第2話 テンプレ通りにはいかないらしい
女神様が選んで下さったのは、雅かつ艶やかな妖や妖術の溢れる現代風異世界──ではなく、よくよくありきたりな中世ヨーロッパ風異世界だった。
この世界に生まれ出て約10年。
8年もの期間があれば、この世界の大まかな常識や現状を理解することが出来る。
この世界には魔法や魔物が存在していること。
私の生まれた国は王政であるという事。
そして、その王国の王女として二度目の生を賜ったということ。
つまるところ──先ほども言ったように、よくあるありきたりな展開であるという事が。
つまらない。何て面白味がないんだ。
こんなありきたりな転生は悲しすぎる。
悲しみのあまり枕に突っ伏せば、朝食の準備が整ったことを知らせてくれたメイドが微笑ましそうな表情を浮かべた。
中身は成人を余裕で越えている女でも、今の見た目は幼気な10歳児。
まだまだおねむな幼女に見えているはずだから、彼女の反応は間違ってない。中身は成人女性だけどな。
まあ別にそう言う世界観も嫌いじゃないけど、やっぱり現代風異世界の方が良かったなぁとか思ったり思わなかったり。慣れてる生活様式の方が気持ち的にも安心するし……。
それでもやはり今更「チェンジで!」という方法はない。
何せ生まれ出てきてしまったし、選ばれしものではなく単純に事故で転生することになった私にそのようなチート能力はないからだ。
おまけはついているらしいが、オマケはオマケ。チートではないとしっかり釘を刺された。
ここまでテンプレを極めていると、「この世界、何だか見覚えが……あっ、ここは死ぬ前までやっていた乙女ゲームの世界だ!」というような展開がありそうなものだが、心当たりがなくて困っている。
私も乙女ゲームはやる方ではあったけれど、残念ながら、ストレリチア王国というこの国の名前にも、自分の名前──スカーレット・ストレリチアという言葉にも心当たりがない。
スカーレットという名前だけで鑑みれば、ちょっと悪役っぽいかな……? とは思うが、姐御肌のキャラです! といわれたらなるほどと納得してしまいそうでもある。
トラックにはねられたのも、何か新作を買いに行った帰り道──というわけではなく、ごくごく単純に帰宅途中の出来事だったし。まさかトラックの運転手が何か新作を買っていたのか……?
一応、今日も朝目覚めた後に鏡台の前で「これが……私……?」とテンプレに沿ってみたが、当然存在しないはずの記憶は蘇らなかった。しょうがないよね、無いものはないんだからさ。
記憶は無いし、メイドには何か不思議なモノを見るような視線を向けられるしで散々だ。
そんなこんなでこの世界が乙女ゲームの世界なのか、漫画の世界なのか、小説の世界なのか、はたまたなんの関係もない普通の世界なのかとんと検討がつかない。
詰んでる。これは完全に詰んでる。
よくある前世の記憶チートで困難を回避! が出来ないわけだ。
「それじゃあ、いきましょう?」
「かしこまりました」
拝啓お父さん、お母さん。それにちょっとおっちょこちょいな女神様。
とにもかくにもわからないことだらけだけど、私は何とか異世界でやっていってます。
……まあ、これからも上手くやっていける保証はないけれど。
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