第1話 転生した……らしい
茶色の窓枠で切り取られた空は晴れているとも曇っているとも言い難い花曇りで、そんな中、放たれた窓の外からは庭園の花びらが一枚、また一枚と風に身を踊らせて入ってくる。
ほんの僅かに、生温い風が窓から入ってくるのに合わせて、私は瞳を閉じた。
「(……どうせ転生するなら現代風異世界が良かったなぁ)」
トラックにはねられて命を落とし、後に転生する──所謂“トラ転”なるものを経験したのが10年前の出来事である。
トラックにはねられた直後、私が呼び出されたのはこれまたありきたりな真っ白な空間。
そして、トラ転にはよくありがちな絶世の美女──確か女神と名乗っていた──そんな彼女に「うっかり間違えて殺しちゃった~。異世界に転生させてあげるから許してね~。オマケもつけてあげるから~」なんてフランクに言われ、あれよあれよという間に私の転生が決まったわけである。
先ほどの台詞は意訳ではない。本人の発言をそのまま引用している。
異世界転生というのはもう少しこう……風情があるというか、ドキドキわくわくさせられるものなのかと思ったのだが、私の場合はあまりにもスピーディー過ぎた。
あまりのスピーディーさに気持ちが追いつかないというか……。
私達日本人は異世界転生に夢を見すぎていたのかもしれない。何だか悲しくなってきた。
でもまあ、その一連の流れを嘆いてもしょうがない。切り替えの早いところが私の唯一の取り柄だ。
転生なんて普通はない話じゃないか。
それに、女神様の言うことには私の好きそうな異世界を選んで転生させてくれるらしい。
“訳のわからない異世界”ではなくて“私の好きそうな異世界”というところがミソだ。
「(異世界か……)」
私は最近読んだライトノベル小説達を思い浮かべる。
ラノベは中世ヨーロッパ風異世界を舞台にした作品が多いが、私が好きなのは現代風異世界だ。
妖怪とか華の高校生活とか着物とか!まあこればっかりは趣味嗜好の問題だけどね。
中世ヨーロッパ風も嫌いって訳じゃないんだけれど……転生する前提で言えば、生活様式ががらりと変わるのは負担だし。
新型ウイルスが流行した影響で自宅で生活する期間が増えた。それに従って、異世界転生を題材にしたライトノベル作品が数多く誕生した。
元々、漫画なり小説なりを読むのは好きだったため、異世界転生系の作品もいくつか読破している。そんな故あって、予備知識は万全だ。
「──じゃあ、いってらっしゃい~」
「あの、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそごめんね?まだお仕事に慣れてなくて……それじゃあ、次の人生も楽しんで~」
こうして私は、ちょっとおっとりしすぎているような女神様に見送られて、異世界へ転生したのだった。
──現代風異世界ではなく、中世ヨーロッパ風ではなく。
「(……なんか、違うんだよなぁ)」
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