第3話 家族みんなで朝食らしい
我がストレリチア王国は大陸内有数の国力を誇る、“そこそこ”大きな国である。言うなれば上の下。上位には入るが、首座を狙うほどではないといった感じ。
あの女神様はどこか抜けているところがあるように思えるが、こう言うところは要求に忠実だ。
もちろん“そこそこ”に文句があるというわけではない。
むしろ私はこの“そこそこ”に救われている側の人間である。
私は自分で言うのもあれだが、物凄く出来が良い子供という訳ではない。
確かに前世の記憶がある分、今後はともかく現在の学力は問題ないが、今まで経験の無いもの──例えばダンスだとか、社交界のアレコレだとかそう言うことに関しては平々凡々。
これが大国だったらレベルの高い教養を要求されていただろうが、幸いにも我が国はそこそこ! それなりの教養があれば文句を言われることは無いし、多少悪くても目を瞑って貰える。
大国の姫君に生まれて、トップランクの教養を要求されるとか、元一般人の私にはきっと耐えられない。
欲を言えば別に王家に転生させなくても、平民とか下級貴族とかでも良かったんだよ……と思わなくもないが、それは欲張りすぎなのだろう。
“そこそこ”といえども流石王宮と言わんばかりにだだっ広い回廊を進み、ダイニングホールへと辿り着くと、そこには既にある人物が着席していた。
モデル顔負けのすらりとした体格に、炎をそのまま閉じ込めたかのような赤髪。伏せられていた、長い睫毛の下から覗く金眼が私の姿をとらえたことを悟った。
「おはようございます、お父様」
「おはよう、スカーレット」
ルドルフ・ストレリチア。
私の父であり、今代のストレリチア王国国王。
凛としたそれでいて厳格な雰囲気と、ふとしたときに浮かべる穏やかな笑顔が相まって、流石は王族といったような人物だ。どこからこの気品が滲み出ているのか、是非とも教えていただきたいところである。
正直未だにこの美形が貴方の父親なんだよ! と言われても違和感しかない。
前世の記憶がある私には当然前世の両親の記憶もあるわけで、2人目の両親というのもまた変な感じだ。
そういった理由からごく普通の子供達のように甘えることも出来ず、お父様からは随分と愛嬌のない子供のように見えているだろう。
従者が引いてくれた椅子に腰をおろす。
我が国の食文化は和洋中何でもありだ。
朝ステーキを食べたと思ったら、夕飯は魚の塩焼きと味噌汁なのね! ということが頻繁に起こる。ありがたいにはありがたいのだが、世界観はどうなっているのだろうか……?
また我が国では朝食や夕食は家族みんな揃って食べるのが慣習だ。同じ料理を同じテーブルで同じタイミングで食べる。そのため食事が始まるのは家族全員揃ってからになる。
ダイニングホールにいるのは私とお父様の2人。つまり今回の場合は、お母様と弟達が揃ってようやく前菜やスープが運ばれてくるわけだ。そのため1人が遅れるとみんながお腹を空かせて待つ、なんて事にもなる。時間には気をつけなければ……。
私とお父様の間に沈黙が広がる。
流石は国王、貴族社会で上手くやっていくためかこの沈黙の間も気まずくはない───ないのだが、やはり何か話題を振らなければと思ってしまう。
先ほども少し触れたが私には弟が2人居る。
4つ年下の弟ルーカスと、その1つ下の弟ロイ。2人とも王子らしく、すこぶる美形だ。私もまあまあの顔立ちだと自負しているが、弟2人は傾国の美女なんて揶揄されたお母様によく似ているのでさらに美形。そんな2人はお父様によく懐いている。
ルーカスはどこかでお父様の姿を見かけると今にも駆け出さんばかりの勢いで向かうし、ロイはお父様に褒められるといつも凄く嬉しそうにしている。
そしてそんな2人を見つめるお父様の目は、宮廷に出ている間と打って変わって大変優しげだ。───そう、お父様は大の子供好きなのだ! ごめんねお父様、かわいげのない娘で……。
私はお父様に駆け寄ることも、自分から声をかけることもほとんどない。だってちょっと恥ずかしいじゃないか。見た目は幼気な王女でも、中身は成人女性だぞ。もちろん会ったら会話をするし、決して仲が悪いわけではないんだけれどもね。
ということで、この沈黙はお父様が配慮してくださっていたとしてもやっぱり気まずい。弟達とはあんなに楽しそうに話しているのに! と。いや自業自得だぞ、私。
この長いようで短い沈黙を破ったのはお父様の方だった。
「……昨夜は風が強かったようだが、よく眠れたか」
「はい、問題ありません」
うーんかわいげ! かわいげがないんだよな! もっと良い返しが出来たら良かったのに。
でもかわいげって言うと…怖かったので今日はお父様のへやで寝たい~とか?なんかそれはそれで嫌だな……。
国王と王妃の部屋は1つになっている。両親の部屋で子供が寝る、といえば文面的にも角は立たないが、私は出来る王女なので! ラブラブ夫婦な2人の時間を邪魔したりはしませんよ。ええ、もちろんそんな野暮なことはしません。
「……そういえば」
ダイニングホールの扉の影から愛する妻子が現れる様子を眺めながら、お父様はそうぼやく。
偶然思い出したのだろうお父様のその言葉は、結果として私に衝撃を走らせることとなる。
「ヴィオレット辺境伯の領土へ狩りに行くと言っていたな。……楽しんで来ると良い」
やばい、普通に忘れてた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます…!
もし少しでも面白いなと思われましたら、スクロース先にある星、ブックマーク、感想などをいただけますとモチベーションアップに繋がります。
これからも毎日更新目指して頑張りますので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。