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5 足りない(お金)


「……つまらない」


 この街はとても退屈だ。


 私は冒険者ギルドに併設された酒場の椅子に座り、ギルド内を見渡しながら、頬杖をつく。


 目が合うだけで喧嘩をふっかけてくる荒くれ者も、女と見れば見下す馬鹿も居ない。


 戦いに命をかけた時のゾクゾクする緊張感がない。


 この街はひどく平和で、刺激が足りなかった。


「何か面白いこと……」


 冒険者ギルドには様々な人がやって来る。


 酒を飲んで騒ぐ者、依頼書を真面目な顔で眺める者、仲間内で話し合っているパーティーもいれば、1人で黙々と食事をしている者もいる。


 そんな人達を眺めながら、そろそろ他の街に移ろうかと考えていた時、騒がしかったギルドが静まり返った。


「ん?」


 みんなの視線を追うと、異質な存在の少年が居た。


 血だらけのローブ。背丈は高くなく低くもない、黒髪黒目の中性的な見た目。普通ならあまり目立つことがなさそうな平凡な男。


 周りに興味がないのか、それとも面倒なのか、疲れきった表情で真っ直ぐ受付に向かっていく。


「あの男の子は?」


 近くにいた冒険者に話しかけると、その男は眉間にシワを寄せた。


「あいつはリエルだ。最近街に来た新人で、まだF級。ポーターとして色々なパーティーに参加していること以外、全く知らん」


「へぇ……」


 興味を持った。少年と受付嬢のやり取りを、そっと観察する。


 しばらく受付嬢と何やら話した後、少年が取り出したのはゴブリンの魔石と――シルバーウルフの魔石だった。


 シルバーウルフ。討伐推奨はE級、群れになるとD級。


 冒険者の階級と討伐推奨階級は、A〜G級まであり、才能がない普通の冒険者はD級で止まる。


 そして、一つの階級の差は大きい。


 F級の彼が一つ上の階級のE級を倒す。それもパーティーではなく、いきなりソロで。


 周りの反応を見る限り、どうやら彼はシルバーウルフを初めて倒したようだった。


「面白い」


 ワクワクした気持ちを抑えられず、口角が上がる。すると、殺気立った様子の彼の鋭い視線がこちらを向いた。


「足りない……ッ」


 悲しげで、それでいて悔しそうに。そう呟いた少年に、冒険者たちは皆、緊張した面持ちで息をのみ、私はその殺気に笑みを深めた。


 何が、足りないのだろうか。


 少年は、何を求めているのか。


 ただ、あの獲物を狙う獣のような目を見た瞬間、背中に電流が流れたような感覚が走った。


 永遠にも感じてしまうほどの沈黙の後、少年はギシギシと音がなりそうなほど力強く拳を握り締め、殺気を霧散させた。


 剣呑な雰囲気がなくなったことに、ホッとした空気が流れ、賑やかさを取り戻していく。


「今から森に行ってきます」


「落ち着いてください!」


 歩き出そうとする少年のローブの裾を、慌てて受付嬢が掴む。


 唖然とする冒険者を横目に、私は薄く、薄く微笑んだ。


 ボロボロで血だらけのローブを纏い、虚ろな目をする彼はかなり無茶をしたようで、すでに体力はほとんど残っていないように見える。


 だけど、迷いのない強い意志を感じさせる声色で、危険な夜の森に一人で……。


 今まで生きてきた中で一度も味わったことのない感覚。心臓が高鳴り、身体が熱くなる。



「そうか、彼は私と――――同じなんだ」



 強さへの渇望。求める強さは誰にも負けない圧倒的なもの。


 自分の限界を超えようと足掻き続ける。


 自然と笑みがこぼれる。久しぶりに感じる高揚感に、心が踊るのを感じる。


 静かに席を立ち上がり、私は火照った体を冷ますために、少年と受付嬢のやり取りを背中に、外へと出た。



やっと、勘違いまで出せたー。


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