8話「会合」
チャルカがそこに入ったとき、その部屋の中は薄暗く、ヒンヤリとしていた。
その日、チャルカはガーディアンズの会合に出るためハルたちと共にナワリンの都市議会議場に来ていた。
このナワリンに来た本当の理由がガーディアンズの会合に出ることであること、そしてハル、リオ、リリーの3人でガーディアンズのスリートップであることを伝えられたのはガーディアンズ会合の前日のことだった(ハルはリオとリリーにそんなことも伝えてなかったのかと呆れられていた)、初出の情報に驚き、そして非常に困惑した事を今でも鮮明に覚えている。
「何も伝えずに連れてきたなんて、まるで誘拐犯だな」
これは動揺するチャルカを横目にリオがつぶやいた言葉だが、余程誘拐犯呼ばわりされたのが応えたのかその日一日中ハルはぶつくさいっていた。
ナワリンの都市議会議場、すなわちガーディアンズ会合の会場には独特の緊張感が満ちていた。
議席、傍聴席合わせて五千人の収容力を誇るナワリン都市議会議場だが、今日はそのほぼ全てに人が詰めていた、囁き合う声がさざ波のように湧いては消え、湧いては消えていった。
「会合を始めよう」
議長席に着いていたハルが声を上げそう言うと囁き声は消え、議場は水を打ったように静まり返った、ちなみにチャルカの両隣はそれぞれアレクとジェシカが固めている。
「まず皆がここに集まってくれた事に礼を言う、前回から数えて一年と半年、この間に実に多くの事が有った、そして残念ながらその殆どは我々にとって余り良いとは言いにくいものだった、北の都市国家サパタが砂漠に没し、ラマタ国がレストニア教側に寝返った、そして直近ではダルマ国の滅亡」
チャルカは与えられていた予備知識を総動員して話についていった。
サパタはここナワリンよりもさらに北に位置する都市国家、かねてより砂漠化が懸念されてきたがこの前遂に砂漠に没したという。
レストニア教は「カミナルモノ」を神が与えた福音とし、「汚れた世界の浄化」のために世界の滅亡を望む宗教で、ガーディアンズ、そして「カミナルモノ」を人類が打ち負かすべき試練と考えガーディアンズに支援を行っているラマスティア教の敵、「争いの十年」を経て崩壊した宗教体制の二大収束点の片割れだ、ラマタ国は長くラマスティア教、そしてガーディアンズ側の国だったがこの前何が有ったかいきなりレストニア教側に寝返ったという。
そしてダルマ国は言うまでもなくチャルカの故国、彼がいずれ治める筈だった国だ。
「この通り世界は静かに、ゆっくりと、だが確実に崩壊が進んでいる、そして恐らく一手先を行っているのは彼らだろう」
議場のあちこちから息を飲む音がする。
「何も推論だけで話している訳ではない、というわけでここからは専門家に話して貰おう、リチャード・エルメス博士」
リチャード博士が登壇し、話始める。
「今ハルが言った通り、恐らく一手、いや数手先を行っているのは相手さんだろう、これをみてほしい」
画面に映されたのは色んな色で染色された世界地図だ。
「この前、大陥没の爆心地、旧東京にレストニア教の船が入っていくのが確認された、そう、今の人間の技術では旧東京に入ることは不可能だ、実際今まで何人か旧東京への侵入を試みた者が居たが彼等の船はことごとく旧東京どころか旧首都圏突入すら叶わず爆散し、残骸すら発見されていない、つまりは何が言いたいのかというと彼らは旧東京全体に張り巡らされている謎の結界を突破する技術を手にしたと言うことだ」
彼が一息置いたとき、議場に流れたのは完全な沈黙だった。
「だが本題はここでは無いのだ、今度はこちらをご覧いただこう、彼らが旧東京入りする前と後、旧東京付近のカミナルモノの量が増えているのがわかるかね?そこで我々はたまたま捕獲できたカミナルモノの体を検査した、すると」
画面が切り替わる、そこには製造番号らしき数字が刻まれていた。
息を飲む、まさか、いや、有り得ない、しかしチャルカとてわかっていた、こんなものがある以上考えられるのはただ一つ、それは「そう、恐らく彼らは旧東京内部で人為的に製造されたものだ」
「カミナルモノを製造、、、?」
信じられないと言う風にアレクが呟く、無理もない皆同じ思いなのだ。
「そうすると今までの定説自体に疑問符がつく、カミナルモノが製造出来るのであればそれは何故なのか?そこで私は一つの仮説を立てた、大陥没自体人の手によって仕組まれた物ではないかと、そしてその時最初のカミナルモノを作り、旧東京にその作り方を遺したとしたら?それに彼らが技術力をもってさらなる改造を施していたとしたら?恐らく彼らは近く行動を起こすつもりだろう、諸君、決戦は思ったよりも近いかもしれんぞ?」
リチャード博士が降壇した時誰一人として口を開ける者はいなかった、皆今の話を咀嚼する事で精一杯なのだ。
「、、、確かに、奴らは間違いなく行動を起こすだろう」
今まで黙っていたリオが口を開く。
「だがここで何もしねぇ訳にはいかねぇ、そうだな?」
「えぇ、そうね」
問われたリリーはそう答える。
「先程、タイジョンのサクラ女王から連絡が入ったわ、どうやら旧東京結界無効化装置の試作品が完成したそうよ」
「それではそれが量産されれば我々の船に装備して旧東京に殴り込みをかけられるってことですか?」
一人の青年が問う。
「ええ、そういうことね」
どよめきが広がる。
「ガーディアンズの総戦力は戦艦1000隻以上、この数が大挙侵攻すれば旧東京を制圧する事ぐらい余裕よ!」
ジェシカが嬉しそうに言う。
「それともう一つ、この世界を修復するための道具になり得る物がわかったそうよ」
今度は歓声が沸き上がる。
「それはどこに有るんですか!?」
先程の青年とは違う男が問う。
「タカチホよ」