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残響 廻る糸車編  作者: 馬鈴薯
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79話「最後の対話」

紫の地面に鉾が触れた瞬間、凄まじい光が世界を満たし、ハルの視界はホワイトアウトした。

全天モニタ越しにミライの戦闘艦橋を満たしていた光は、やがて濃い霧へとその姿を変え、それが晴れ始めたとき、ハルは自分がミライの艦橋では無い所に立っていることに気がついた。

「砂漠、、、?」

恐らくは本物の砂漠ではなく、誰かが彼の意識に干渉して砂漠の映像を映しているのだろう。

地面に腰を下ろした後、彼はしばらく不思議そうに辺りを見回していたが、視界に1つの岩を認めた時、短く「あっ」と叫び声を上げた。

「あの岩、、、そうか!ここはあのラスコー砂漠か!」

「その通りだ」

「っ!?」

不意に後ろから聞き慣れた、それでいて久しぶりに聞く声が聞こえた。

「、、、チャルカ」

困ったように微笑む彼は、最後にその姿を見た時から全く変わらない姿でそこに立っていた。

「ここに僕を呼んだのは、君かい?」

「ああ、最後に少し話をしておきたくてな」

そう言ってチャルカはハルの隣に腰掛けた。

「それにしてもラスコー砂漠、僕たち2人の旅の終点が起点と同じとはね」

「あぁ、俺たちが初めて出会った場所、、、もう1年位経つんだよな」

「君も色んな面で成長した」

お互い地平線を見つめながら話す、風が彼らの頬を撫でた。

「なる程ね、『糸車(チャルカ)』その名の通り始まりと終わりは同じ場所に有った訳だ、僕等の旅も、大陥没その物も」

「そうだな、得てしてこの世の殆どはそんなもんだ、俺もここにお前を呼び出す過程でそう悟った」

しばらく2人の間に沈黙が流れた。

「あの時」

ハルが静かに口を開く。

「ミライは僕の制御下を離れ、勝手に鉾を投下した、あれは、、、君の意志かい?」

「そうだな、、、確かに、この結末は俺が望んだ物だ。だが、鉾の投下はミライの意志だろう」

「良いのかい?君は儀式に巻き込まれ死んでしまうんだぞ?」

「うーん、、、死ともまた違うかな」

「?どういうこと?」

不思議そうにチャルカの横顔を覗く。

「俺は1度生成されかけた世界の神となった、しかしその世界は俺の始めた儀式によって上書きされ消滅してしまった」

チャルカが立ち上がる。

「無論生成されかけたという事実は残る、俺も恐らく同じ事になるだろう」

「つまり、、、」

「俺が存在したという事実のみを残して消滅するってことだ」

「それに今の俺は世界の理に反した存在だしな」苦笑しながらそう言う。

「世界の理に反したって、、、どういうこと?」

「俺は1度生成されかけた世界の神という側面とこの世界において世界を修復した神としての側面を持っている、無論1つの世界でいくつかの役割を兼任する分には構わないんだが、世界をまたぎ2つの神としての力を有しているとなると話は別だ」

「世界が不安定になり、簡単に世界がひっくひかえってしまうと?」

「つまりそう言う事だ、俺はこの世界に存在してはならないんだ」

「そんな、、、」

すると霧が再び彼らを包みだした。

「もう時間か、、、俺は行かなくちゃならない、アイツの魂も連れて行かなきゃならないしな、、、」

チャルカはゆっくりとハルから離れだした。

「じゃあな!ハル、達者でな!」

「待って!」

チャルカが足を止め、ハルの方に体を向けた。

「チャルカ、、、僕は結局、最後まで君に本当の名前を教えられなかったね」

「本当の名前?」

「うん、もう僕はハルと名乗るのはやめる、僕の本当の名前はハルト、火神(かがみ)春翔(はると)

「カガミハルト、、、」

チャルカはゆっくりと繰り返した後、ニコリと笑って「良い名前じゃないか」と言った。

「うん、みんなが僕の事をなんと呼ぼうと構わない、だけどハルと名乗るのはもうやめる、だから『ハル』も君と一緒に連れて行ってくれ」

少しの間の後チャルカは「わかった」と言って再び歩を進めた。

「チャルカ!僕は君を待ち続ける、君を知る者として、君がこの世界に戻るための軛として、100年、1000年、10000年、何年経とうと構わない!だから、、、だから必ず帰っておいで?」

チャルカはそれに片手を上げて応えた。

やがて霧が深くなり、チャルカの姿は霧に消えた。濃くなった霧はやがて光へと戻り、その光が収まった時、春翔の目の前には懐かしい東京の光景が広がっていた。


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