伯領へ行くらしい
王国内の北西部に位置するヴィオレット辺境伯領は国内最高度と謳われるフィアールカ山脈を抱える、自然豊かな肥沃の土地だ。
山脈を越えた先には獣人族の治める獣人王国、辺境伯領の西部は友好国のフリージア王国との国境が存在していることから、防衛のための私軍を持つことが許されている。そのため辺境伯の位についている、ということらしい。
“防衛のため”といえど、それは過去の話。今のフリージア王国との関係は良好だし、獣人王国との間にはフィアールカ山脈が存在しているので、わざわざその山を越えて攻めてくるということはまずないだろう、と以前辺境伯が語っていた。
フィアールカ山脈の麓には森が広がっており、貴族達の狩りの場として有名だ。王族も長年愛用している狩猟場でもある。そんなヴィオレット辺境伯領は王都から馬車で半日でいけるほどの距離だ。
「(……穏やかだなぁ)」
馬車の窓枠に体を凭れかけながらぼんやりとそんなことを考える。
王都を抜けると次第にのどかな農村風景が広がるようになる。
あちらこちらで青々と茂った草を食む牛と、頭上に広がる澄み渡った空を眺めるだけで穏やかな気持ちになった。
王都とヴィオレット辺境伯都の間は大きな街道で繋がっているが、整備の行き届いていない道も当然ある。
その揺れを解決してくれるのが、王家御用達の工房でつくられた馬車だ。ふかふかの座席とクッションのお陰で長時間乗り続けても痛くない。
私はそう言うのに詳しいわけではないので、何がどうなっているのか全くわからないのが本当に惜しい……。
この国の常識として、王家の姫君が狩りをするというのは異端に見られるらしい。
まあ確かに命のやりとりだし、そのあと捌かなきゃいけないって事が各家のご令嬢達がこぞって遠慮する理由なのだろう。私はその限りではないが。
よくよく考えて欲しい。
慣れないドレスを身に纏い、王宮にいる間は勉強、マナー講座、勉強、音楽のレッスン、時々挟まれるお茶会への参加……そう、王女のタイムスケジュールには体を動かす時間が全くといって良いほど存在しないのだ。あるとしたらダンスのレッスンくらいだろうか……。
私はアウトドア派ではない。
しかし何年も城の中でじっとしているのも耐えられない! 運動したい! 外の空気を吸わせて欲しい!
──そうして私は、狩猟という答えに辿り着いたのだった。
ちなみにこの世界、前も触れたように魔物がいる。いや、むしろ普通の動物が居ない。家畜も、庭でさえずる小鳥も、みんなみんな魔物なのだ。
体内の魔石なる特殊な宝石のような物が核となり、強靱な肉体および技能を実現している。残念ながら私は会ったことはないが、話によれば魔法を使う種──ドラゴンとか、フェンリルも居るらしい。ロマンを感じる反面、やはりありきたりだと思ったり思わなかったり…。
不意に、馬車がカタリと音を立てて止まった。
驚いて窓の外に身を乗り出すと、先行して馬を走らせていた護衛の騎士が申し訳なさそうに口を開いた。
「殿下、申し訳ございません。街道に大きな落石があり通行止めとなっているようでして……復旧にはもう暫くかかるそうで……」
なんでも昨日の強風に煽られて、大きな岩が落ちてきているらしい。それで通行止めになっている、と。
あー、じゃあしょうがないよね。元々この街道付近は地盤の緩い土地だし、落石は割とある話。
私は僅かに笑顔を浮かべてみせた。
「構わないわ、自然災害だもの。復旧まで待ちましょう……今日中には復旧するのでしょう?貴方も、ご苦労様」
「──は、光栄にございます。」
幸い、まだ領都には距離があるが、既に馬車はヴィオレット辺境伯領に入っているらしい。なので今日中には辺境伯領都に入れるだろうと想定。
今回はほとんど休みを取らずに馬車を走らせて貰ったからね、休む時間が出来たと思えばいい話ですよ。私はただ乗せて貰っているだけだけど、騎士達や馬は重労働だからね。
私は馬車の扉を開くと、騎士達の許可をとって外へと躍り出た。
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