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残響 廻る糸車編  作者: 馬鈴薯
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80話「帰郷」

東京の中心部を少し外れた場所、いわゆる郊外と呼ばれるエリアにその町は存在していた。

中心部を2本の鉄道が横断し、駅前には数本の高層マンションが、そこから少し離れた所には無数の家々が立ち並び、中の上程度の規模を誇っている。恐らく往時は首都・東京都心部のベットタウンの1つとして名を馳せた町なのだろう。

そんな町を春翔は最初空から見つけられるか不安であった、何しろこの町を見るのは実に151年ぶりなのだから。しかしそれは杞憂に終わった。

その町を象徴する一目でそれとわかるタワーマンション、そして隣の町との境目となっていた雄大な大河、これらを見たとき彼はここが自身の故郷だという確信を持ち河にミライを下ろした。

河川敷を横切り、土手の上の舗装された道に出る。

幅は1m位で、歩行者と自転車専用の道だ。かつて彼は勉強に行き詰まった時、何もやることが無いとき、考え事をしたい時などによくここを歩いて散歩に出ていた。

一陣の風が吹く、その香りを嗅ぎ彼はおやと言う顔をした。その風には水に濡れた落ち葉のような、秋特有の香りがしたのだ。

(そう言えば、あの日もこんな秋の日だったな)

大陥没により季節をも崩壊した世界では感じられなかったが、季節とは確かに巡るものだったのだ。

「やっぱり、生命の再生までは無理か、、、」

町を歩きながら呟く、確かに人間はおろか鳩や雀、烏と言った鳥や虫といった生き物を一切見ない。その代わり異様とも呼べる光景が展開されていた。

町には服や靴、あるいは主を失った車などが散乱していた。靴は最後にその持ち主が向いていたであろう方向につま先を向けた状態で何足もの靴が道路に散らばっている。彼はこの光景に失望はしたが驚きはしなかった、流石に飲食店で食べかけの料理までもが残されていたのには驚いたがそれ以外は概ね予想通りだった。

(静かだ、、、誰も居ないというだけで印象とはここまで変わるものなのか?)

どこまでも静かな町に足音を響かせながら春翔は幾度となく辿った道筋を、見慣れた、()()()()()()町の見慣れぬ光景の中を進む。

そしてとある家の前に来たとき、彼は不意に足を止めた。

ゆっくりとその家を見上げる。

モス・グリーンの屋根、白と茶色の塗装、黒い車、間違いなくここはかつての彼の家、彼の帰るべき場所であった。

震える手でドアを開ける(鍵は掛かっていたが魔術で開けた)、玄関に足を踏み入れた瞬間、様々な思いが去来した。

(ああ、、、帰ってきたんだ、、、)

目の前に広がる懐かしい玄関の光景を目にした時、彼はそう思った。そして事実そうであった。

新暦151年9月28日、火神春翔は実に151年ぶりの帰宅を果たした。帰宅にかかった時間は余りにも膨大であり、そしてその間に様々な事が有った。しかしその家にその話を聞いてくれる者は居ない。

「ただいま!」

涙でぐちゃぐちゃになった顔で家に向かって叫ぶ、無論それに応える声は無い。それでも彼は呼びかけ続けた、あの日「行ってきます」を言ったままついに言うことができなかった151年分の「ただいま」を。












































『おかえり』

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