70話「余興」
「それともここがお気に召さなかったかな?」
嘘臭い笑みはそのままにゆっくりと近づいてくるゲベート、それをキッと睨んで威嚇する。効果は無いとわかっていたが、それが今の彼にできる精一杯だった。
「いきなりこんな所へ連れてきて、一体どういった料簡だ!?」
「そんなに怒らなくても良いじゃないか、悲しいぞ?」
「質問に答えろ、少なくとも話し相手が欲しいからここに連れてきた訳じゃないだろう?」
「んー、、、まあ君に用が有ったとだけ、、、」
そんな事は猿でもわかる、今彼が求めている答えはその「用」の内容なのだ。
「俺が聞きたいのはそんな事じゃない、お前の言う用が何なのか、それが聞きたいだけだ、もっとも正直に言うつもりが無いことはわかっての上だが」
「酷いなぁ、俺そんなに信用無いかな?」
「お前は自分を拘束した人間を信用しろと言われて出来るのか?」
気丈にも睨みながらそう言うが、彼の心は恐怖に苛まれていた。顔こそ笑っているが、この男には得体の知れない威圧感、凄まじい魔力、そして目的のためならば平気で人を殺す残虐さが有った。
事実、彼は両手どころか両足の指まで動員しても到底数えられない数の人間を葬ってきた、それも悪意によってではなく、純粋な信仰心の為に。そこがゲベートの最も危険な所でもあった。
彼は人を殺す事を間違ったことだとは思っていない、それどころかレストニア教の教義に反する者を殺すことはレストニア教の目標の達成を早める聖なる行為だとさえ思っていた。それ故に彼には人を殺すことへの抵抗が無い、並みの人間で有っても彼ほどの数を殺せば感覚が麻痺するというものだが、彼はその信仰心でもって最初から殺人への抵抗はほぼ0に等しかった。
「まあ、そんなに急がないでくれよ」
薄ら笑いを浮かべたまま、ゲベートは近くの椅子へと腰掛ける。
「実は君はかなり丁度良い時に目を覚ましたんだ、、、まぁ、正直3日も意識を失ったままだったのは予想外だったけどね」
そう言いながら彼は何かを操作している。
不意にチャルカの正面にウィィィィィン、、、と言う機械音と共に真っ暗なモニタが床からせり上がってきた。
「1つ面白い余興を用意したんだ、どちらかというと余興の側から寄ってきたんだけどね」
「余興?」
「そう、きっと君も気に入るはずだ、何てったって彼らだからね」
ゲベートはどこか意味深長なことを呟いてモニタの電源を入れた。
チャルカはそのモニタに映し出された物を見て息を呑んだ、そこには彼が慣れ親しんだ物が、彼の相棒の艦であり、彼の相棒そのものであり、彼の乗っていた艦でもある戦艦・ミライがでかでかと映し出されていたのだ。
「ミライ、、、!?」
「そう、彼らはどうやら君を見捨てては居なかったようだねぇ、、、全く、感動的な物だ」
その言葉の真の意味は「面倒な事だ」であろう、チャルカは何故か冷静になっている頭の隅でそう考えた。
「チャルカ君、1つ賭けをしないか?君たちの艦隊約300隻と、俺の艦隊約600隻、どちらが勝つだろうねぇ」
そう言って彼はクスクスと笑って、わざとらしく考え込むようなふりをした後、ゆっくりとこういった。
「そうだな、俺は後者に世界の命運を賭けるよ」




