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1 できちゃったよ、おい


「は、ぇ……」


 腰を抜かしたのか、それとも疲労のせいなのか。


 立ち上がろうとしても体に力が入らず、へたり込んだまま俺はゆっくりと視線だけを横に動かす。


 そこには、頭部に矢が深々と突き刺さった白銀の毛皮を持つ魔物、シルバーウルフが血溜まりの中で息絶えていた。


 えーっと、落ち着け。



 なんで〈転送〉から矢が飛び出した……?



 いきなりシルバーウルフに襲われ、弓矢で牽制しながら逃げまわり、それも長く続かず、矢が切れた。


 それでも、物体を転移させることができる〈転送〉を使い、矢を回収することで、なんとか戦い続けた。


 その後、しびれを切らしたシルバーウルフが突進してきて……。


 焦りながら放った矢はシルバーウルフのすぐ真横をすり抜けた。


 そして、無意識のうちに矢を回収しようと、外した矢に手を伸ばし、


 その瞬間――――手元に〈転送〉された矢がそのまま、目の前まで迫っていたシルバーウルフの頭を貫いた。


 らしい。



「……いや、意味わかんねぇよ」



 俺はまだ震える足を動かして立ち上がり、頬についた血をぬぐう。


 返り血でずいぶんと汚れてしまった。街に戻ったら、服を買い換えなければいけない。


「にしても、さっきのは……」


 色々と疑問を浮かべながら、シルバーウルフを手早く解体し、魔石や牙など売れる部位だけ回収。


 おお、矢はほとんど使い果たしたけど、その分お金になりそうだ。


 そうして少しだけ元気を取り戻し、少し離れた巨木に登ろうと、手を掛ける。


 枝もしっかりしていて折れる心配は無さそうだし、これなら登れそうだ。


 枝をつたい、ヒョイっと登る。


 鬱蒼とした森の中、コケだらけの地面の上に横たわるシルバーウルフの死体を見下ろし、フードを目深に被る。


 光はわずかな木漏れ日だけで、薄暗い。


 この状況では深緑のローブが自分の身を隠してくれる。


 安全を確保することができたところで、さっきの出来事をもう一度思い返してみる。


 普段はポーターとして他のパーティーと依頼を受けている俺にとって、シルバーウルフの単独討伐は当然、ほぼ不可能。


 それを可能にしたのが、〈転送〉による不意打ち。


 言ってしまえば、偶然。


 だが、一つだけ気になることがあった。



 〈転送〉は、そこまで便利な能力ではない。



 冷静に考えると、矢の回収すらもできないものであった。


 スキル【空間魔法】。


 その『アーツ』と呼ばれる技、〈転送〉は手で持っている物体を目に見える範囲で転移させることができる。


 しかし、【火魔法】の〈火炎球ファイヤーボール〉のような単純な放出系アーツと違って、消費魔力が多く、扱いが難しい。


 そのため、手で触れずに地面に落ちている矢を回収したり、放った矢を空中で〈転送〉し、自分の目の前に出すような器用なことなんて出来るはずがないのだ。


 でも、実際できたわけで。


 あの時は必死だったし、ほぼ無意識下ではあったが。


「新しいアーツでも獲得した、とか……?」


 しばらく考え込み、木の根元にある小石に向けて、おもむろに手をかざす。


「〈転送〉」


 アーツを発動し拳を握る。


 瞬間、淡い光が漏れ、手の中にはゴツゴツとした感触。


「……できちゃったよ、おい」


 手を開くと、木の根元にあったはずの小石が確かな重さを持って、そこにあった。



最初は短めなので、今日は5話分予定です。

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[良い点] 面白い! [一言] 地の文とセリフのバランスが良く、読みやすいです!
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